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短編小説
4:とっておきの笑顔
 あれからというもの、何かと遥とつるむようになった翔太だったが、このなんともいえない違和感を拭いきれないでいた。

遥はやっぱり思っていた通りの何でもそつなくこなす、気配りのよい人物だったのが、そんな彼が自分のような奴とつるんでいることに違和感を感じていたのだった。

 特に話が上手なわけでもなく、これといった特技もない、仲のいい友人もいないような面白くもない自分だ。

今だって話しかけてくるのは遥からで、翔太はそれに頷くだけで精一杯で、特にそれが楽しいとは感じられない。

しかし、遥はそれに嫌な顔ひとつせずにこにこと笑顔を向けてくれて、それに翔太は毎回顔を赤くするのだ。

 それに・・・。

こないだのことを思い出せば自然と頬が火照って、それだけではなく体までもが熱くなってしまって困る。

あれ以来遥が迫ってくることはなかったが、それでもふとした隙を見てキスされたりして、心臓が休まる間なんてありもしなかった。

「・・・太、翔太。聞いてる?」

「!?」

 そういえば今は放課後の教室に残って、今日の数学の宿題をしているところだった。

慌てて視線を上げれば、少し眉を顰めた遥と目が合う。

「あ・・・悪い」

「僕と一緒だっていうのに、何のこと考えてたの?」

 笑いながらそう言う遥に、翔太は顔を真っ赤にするが、まさか彼のことだなんて言える筈もなく、慌てて教科書に視線を落とした。

それにますます笑みを深くした遥は、そのシャーペンをきつく握り締めた翔太の右手に触れると、驚いて顔を上げる彼の唇をすかさず奪う。

「これでもう、僕のことしか考えられないでしょう?」

 そう嬉しそうに笑いながら言う遥に、翔太はぷるぷると震えながら視線を落とすと、耳まで真っ赤にして頭を抱えてしまった。

「翔太?」

そんな翔太に訝しげな声を上げる遥に、彼は恐ろしい形相で顔を上げると、耐え切れなかったようにガバリと机越しに遥の首へと抱きつく。

「へ?」

さすがの遥も翔太のこの行動は予想できなかったらしく、ぎゅうぎゅうとしがみついてくる彼に呆然とすることしかできなかった。

「・・・クソ」

「え?何て・・・」

「そんな顔で笑ってんじゃねーよ」

 と搾り出すように告げる翔太に、遥は合点が言ったように笑むと、その逞しい背中を撫でてやる。

そう言えば自分が笑うたび顔を赤くするのが可愛いと思っていたけれど、そこまでだったとは・・・。

思わぬ翔太の弱点に遥は唇の端を上げると、そっとその顔を上げさせ、可哀想なほど顔を真っ赤にした翔太のその唇にもう一度キスをしてやった。

「大丈夫、翔太だけにしか見せないから、ね?」

 またその笑顔を浮かべながらそう言う遥に、翔太は本当かよ・・・と恨めしそうな目を向けつつ、しかしいつの間にかこんな独占欲を出している自分に驚きを隠せない。

まさかこんな短時間で人を好きになるなんて思ってもいなくて、翔太は再び近付いてくる遥に、困ったような笑みを浮かべた。

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