めぐりめぐって 馬鹿に説明は難しい トビはベッドを使うことなく、壁に寄りかかって眠りに入った。 いつまでも私がいれば警戒を解くこともできないだろう。邪魔するのもあれなので、早々に部屋を出よう。 寝息も聞こえないくらいとても静かに眠っている。何も知らない人が見れば、死んでるんじゃないかと勘違いするくらいだ。 ……もし死なれたら死体はどうすれば良いんだろう? まあ、そんなこと気にしてる暇ないんだけどね。というかラスボス候補がこんなことで死ぬわけないか。 彼を起こさないよう、細心の注意を払って扉を閉める。ノブが軋んでしまうのは仕方ないから諦めた。 とん、と聞き心地の良い音を発てて、扉は閉まった。 摺り足で階段まで走って、出来るだけ小さい音で降りていく。 リビングに漸く辿り着くと、止まっていた呼吸が息を吹き返した。 「じ、死゛ぬー……なんだってこんなことにー……」 ぜはー、なんて喘息みたいな変な音が聞こえる。涙が滲んでくるとか、私どんだけ我慢してたのさ。うええ苦しい。 咳き込みそうになるくらいの苦しさが癒されていく。 危険人物の居ないことから来る安堵の余韻に浸りたかったが、刻々と進む時間はそうもさせてくれない。 主題はトビの件をどう片付けるか。お世辞にも頭がいいとは言い難い私では、なかなか答えは見つからなかった。 未だに頭は混乱状態だ。母さんが帰ってくる前に頭の中を整理しなくちゃ。じゃないとまともに話したりできるわけがない。 さて、どうしたものか…… 〜脳内親子会話〜 わたし「かーさん!空からおじさんが落ちて来たよ!?」 かあさん「あ、すみません、精神科ですか? 娘が可笑しくなって……」 わたし「ぱしへろんだす(^p^)」 〜会話終了〜 ……駄目だな。まともに取り合ってもらえるわけがない。 というかいきなり正直に話したら私が精神病院に投入される未来しか視えない。 うん、ここは真面目な声調でいこう。ネタに走ったりおどけたら信じて貰えなさそうだし。というか私なら何を言われても信じない。 ……しかし、それにしても。 「マトモに喋るのいつ以来だっけ」 ポツリと零してしまった言葉に、己の情けなさから笑いすら漏れてきた。 家族と会話すること自体に緊張するなんて、小学生の頃は考えもしなかった。明らかに私は小学生の時より退化していた。 ご飯の時さえ話したくなくて、たまにご飯抜きにしたこともあった。話しかけられても短い返事しかしなかった。 たまに思いっきり叱られて、兄さんに馬鹿にされて、死にたくなるくらい自分が情けなくなって。 全部嫌になった。意気地なしで、ビビリで、減らず口だけは上手くなる私が。 ……と、そうじゃない。今はトビについての説明を考えなくちゃ。 真面目に説明するとして、どう順序立てるかな。私って論理的思考とか苦手なんだよなあ。根っからの文系タイプだけど。 ……うーん、やっぱり最初は人が倒れてから助けたって言うかな。嘘をついても仕方ないし、それだけならまだ話を聞いてもらえる余地がある。 そこから、その倒れていた人が漫画のキャラだってどう説明するか、だよね。 …………どう足掻いてもその話に繋げる段階で躓くな。常識人なら、誰だって私がおかしくなったと断じるだろう。 ────────────── ポエマーじゃない中学生なんて中学生じゃないよね!!() [*前へ][次へ#] |