ほの暗き太陽




「用ってなに?スヴェーリエとフィンにはバレないように来いって……」

「はは!たまにはおめと二人で話がしてぇと思ってよ」

「う、うん?」


ハンナは、ハンナの右肩をばすんばすんと叩きながら豪快に笑うデンマークを心配そうに見上げていた。

彼の笑顔も笑った声も仕草も、普段通りのはずだった。


「ハンナはかくれんぼ得意だったな?」

「まあ好きだけど」

「これから俺と、かくれんぼすっぺ!」

「……え?」


ハンナは彼の提案を疑った。そして、デンマークの笑顔にスウェーデンで慣れた威圧感とは別の何かを感じていた。


「うっし、ハンナが隠れる方だな。そんなら始めっか!」

「ねえ、どうしたのデンマーク」

「おぉそだそだ。勝ったら負けた方に何でも言うこと聞かすってのはどうよ?」

「おかしいよ、今日」



デンマークの指は、異様な強さでの腕に食いついていた。対して彼の表情は実に穏やかで、微笑さえ浮かんでいる。

ただならぬ狂気を放ちながら。




「俺が勝ったら、おめえは俺のもんだ」




コワイ、!

脳は言葉を浮かべるよりも早く「逃げろ、この男から逃げろ」と喚いていた。


「いいな?
んじゃ、スタート!」


デンマークは目を瞑って壁に額を付け、早速カウントを始めた。

弾いたように瞬時に去っていく足音。それはすぐに聞こえなくなり、ハンナの行方は眩んでしまった。



「あーあ……あんま遠くさ行くなって言い忘れたな」









帰る家を間違えた。

ノルウェーは目の前の現実を眺めながら、そして聞きながら、ぼんやりそう思った。


「おぉーい!」


ノルウェーが散歩していた間のこの荒れ様は一体何事だろう。

家の中はめちゃめちゃ、乱暴に開閉されるドアの音や、慌ただしい足音がどこからか聞こえてくる。


「どこだー!?」

「あんこ、いつも以上に喧しい。なじょした」


彼が「あんこ」と呼び止めたその男とは、この家の主であり、先ほどから怒声にも似た大きな声をあげている張本人・デンマークだった。


「ん、帰ってたんけ兄弟。
いやぁ、俺な?ハンナとかくれんぼして遊んでたんだけどよぉ」

「ハンナ?」


不意に気になる名前が聞こえて、ノルウェーは思わずそれを声に出して繰り返した。デンマークは気にせず、「んだ」と繋いで再開させる。


「いっくら探してもいねんだぁ、これが。
なあノル、おめぇ散歩の途中で見かけねかったか?」


ノルウェーは違和感を感じていた。

デンマークの優しげな垂れた目や脳天気な口調や声のトーン、彼の特徴とも言える、そこかしこに。


「……見てねぇけど」

「そっかー、いやあ参ったなハンナには!」


爽やかな青空のような目はどす黒く濁っているようだし、鬱陶しいくらいの脳天気さも、今だけは(焦燥感と言うべきか不機嫌と言うべきか)彼の苛立ちを隠しきれない仮面のように感じるのだ。


「デン、おめえおかしいぞ」

「どこが。俺はいつも通りだぞ?」

「かくれんぼ嫌えだべ」

「……たまにゃあやりたくもなっぺ?嫌ぇなことでもよ」


わざとらしくおどけてみせるデンマーク。しかしノルウェーは訝しげに彼の笑顔をただただ見据えていた。


「へへ、」


やがてノルウェーにはごまかしが利かないと見るや、彼は静かな声で事情を話し出した。


「……ノルには怒られっかもな」








ほの暗き太陽




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