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君が好きだから無敵
訪れる危機

いよいよハロウィーンが近づいた、ある日のことだった。


「クラリス、そいつ捕まえて!!」

「え?」


聞き覚えのある叫び声にクラリスが振り向くと、こちらに猛ダッシュしてくるロンの姿が目に映った。


「え、え?」


クラリスは目を白黒とさせた。
捕まえろ、と言った張本人がこちらに駆けてくるのだ。
どうするべきなのかわからず困惑するクラリスだったが、視界の下方にこれまた爆走する大きめのネズミと猫を認めてぎょっとした。


「ちょ、これ・・・・」


目前に迫る小動物達。
だがこれをクラリスがどうすることができるというのか。
とりあえず捕獲する体勢をとったクラリスだが、タイミングを見計らって飛びかかるも空振りだった。
ハツカネズミと猫・・・・スキャバーズとクルックシャンクスは、床に座り込む形となったクラリスを置いて更に先へと消えていった。
クラリスのもとに追い付いたロンがもう、と呆れたように言った。


「クラリス、呪文を使えばよかったのに」

「それ僕の台詞じゃない?」

「そんなことしてスキャバーズが怪我したらどうするんだ」


非難するような目でロンがクラリスにそう返す。
クラリスは何を言われたのか全く理解できないという顔をしてロンを見上げた。


「クラリス、大丈夫?」


異様な雰囲気の2人のもとにようやく追い付いたらしいハリーがやって来た。
ハリーは座り込んでいたクラリスに手を貸した。


「ドラコは相変わらず絶好調だね。クラリス、嫌にならないの?」

「ならないよ。・・・・ロンと付き合えるハリーも大概だと思うけど・・・・」


どこか遠い目をしてぼそりとクラリスが告げる。
ハリーが不思議そうにロンの方を窺うが、ロンはさあ?とばかりに肩をすくめてみせた。
クラリスはそのやり取りを見て乾いた笑いを浮かべた。
2人はそのまま逃げた2匹を追いかけて去っていった。


そしてついに迎えた10月末。
その日は、三年生にとって初めてホグズミード行きを許される日であった。
2年生のクラリスは、この日を、ついに来てしまった、という気持ちで迎えた。
起きて早々、クラリスはドラコのもとへ駆け、ドンと前に立ちふさがった。


「ねえ、行かないで」


ズイ、と顔を寄せて請うクラリスにドラコは一瞬硬直した。
が、直ぐに気を取り直し、クラリスを押しやりながら言葉を返す。


「わがまま言うなクラリス。僕はずっとこの日を楽しみにしてたんだ」

「行かないでっ!」
  

クラリスは頑なにドラコを学校へと引き留め続けた。
ドラコが学校の外に、それも自分の目が届かない場所に行くのが不安だったのだ。
すがり付くクラリスをどうにかしようとするドラコだったが、まるで自分がひどいことをしてるかのように錯覚し思わず深いため息を落とした。


「子供じゃないんだから駄々をこねるな・・・・」

「だって・・・・!だめだよ、ドラコだけじゃ・・・・危ないし・・・・」

「僕だけじゃない。3年生になったらみんな遊びにいっているだろう。それに父上から許可はいただいてる」


しどろもどろに理由を取り繕うクラリスにドラコは呆れながら言い返すが、それでもクラリスはとにかくドラコを行かせまいと腕を引いてごねた。
どうしたものかと困ったドラコに助け船を出したのはパンジーであった。


「ごめんね?クラリス、しばらくドラコを貸してよ。たくさんお土産を持ってくるから」


なだめるように言い聞かせるパンジーに、ドラコはふうと息をついた。
クラリスはドラコ相手だと甘えきってしまうが、パンジーが相手なら大人しく聞き分けるだろう。


「そんなのいらない・・・・」


クラリスは拗ねたように顔を背けた。
観念したのかごねるのをやめ、渋々ドラコの手を離した。


「・・・・ねえ、お願いだから怪我はしないでね?揉め事も起こさないでね?」


その表情からして不承不承であることは明白だった。
ドラコは呆れたように笑った。


「まったく……」


少し前はなんだか萎れて静かだったのに。
落差の激しいやつだ、とドラコはクラリスの頭を撫でた。

クラリスは玄関ホールまでドラコ達を見送りに行った。
集まった生徒はこぞって外へ駆け出していく。
その場にとどまっているのは教師と許可証がないらしいハリーだけだ。


「じゃあみんな、気を付けてね」


心配そうな顔でクラリスがドラコたちを送り出した。
しかし当のドラコはその場に残されてしぼんだ様子のハリーを見て我慢できなかったらしかった。


「居残りか、ポッター」


ドラコはわざと煽るような声音でちょっかいをかけ始めた。


「吸魂鬼のそばを通るのが怖いのか?」


ハリーはその声を無視していってしまおうと思ったが、ドラコの脇からスルリとクラリスがこちらに向かってくるのが見えたので、そのまま足を止めた。


「おはようハリー。見ての通り、今日もドラコは絶好調だよ。嫌な気持ちにさせてごめんね」

「やあクラリス。大丈夫、彼の言うこと、いちいち気にする程暇じゃないから」


そう言葉を交わすと、2人は揃って笑いだした。
ドラコはクラリスのその様子を見て顔を赤くして怒り、力尽くでも引っ剥がそうとしたが、パンジーに腕を引かれそのままホグズミードへ向かってしまった。
クラリスはそんな2人を笑顔で手を振って見送った。


「クラリスはこのあとどうするの?」

「ルームメイトが待ってるから部屋に戻るよ。
課題がいっぱいあるんだ」


そう言ったクラリスだが、ハリーの目に落胆の色が滲んだのに気づきあわてて言い直した。


「あ、でも、難しい課題だから困ってて・・・・。
ハリーもし時間があるなら教えてもらえないかな?」

「なんの課題?」

「えっと、ルーピン先生の、悪魔の植物についての・・・・」


ルーピンの教師としての力量はみんなの知るところで、課題に関しても最低限知らなきゃいけない箇所を限定して用意してくれている。
上級生に聞かなければ出来ないような難易度のものを出すとは考えにくかった。
クラリスが気を遣ってくれていることを察し、ハリーは自分では役に立てないと断った。


「ごめんね、クラリス」

「ううん。僕こそいきなりごめんね。また夜、会えるといいね。じゃあハリー、よいハロウィンを!」

「よいハロウィンを」


そう言って2人は別れた。
クラリスは今度こそドラコがなにも騒ぎを起こしませんようにと祈りながら談話室に戻っていく。


ホグズミードから帰ってきたドラコは、誰から見てもわかるほどに浮かれきっていた。
ペラペラと休みなく喋る内容からして、大きな問題は起こしていなそうだったのでクラリスはひとまず安心した。
ドラコのお土産話はとてもワクワクするようなことばかりだった。
クラリスは楽しそうでよかった、と笑う反面、自分も行きたかったという思いでそっと口を閉ざした。

どこかさみしい思いを抱えたまま、表向きは楽しくハロウィーンの夜をすごした。

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