呑まれてく(N)




残っていた酒をぐっと飲み干し、すっくと席を立った。真っ赤な顔のデンマークが、催したのかとケラケラ笑いながら訊いてきたので、盛大に舌打ちをして睨んだ。

これでも優しい方だ。現に身構えていたデンマークはきょとんとしている。今は、そのネクタイをひっぱる時間さえ惜しい。

「……帰る」
「もうですか?」
「ハンナ、家に残してっとなんぼにも落ち着かね」

椅子の背もたれに掛けてあったコートをバサリと広げ着る。独り言のようにスウェーデンが、すっかり心配性の愛妻家になったもんだと呟いた。

確かにその通りだと思うので何も言わず微笑した。ハンナのことは大分昔から好きだったが、まさかここまで自分を変えるとは最近まで思わなかった。

「ノーレ、おかねは」
「あんこに払わす」
「いいのそれ?」
「いいの」

特に自分の飲み代くらいはいける懐具合なのだが、さっき散々絡まれて腹が立ったのでそうすることにした。特に叱る者も居ない。そのまま店を後にした。

「ただいま」
「おかえり、早いね。どうしたの?」
「あんこがうざかった」
「そっか」

早いと言っても日はとっぷりと暮れていて、月は高いところにある。ハンナは入浴を済ませた後だった。

「うわ、なにその大量の!」
「ハンナも好きだべ、酒」
「はぁ好きですけど」
「な。」
「にしても多くない?」
「そっだらごどねえって」

妻は心配だったもののやはり飲み足りなかったので、酒を買って帰った。

酒は主に自身の為だったが、ハンナの為でもあった。みんなの前で「あなた」と呼ばせてからあまり飲み会に出なくなった妻も、酒が好きなのだ。

「うー」
「ねみいかハンナ?」
「んん、まだ飲める」
「嘘吐くんでね。もう目開いてねべ」

ソファに二人仲良く並んで座っての晩酌は、穏やかに進んだがそう長くはなかった。元々ハンナは寝るつもりでいた為、睡魔もとりついており、早くもタイムリミットを迎えたわけだ。

ハンナは上半身をぱたりと倒し、俺の膝でごろごろしている。そんなハンナの体を起こし、軽々と横抱きして寝室へ向かう。

「ソファでなくてベッドで寝らんしょ、ほれ……」
「ノルウェーも寝る?」
「いんや。俺は今から風呂入んねっど」
「そんなのいいよ。いま、寝よう」
「―――んっ、は……」

ハンナからキスされることは酔っていてもあまりない。普段なら嬉しいことなのだが、今は何か様子が違う。

「いつかは嫌……今、側にいて――?」

ああ。彼女は夢を見ている。むかしむかしの夢を。

「寝ぼけんでね。俺がおめぇをひとりにするわけねえべ」
「絶対ね?」
「ああ」
「もう離れたくない」
「ああ」
「約束だよ」

依存しているのは、自分だけだと思っていた。彼女の依存の理由はまだ他にある、何かに重ねられた依存心だとしても、それでも良かった。

伸ばしてきた手をとり、もう片方の手でハンナの頭を撫でる。以前スウェーデンがこうするのを何度も見ていた。ハンナは安堵して微笑み、一筋の涙を流した。再び開いた目はきらきらと輝いていて、息を呑むほど美しかった。

「ハンナ……」
「ん?」

「―――いい?」








蹌踉めく夜夜中








「もっもう私お酒やめる……!」
「ほだに照れんな、昨日のおめぇめんごがったぞ」
「嘘だ嘘だ嘘だ……!」
「またやろうな」
「やんない」
「次は優しくすっから」
「そういうことじゃない」




あきゅろす。
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