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短編小説
5:運命の瞬間※
「(退屈だ・・・)」

 今日は何やら用があるとのことで、翔太は帰りのHRが終わった後挨拶も早々に教室を出て行ってしまった。

付き合いだしてから毎日放課後は誰もいない教室で2人、健全にも勉強会を開いていたというのに翔太はそんな遥との時間を裂くほどその用事とやらが大切らしい。

それが遥は気に食わないのだ。

 最近翔太とベッタリだったせいか、ここぞ!とばかりにフリーの遥を狙って女子達が集まってくるが、それがさらに遥の機嫌を悪くする。

「(ああ!うぜぇなぁ!んな脂肪の塊押し付けてくんなよ!俺は筋肉質の胸がいいんだってーの!)」

顔には微笑みを湛えたまま心の中で悪態をついた遥は、他の男子からすればなんて羨ましい状況だろうか。

しかし残念ながら遥は正真正銘のゲイで、しかも筋肉質で長身の凶悪な顔が好き・・・かは知らないが、現在そんな翔太にぞっこんなのだから、女の子なんて正直目じゃなかったのだ。

どうせならそこで羨ましそうに指をくわえてるお前らを犯してやろうか?という次元だ。

 こんな内心では恐ろしいことを考えている遥も、一応学校では眼鏡の似合う品行方正な優等生で通っているのだから、思っても口に出すなんてこと出来ない。

それを言ったら最後、今後の学校生活に支障が出ると分かっているお頭の回転もよろしい彼は、引きつりそうな顔でどうにか笑顔をキープする。

「(しかし、いい加減教室から出たいんだけど。・・・あ、そうか。こんな時こそ“優等生”を利用しねぇとな)」

どうにかその笑顔を“王子スマイル”と呼ばれる作り笑顔に持っていくと、うっとりとした顔をする女子達に囁いてやった。

「皆の気持ちは嬉しいんですが、僕これから生徒会の仕事があるので・・・。また今度・・・なんて厚かましいかな?」

 顔も良けりゃ声もいい遥に、女子達は腰砕けになりながらこくこくと頷いて、「また絶対今度一緒に遊んで〜!」なんて懸命に声を上げている。

そしてまんまと女子から逃げることに成功した遥は、顔面には“王子スマイル”を、背中には何十もの猫を背負って、そそくさと教室を後にしたのだった。





「翔太はいねーし、かといってこの時間帰れば校門前でまた女どもに囲まれんのは目に見えってしなぁ・・・」

 遥はまたいつかのように屋上で1人、紫煙をくゆらせていた。

屋上から見下ろす校庭は帰宅ラッシュで生徒の波ができ、運動部が部活の準備をしているのが見える。

「ったく、翔太の野郎・・・。俺という素敵な恋人がいながら誰とどこにいってやがる?」

 まさか浮気じゃないだろうなと遥は眉を顰めるが、翔太のあの性格上それは難しいだろう。

「ってか、俺と付き合うのが初めてだって言ってたしなぁ」

あんな可愛い(遥からしてみれば)顔してんのに今までよくバージンで・・・いやいや童貞でいたもんだなと遥はにやけるついでに、つい先日のことを思い出してしまった。

 キスも初めてだったらしい翔太が可愛くてついつい手を出してしまい、結果気絶させてしまったのだが・・・。

「やっべー・・・勃起してきた。・・・あんときの翔太超可愛かったよなぁ」

完全に“王子スマイル”とは程遠い変質者と見間違うほどのやらしい笑みを浮かべた遥は、タバコを携帯灰皿に押し付けると、フェンスを背に腰を下ろす。

カチャカチャとベルトのバックルを外し、ボクサータイプの下着から取り出したオスは完勃ちとはいかないが、大人しい状態とは到底言えないものだった。

「マスかくのなんて久々だな・・・ん、あー早く翔太のケツにぶち込みてぇ・・・」

 下品な言葉を吐きつつ、右手でわっかを作った遥は未だ見てさえもいない翔太の後ろを想像して、オスを育て上げていく。

「舐めたら絶対真っ赤な顔して怒鳴るよなぁ・・・ああ、でも翔太は淫乱だから最後には我慢できずに自分から腰振って・・・んん」

すぐに腹を打つほど勃起したのは、若さ所以か、はたまた想像力がたくましいのか・・・。

どうやら遥の脳内では翔太は大変なことになっているらしい。

「ん・・・っ、翔・・・太!」

 そのせいかはしらないが、怒張したオスの先端からは先走りが漏れ、翔太を想像で犯しながら遥のオスを扱くスピードは徐々に早くなっていく。

「っ・・・」

ぐちゅぐちゅと湿った音は、翔太との結合部から漏れる音にも聞こえ、遥は自分でも異常だと思えるほど早い絶頂はもう目前だった。

「く・・・、ん!」

 結局暴れるオスを押さえつけることも出来ず、どぴゅっと先端から大量の精液を吐き出すと、それは前方のコンクリートにねっとりとこべりつく。

「・・・我ながら良く飛ばしたもんだ」

自分の濡れた右手と、飛び散ったあとの精液とを見比べて、遥は未だ収まりきていないオスをするりと撫でた。

 とりあえずハンカチで右手を拭った遥は、タバコに火をつけ、ぼーっと射精の余韻に浸ってみたりする。

いざ、翔太と致す時に果たして自分は理性が保てるだろうかと笑った遥は、その屋上の立て付けの悪いドアが開いたことに気付かなかったのだ。

「・・・は、るか?」

 搾り出すような声で名前を呼ばれ、はっと顔を上げれば呆然と立ち尽くす恋人の姿が。

「翔太?」

用事はどうしたんだ?と聞こうとして、翔太のやけに赤い顔に首を傾げる。

そして、自分の姿を振り返って・・・ああ!

 下着から顔を出したままのオスはまだ微妙に半勃ちで、しかもそれはさっき吐き出した精液に塗れて妖しく光っている。

そして、右手にはタバコ。

眼鏡は掛けていたが、この際これは関係ないだろう。

 バツの悪い顔をしてみせる遥に、翔太は何を勘違いしたのか、今度は怒りに顔を真っ赤にしている。

「この・・・浮気者!」

と、勘違い発言をした翔太に「タバコはつっこまないのかよ」とプチパニックに陥っている遥はそう突っ込んだ後、背中を向けて立ち去ろうとする翔太の背中を追いかけようとした。

が、下半身モロ出しで校舎内に出た日にはイメージが崩れるどころか、警察のお世話になりかねない。

慌ててパンツを上げる遥に、しかし当の翔太は屋上のコンクリートの上で蹲っていた。

 自分が飛ばした精液を避け、蹲る・・・というか寝そべっている?翔太の傍に寄った遥は、その顔を上げてやる。

どうやら何もないところだというのにこけてしまったようだ。

先日ぶつけた額の傷の横に、また同じような擦り傷を作った翔太に遥は状況を忘れて笑ってしまった。

「可愛いね」

 そう言って蕩けそうな笑みを向ける遥に、翔太は一瞬見蕩れた後、だまされないぞ!とばかりに、眉間に皺を寄せる。

「どうしたの、そんな可愛い顔して。それに用事は?」

それが本当に可愛いと思った遥はそう言うと、とりあえず気になっていたことを尋ねてみることにした。

そもそも翔太が用事でいなくて退屈だったから、ついつい屋上で1人致すことになったわけで・・・。

「待ち合わせ場所に着いたところでメール着て、ドタキャンされた」

 ってやっぱり浮気かぁああ!?待ち合わせってどういうことだ!?

と、問い詰めたいのは山々だが、遥は笑みを浮かべたまま小首を傾げて見せた。

「(翔太は素の俺じゃなく、優等生の皮を被った高遠遥が好きなんだもんな・・・)」

「そう、それは災難だったね」

「・・・まだお前学校にいると思って」

特に追求もせずそう返した遥に、翔太は眉間の皺を増やしてそう続ける。

で、さっき最悪の状況で出くわしたわけだ・・・。

 (遥的に)可愛い顔で睨みつけてくる翔太に、未だ収まりきっていないオスをどうにか宥めながら遥はとりあえず笑顔を張り付かせることはやめない。

「俺邪魔だったみてーだな」

すっくと立ち上がり、シュンとした・・・傍から見れば不機嫌そうな顔で屋上を出て行こうとする翔太に、遥は笑顔を引っ込めると、慌ててその手を掴む。

「君は何を勘違いしてるの?」

初めて見る無表情な遥に翔太はますます眉を寄せ、ちょっと突いただけで泣きそうな顔になってしまう。

・・・まあ、それは遥からしてみればということだが。

「だ、だってお前た・・・っ!勃・・・ててたじゃん」

 尻すぼみに台詞が小さくなる翔太に、遥はそれで?と続きを促すように見つめる。

「その・・・誰かと・・・や、ヤってんたんだろ!?」

まだその給水塔の影に相手いるんじゃねーの?

と続ける翔太に、遥は壮大な溜息を吐いて見せた。

「な、何だよ!?浮気者のお前が悪いんだろ!?」

 遥に睨みつけられて、オロオロしながら翔太はそう言うと、遥は今度はにっこりと微笑む。

しかし、目が笑っていなかった。

「嫉妬してくれるのは嬉しいんだけど、君は僕が浮気をするような男に見えるんだ?」

「だ、だって!お前・・・綺麗だし、優しいし・・・頭もいいし・・・。そもそも俺が好きだっていうのも信じらんねー・・・」

更には拍車を掛けるような翔太のこの台詞に、遥はプチンと何かが切れるのが分かった、が止められない。

「俺がお前を好きだって言うのが信じられないだと?アァ?好きじゃなかったらさっさとヤリ捨ててバイバイしてるぜ?それに、好きじゃなかったら毎日キスだけで我慢して健全に一緒に勉強して・・・嫌われないように努力する訳ねーだろうが!お前は俺の好みのど真ん中ストレートなの!全く、俺としたことがつい最近までお前の存在に気付かなかったなんてどうかしてたぜ・・・」

 捲くし立てるようにそう告げた後、遥はイライラとした様子でタバコに火をつけると、旨そうに煙を肺に吸い込む。

そこまでして、遥ははっとしたように翔太に視線をやった。

翔太は翔太でビックリしているようで、切れ長な目が見開かれている。

「(あーあー・・・振られるだろうな・・・)」

 つい感情が高ぶって、素に戻ってしまった遥は自己嫌悪に大きな溜息を吐くと、眼鏡を外して学ランの胸ポケットに仕舞う。

「悪ぃ・・・俺本当は優等生でもなんでもないし。頭はいいけど、口は悪いし、好きなやつ以外には冷たいし・・・幻滅しただろ?」

愛煙家だし、実は伊達メガネだしと、呆然とする翔太に次々と秘密を暴露する遥の笑顔は痛々しいものだった。

「さっきだって・・・お前がいないと退屈でさ、こないだのこと思い出して1人でやってたの。カッコ悪ぃよな・・・」

 言いたいことを言ってスッキリしたのか、遥はタバコを地面に落とすと、それを革靴の底で踏み潰す。

そしてそのまま翔太の横を通り過ぎていく遥に、翔太は思わず縋り付いて・・・またこけた。

「翔太?お前、実はドジっ子キャラなわけ?」

 寸前で遥が抱きとめてくれたせいで地面とごっつんこするのは免れたが、クスクスと可笑しそうに笑う遥に翔太は瞳に涙を溜める。

「ど、どうせ俺は・・・」

「ほらほら、んな可愛い顔して泣くなって。さっきの俺のアレみただろ?まだちゃんと収まってねーの。お前のそんな顔見たらまた1人で抜かなきゃなんねーじゃん」

軽い調子でそう言う遥に、翔太は抱きつく腕に力を込めると、グスっと鼻を啜った。

「俺・・・不器用で、すぐにこけるし・・・要領も悪くて・・・口下手で、顔こんなだし・・・友達もいなくって・・・だから、だから・・・なんでも出来る遥にすっげー憧れてた」

 たどたどしく語る翔太に、マジでドジっ子だったのか・・・可愛いなと不謹慎にも頬を緩めると、慌ててそれを引き締める。

シリアスなシーンにこの顔はいただけない。

「だ・・・から、遥に好きだって言われて凄く嬉しくて・・・っ、でも、俺・・・こんなだし、遥が本気で好きなわけない・・って」

しかし、翔太の言葉を聞けば聞くほどなんて健気なんだろうと、何度表情を引き締めても、緩んできてしまう。

「ゴメ・・・っ、でも、俺・・・遥がそんなふーに思ってくれてたなんて・・・知らね・・・っ」

グスグスと鼻を啜りながらまだ何を続けようとする翔太の顔を上げさせると、そこには想像通り赤くした目からポロポロと涙を流し、鼻水でぐちゃぐちゃにしている遥の好きな顔があった。

「は・・・るか?」

「だから、そんな可愛い顔すんなって言ってんだろ?」

 ちゅっと半開きの唇に触れるだけのキスをすれば、翔太の顔が可愛そうなほど赤くなるのが分かる。

「俺はお前の顔超好みだし、それにドジっ子は俺の中でポイント高いぞ?」

茶化すような遥に翔太が「ボタンが留めれないくらい不器用なんだ」と呟けば、遥はそれさえも笑い飛ばしてしまった。

「あ、だからカッターシャツ着てねぇのか。学ランの前も全開で・・・ズボンのボタンとファスナーはどうしてんだ?」

今度から俺が止めてやろうか?という遥に、真っ赤な顔で首を左右に振った翔太は、質問に「姉ちゃんが・・・」とボソボソと答える。

それに、まだ見ぬ翔太の姉を羨ましいと思った遥は、猫を取っ払えばただの変態だった。

「・・・で、結局俺が浮気者だっていう濡れ衣は晴れたのかな?」

 蕩けるような笑みを浮かべ、また元の口調に戻った遥はそう翔太に尋ねると、ボンっと顔を真っ赤にしてコクコクと頷かれる。

「ふーん・・・やっぱり翔太はこっちの遥のほうが好きなんだね?」

シュンとわざとらしく項垂れる遥に、翔太は赤い顔のまま首を左右に振った。

「ち、違・・・っ!は、遥はどんな遥でも遥だ、ろ?何でも出来る遥に憧れてっから、つい・・・」

顔を赤くしてしまったという翔太は、実際どんな遥に微笑まれても顔を赤くするんだろうが・・・。

「ならいいけど?あ〜!それから、今日誰とデートしてたんだよ!!!!俺というものがありながら・・・!!!」

 翔太の前では猫を被るのをやめたらしい遥は、さっき飲み込んだ台詞を思い出したかのように問いただしてみる。

それに翔太は首を傾げた後、思い出したかのように携帯を遥の前に突きつけた。

「ね、姉ちゃんだよ!今日の昼突然買い物に付き合えってメールしてきたと思ったら・・・」

見せられた画面には、

--------------------
from:姉ちゃん
sub:今日のデート
--------------------
翔ちゃん、ごっめーん(ノ△・。)
お姉ちゃんレポート提出あったの忘れてた〜!
また今度お買い物付き合ってネ(*´∀`*)
--------------------

と書かれた受信メールが開かれており、どうやら言っていることは本当のようだ。

しかし、それはそれで遥は気に食わないらしかった。

「お姉さんと随分仲が良いみたいだな・・・ボタンも留めてもらってるし?」

なんて嫉妬丸出しの遥に、翔太は何故だか嬉しくなって今度からボタンを留めてもらう約束をしてしまったのだった。

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