眠りの森の茨姫 01 時が流れるのは、実に速い。今では先帝となった白瑛・白龍の父が崩御し早六年。9歳だった緯夜は15に、6歳だった白龍は12に。実質的な立場は逆転したが、そんなこと二人(というより緯夜)には知ったこっちゃない。毎日のように鍛練に勤しんでいた 「ハッ!!」 『っと、』 「せいッ!!」 『ほっ、』 威勢の良い声変わりしたばかりの声と、実に呑気且つ余裕な声。木刀と棍棒、異なる得物がぶつかり合う中にそれらが混じる 『はいっと!』 「あッ…!!」 カン、音を立て白龍の手から棍棒が飛ぶ。棍棒を跳ね上げた緯夜は、大きく体制の崩れた白龍の喉に木刀を突き付けた 『また僕の勝ち〜』 「ッ〜!やはり緯夜殿…じゃない、義姉上は強い…」 『いーよ名前で、今誰もいないしィ』 律儀にも呼び直す白龍に、カラカラと笑う緯夜は跳ね上げた棍棒を投げ渡した。僅かに息の荒い白龍に対し、緯夜はまだまだケロリとしている 『少し休もうか』 「いえ、そんな…まだやれます!」 『無理しないの〜。白龍は僕とは違うんだからァ』 「、」 サラリと告げられた違うという言葉。今ならわかるその意味に、少しだけ白龍は表情を歪めた 「……未熟ですね、俺は…未だに緯夜殿から一本も取れない…」 『そりゃあ僕のが年上だしィ?青舜にも勝てない相手に負けるわけにはいかないよ〜』 「呼びました?」 「うわっ!?」 『あ、青舜』 タイミング良く現れた青舜に思わず白龍は声を上げる。元々気配に敏感な緯夜の反応は淡白なもの 「お二人共毎日毎日鍛練を為さって、精が出ますね」 「いきなり驚かすな!全く…」 『ちょうど良かった!青舜、ちょーっと相手して』 「え゙!?」 軽ーく言い放った緯夜に青舜は声を上げた。木刀を手に立ち上がる緯夜から、青い顔をしジリジリと距離を取る 「い、いえ…私は…」 『真剣でも良いよォ?』 「いえ!皇女殿下のお相手など私には勿体のう御座います!!」 『じゃあ命令、相手して』 「どうか、どうかご勘弁を!!」 『問答無用〜』 「白龍皇子ィィイイイッ!!!!!!」 ズルズルと引き摺られながら全力で嫌がる青舜だが、すまん、無理だと白龍は目で訴える。絞首台にでも連れていかれるような顔の青舜から、直ぐに断末魔の絶叫が上がった 「あーあー…」 「フフ…楽しそうですね」 「、姉上!」 哀れに思いつつボコら…相手をさせられる青舜を見つめていれば、現れたのは白龍の姉・白瑛。何が楽しそうなのか、そんな突っ込みはまあ置いといて頭を下げる 「緯夜とは仲良くやっていますか?」 「はい。昔と変わらず接してくださるので…鍛練ぐらいでしか共にいられませんが、良くしてくださっています」 「それは良かった」 『白龍ー、白瑛となァーに話してんのー?』 「!!」 不意に耳元で発された声。いつの間にか、白龍の肩に緯夜の顎が乗せられておりかなり近い、というより密着している。思わぬ距離に、白龍の頬が一発で朱に染まった 「いいいいい、緯夜殿!!は、離れッ…!!」 『あはは、真っ赤ァ〜』 「緯夜殿ッッッ!!!!!!」 離れる緯夜に怒鳴るも、真っ赤な顔では迫力に欠ける。ニヤニヤと実に楽しそうな緯夜に白瑛もクスクスと笑う 『ねー白瑛、白瑛も相手してェ?』 「私ですか?青舜は?」 『もう終わったー』 指差した先にはボロボロに、それはもう無惨とも言える程ボロッボロになり昏倒する青舜の姿。何故鍛練で、この短時間でああなるのか。毎度のことながら白龍は顔の筋肉が引き吊るのを抑えられない 「フフ、さすがの腕前…青舜とて"眷属器使い"だというのに」 『白瑛だって炎兄と同じ"金属器使い"だしさ、偶には"迷宮攻略者"とやりたいよォ』 ね、とねだる様子は年相応に見える。中身は子供でないとわかっているが、それでも微笑ましく思えてしまう …内容は全く子供らしくないが 「なりたいかぁ?"迷宮攻略者"に」 「「!!」」 『、ジュダル』 いきなり、本当にいきなり緯夜の背後から現れたのは神官にして"マギ"・ジュダル。背後から半分伸しかかるように、半分抱き着くように緯夜の顔を覗き込む 「神官殿!!馴れ馴れしく婦女子に触れるなど…!!」 『重い。退けやバカジュダル』 「そう、バ…って、え!?」 まさかの暴言に白龍も言葉に詰まる。ヒクリとジュダルの口元が歪むが、離れようとはしない 「なりたいんなら行けば良い」 『ジュダル』 「俺が導いてやるよ。お前の兄貴や、そこの白瑛みたいにい゙ッ!?」 突然、ジュダルが声を上げ離れた。真ん前にいた白瑛と白龍は、緯夜が手にしていた木刀で容赦なくジュダルの背をぶっ叩いたのを目撃した 「ッ〜!!!!!緯夜、テメェ!!」 『重いっつったでしょ。"迷宮攻略"にはその内行くよ、その内ね』 その内、というところを強調し、さっさと緯夜はその場を後にする。後には呆然とする白瑛・白龍と痛みに悶えるジュダルが取り残された [next#] [戻る] |