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めぐりめぐって
疲労困憊・パニックタイム
「なんで……一日でこんなに疲れなくちゃいけないんだ……」


 ほんっと、世の中って理不尽だなって思う。


 何故引きこもりの私の家の前で、こんな厄介な奴を倒れさせた。ふざけんな神様。
 あれか、日々の堕落に対するお仕置き的な何かか。そりゃ悪うござんしたね。
 だとしても、流石に私みたいな役立たずには荷が重すぎでしょう。


 汗が目に入って痛い。
 腹が緊張でズキズキと痛い。
 心臓の鼓動が激しすぎて痛い。



 まあ要するに、もう死にそうっつー事だった。

 何か飲み物が欲しいけど、そんなことをしている暇はないので諦める。
 今はコイツの容態を調べるのが先だ。


「……顔見るか」


 万が一知り合いだったら嫌だし。
 コスプレ野郎の頭を浮かせて、お面を留めているバンドを外す。

 いとも容易くそれは外れ、彼の顔をさらけ出すこととなる。

 そこには、私の想像も追い付かないほどの顔があった。



「え? は、えぇ? いやいやいや、嘘だろ……」



 ……顔が、トビそのものだった。
 ようするに、うちはオビトだった。





 えーと、うちは一族といえば、美形で有名だよね。

 主人公のライバルのうちはサスケや、サスケの兄のうちはイタチもかなりのイケメンだ。

 人気投票でもうちは一族は上位に食い込むほどなのだから、察してもらえるだろう。
 まあ個人的にはうちは一族は別に好きではないのだが、それは今はどうでもいい。


 右半分がうずまき状に傷ついているが、それでもなお分かる整った顔立ち。
 しかし苦しいのか、眉は寄せられ目元には皺が寄っている。


 私の目の前に、うちはオビトその人が、眠っていたのだ。



「う、うわあ、何これ……はは、どう反応したら良いの……」



 訳がわからなくなって、笑うことしかできなかった。
 しょうがないだろう。混乱して頭がどうにかなってしまいそうだったんだ。

 瞬きしてみても、うちはオビトの顔は消えてはくれなかった。


 ……いや待て名前。落ち着け名前。
 お前の普段使わないお粗末な頭脳を今こそ発揮するときだ!
 まだマスクという可能性があるじゃないか! うん、うちはオビトなわけないよ!




……結果として、コイツは本当にうちはオビトだった。

 マスクじゃないとか何なの? 頭可笑しくなりそうなんだがどうすりゃ良いんだよ。


 ……いや本当に、マジな感じで。
 どうしたら良いのか、真剣に困った。

 こんな二次創作小説にありそうな展開、起こっても嫌なだけだ。




 汗が滲んでくる。呼吸が上手くできない。


 まだコイツをうちはオビトだと信じたわけではない。
 でも、凄く怖くはなってきた。




 仮にだけど、ほんっとーに百歩譲って、コイツがうちはオビトだとしよう。

 だとしたら救急車を呼ぶのはマズイ。こいつが病院の人間を殺してしまう可能性もある。


 いやいやコイツがうちはオビトな訳……ないと思いたいな。
 うん、私、混乱しているらしい。さっきから同じ事ばかり頭の中を廻ってるや。

 落ち着け、落ち着かないとお前の命はこの男に消されるぞ。

 深呼吸をして、なんとか頭が回りだした。


 とりあえずコイツを病院に送るのは止めよう。
 だからといってこのままというのも駄目だろう。コイツは調子が悪いらしいし、放置するなんてとんでもない。

 流石に死なれたりしたら、寝覚めが悪くなる。


……とりあえず、体温計と冷やすものを持ってこよう。

 うちはオビトの顔に再びお面を付けた。
 何と言うか、外したままなのは落ち着かなかった。


 ばたばたばた、と自分でも五月蝿いと思うくらい慌てながら廊下を駆けた。

 まず向かったのはリビング。コンパクトにまとめられた救急セットの中から体温計を取り出し、ポケットに滑りこませた。


 よし、次は冷やすものだな。

 リビングからキッチンへと向かう。
 ウチはリビングとダイニングルームが一緒になっているので、すぐにたどり着けた。

 幸運なことに、氷枕があったのでありがたく頂戴する。

 今度は洗面所に走り、洗面器に冷水を張った。手が真っ赤になるくらい冷たいが、もう少し冷たくしておこう。

 またキッチンに行き、大量の氷をぶちこんだ。
 これですぐには温くならない筈だ。

 小さいサイズのタオルを洗面器に入れた。
 これで準備はオーケー。後は溢さないよう気をつけて部屋へ行くだけ。



 フラグを立てたみたいだったけど、何事もなく部屋に入ることが出来た。

 そろりそろりとベッドの横まで行き、静かに洗面器と氷枕を下ろした。


「ふー。よし、とりあえずタオル絞るか」


 浸しておいたタオルを水から出し、絞りあげる。
 予想以上に冷たくなっていたのでビックリした。手が痛くなってくるくらいだから、相当な冷たさだろう。




 と、ここで私は自分の馬鹿な行為に気が付いた。


 さっきお面つけ直したから、また取らなくちゃいけないじゃないか。



 うわ、本当に何やってんだ私。ついに痴呆にでもなっちゃったか。
 自分のアホさ加減に溜め息を吐いてから、うちはオビトの方に体を向けた。

 うちはオビトには悪いが、お面を取らせてもらおう。

 ごめんなさい、と小さく呟いてから手をうちはオビトの顔へと伸ばした。








 次の瞬間、私は床にねじ伏せられていた。

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あきゅろす。
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