眠りの森の茨姫
02
緯夜には、二つの趣味がある
一つは白龍等、からかい甲斐のある人間をからかうこと。もう一つは、内緒で城を抜け出し城下を歩き回ること
…ある意味悪趣味な趣味ばかりだった
―――――――
煌帝国の帝都は、国力もありかなり豊かである。市場は賑わい、人々は大らかで優しい。国自体は悪評だが、民はどこの国も同じだった
貧民街の方は、わからないが
『おばさん、今日はー』
「おやリナちゃん!久しぶりだね」
『はーい、団子一つお願いしまーす』
「はいはい!」
リナという偽名を使い、行き付けの甘味処にやって来た緯夜。無論、彼女が皇女だということは誰も知らない
因みに、リナという偽名は"昔"の可愛い妹分の愛称から取ったものだった
「―う〜…」
『?』
ふと、小さな呻き声を緯夜の耳は捉えた
一体どこから、ひょいと覗き込んだ先は貧民街へと続く路地。そこですぐ、見つかった。魔法使いそのものな帽子を被った、地面に倒れ伏す長い三つ編みの青年が
『………』
面倒臭い。緯夜の頭にその単語が浮かんだ
―――――――
「ごちそうさま。助けてくれてありがとう。僕の名はユナン、旅人さ」
『旅人ねえ。君ィ、貧民街に足踏み入れるなんてどうかしてんじゃない?』
「ああ、さっきの所かい?何となく入ってみたんだけど、途中で限界になってしまったんだ」
『で、ぶっ倒れたと…』
こいつバカだ。そう確信する緯夜だが、この青年、どこか油断できない。彼が身に纏う不思議な気配のせいかもしれない
「ところで君は?」
『リナ。しがない町娘だよ』
「そうかい…
リナ、君は不思議な人だね」
不意に、青年ことユナンはそう言った。不思議、と言われてもあまりピンと来ない。寧ろどこか不思議なのはユナンの方に思われる
『不思議?僕のどこが?』
「君もわかっているはずだよ。君は元々、"この世界の人間じゃない"ね?」
『!?』
遠慮なく、いきなり告げられたそれは間違うことなき事実。一発で気付かれたことに、思わず緯夜は立ち上がりナイフに手をかけた
「落ち着いて。ほら、まだ団子だって残ってるよ」
面には出さないが殺気立つ緯夜。なのにユナンは慌てることなく、寧ろ団子を勧める程に落ち着いていた
それほど自分の腕に自信があるのか。警戒しつつ、ユナンの隣に座り直した
「さて、君の本当の名は?」
『……練緯夜。この国の第二皇女だよ』
「成る程…皇女様か」
『秘密にしてよ?団子代は奢るから』
「勿論だよ」
ホントかよ。思わずそう聞き返したくなったが堪える。下手に怒らせてバラされては困る
「緯夜…君は不思議な人だ。君からは君自身以外に、もう一つ"違う何か"が感じられる」
違う何か。またもや気付かれていることにますます警戒心が膨らむ。指し示すものは呪符か"本体"の記憶か、もしくはその両方か
そこまで考え、ふと一つの考えが浮かんだ
―まさか。いや、だがもしかしたら
『……まさか、君は…』
「いや。僕は"君のいた世界"は知らないよ」
『あ…そっか』
やはり違った。もしかしたら"同じ世界の人間"かもしれないと思ったが、大外れだったらしい
「緯夜…いや、リナと呼ぼうか。君は"迷宮攻略"に興味はあるかい?」
いきなり、唐突に尋ねられた内容は想像も付かなかったもの。その問に、緯夜の反応は
『……………はぁ?』
だった
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