君が好きだから無敵
2
午前の授業を終え、クラリスとアギは昼食をとっている最中だ。
「うぅ……意外とハードだなあ……」
「移動も大変だしな……」
覚えなきゃならないことの膨大さに2人は揃ってため息をついた。
「ねぇ、食べ終わったら息抜きに外に遊びに行かない?」
「いいな、体動かしたい」
クラリスの提案に、頭ばかり使ってうんざりしてたとこだ、とアギが賛成する。
「あ、じゃあドラコ達も誘って鬼ごっこでもする?」
「どこにいるんだ?」
「さあ」
「駄目じゃん」
首を傾げたクラリスにアギがケラケラと笑う。
「よっクラリス、アギ!」
「アカネ!ジャック、ジキルも」
談笑しているクラリス達に声をかけたのはルームメイトの3人だった。
「ちょうどいいや。
この後、一緒に外に行かない?」
「外?何するんだ?」
「鬼ごっこ!」
明るく答えたクラリスにアカネ達は揃って吹き出した。
「クラリス、お前11にもなってかけっこなんかで遊ぶのか?」
「なんだよ、変?」
クラリスの問に三人はますます激しく笑い出す。
馬鹿にされていることを感じ、クラリスは顔を赤らめ三人を睨んだ。
「おいお前ら……」
「いいぜ、俺たちもやってやるよ」
見かねたアギが物申すのを遮ってジキルが言う。
「久々だな、鬼ごっこなんて……」
「ジャックは足、遅そうだもんな」
ぼやいたジャックにアカネが馬鹿にしたように言った。
「まったくだ。ジャック、ノロノロ食ってると置いてっちまうぞ」
「君たちはまたそうやって……!」
ジャックが2人に食いかかってもジキルとアカネはニヤニヤ笑うばかりだ。
仲いいなぁ、とクラリスは笑ってそのやりとりを見守った。
「……おし、じゃあ行くか」
「校庭ってどこだっけ?」
「適当に行けばつくだろ」
「それじゃあ鬼ごっこじゃなくて学校探検になっちゃうよ」
5人はワイワイと談笑しながら校庭を目指した。
平穏な午後の風景だったが、その場に突如飛び込んできた声にピタリと会話が止まる。
誰かが揉めているようだった。
「サイン入り写真?ポッター、お前写真入り写真なんか配ってるのか?」
「っドラコ?」
「あっ待てよクラリス!」
誰かと対峙している兄貴分の姿を見つけ、アギの制止も聞かずクラリスはドラコのもとへ駆け寄った。
「ドラコ、どうしたの?何やってるの?」
「クラリス!
ポッターの写真をもらってやれよ、今ならもれなくサイン付きだ!」
「僕はそんなもの配ってない!」
不安そうなクラリスを後目にニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて言い争うドラコ。
クラリスは内心ため息をついた。
相変わらず子供っぽいんだから……
「君、やきもち妬いてるんだ」
側で二人の様子を眺めていた少年がドラコに言った。
「ドラコに生意気なこと言うなよ、仮にも年上だぞ」
思わずムッとしたクラリスが言い返すと、その少年に見覚えがあるのに気がついた。
魔法薬学のときにこちらを見ていたグリフィンドール生だ。
「そっちが先に変なこと言い始めたんだ!」
「黙れ、ただ額に醜い傷があるだけのやつに僕が妬くわけないだろ?」
「額に傷……?」
ドラコの言葉を受け、クラリスはさっきドラコと言い争っていた少年を窺う。
なるほど、ハリーポッターか……
しげしげと自分の顔を眺めるクラリスにハリーはグッと眉を顰めた。
「クラリス、サイン入りの写真はもらえたかよ」
そんな中、ニヨニヨ笑いながらクラリスの肩に腕を回してきたのはジキルだ。
「そんなもの配ってないって言ってるだろ!」
「ポッター、かわいい後輩に怒鳴るなよ」
食ってかかるハリーにドラコが言う。
ついにお互い杖を取り始めた。
「っドラコ!」
クラリスは慌ててドラコの服を引っ張りそれを止める。
「止めるなクラリス」
「でも、あの変な先生が……」
「一体どうしたのかな?
誰がサイン入り写真を配っているんだい?」
ロックハートを躱せなかったハリー等を残し、クラリス達は速やかにその場を離れた。
隣を早足で歩くドラコにクラリスが困った声音で言った。
「ドラコって本当に喧嘩っ早いね。ハリーポッターにまでふっかけるなんて……」
「お前もポッターはすごいだとかかっこいいとか思ってるのか」
ムッとして返すドラコにクラリスは微妙な顔をする。
「そんなことはないけど……。別に普通の人だったよね」
「そうだ、あいつはちっとも特別じゃない!
なのにサインだなんて馬鹿みたいだよ」
言葉を濁したクラリスにドラコは満足そうに言った。
ハリーの愚痴を吐き続けるドラコに鐘の音が重なる。
昼休みが終わり、午後の授業が始まる時間だ。
「じゃあクラリス、夕食は一緒に食べよう」
「うん!」
慌てて走って行くドラコにクラリスは大きく手を振った。
「何余裕かましてるんだ!」
「俺達も早く教室に行くぞっ」
アカネとアギに急かされてクラリスはハッと我に返る。
5人は出来なかった鬼ごっこの分も全力で走って教室を目指した。
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