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企画
まっすぐな(藤)
意識の奥底から無理やり引っ張られるような目覚め。
頭の中はもやがかかったようにぼんやりしている。
でも、ここが自分のベッドじゃないことだけはわかった。
まだ目は閉じたまま息を潜めるようにして自分の置かれた状況を確認する。
においから察するにここは保健室のベッド。
身に着けた体操着のざっくりとした感触に、パッと頭が覚醒する。
そういえば体育の授業で貧血起こして倒れたんだったと割とすぐに状況を把握できた。
目を開けるとぐるりとカーテンで仕切られた天井が見える。
横になっているのに感じる妙な浮遊感に顔をしかめながら起き上がろうとすると「急に起きんなって」という声が聞こえた。

「…藤くん」

首だけを声のした方へ動かすと、そこには制服姿のイケメンが、しれっと椅子に座って私の枕元で漫画を読んでいた。
もぞりと藤くんの方へ寝返りを打つと、藤くんは漫画を閉じポイと雑にベッドの上へ投げ捨て、手をシーツについて私の額に手を当ててきた。

「熱はねーな」
「ないよ、ただの貧血」
「ぶっ倒れた時は肝が冷えたぜ。…ったく、具合悪いんなら見学しろよ」
「ごめん、心配かけたね」
「おう」

こつ、と額と額が軽くぶつかる。
至近距離で見る藤くんはとても優しい顔をしていた。
柔らかな唇で私の唇を塞いでくる動作はとてもゆったりしていたので、私もゆっくりと瞳を閉じてその感触がじんわり心に甘く広がるのをじっくり味わう。
唇が離れた。私も藤くんも互いの瞳を見つめあったまま。
笑顔を向けると藤くんもはにかむように笑う。
もういちど唇を重ねようとしたその時、聞き慣れたチャイムの音が私達の動きをストップさせた。

「…体育って三時限目だったよね。これ、三時限目の終わりのチャイム?」
「いや、これから昼休憩。お前四時限目丸々目ェ覚まさなかったかんな」
「もしかして藤くん、ずっとここに居てくれたの?」
「あー、まあな。つか最初から四時限目サボるつもりだったし…」

気まずそうな渋い顔をして、藤くんが口ごもる。
怒ったりしないのに。こういうところが藤くんらしい。
ありがとう、の代わりににっこりと微笑めば、藤くんが安心したように顔を緩める。
いつまでも寝ているわけにはいかないのでゆっくりと身体を起こすと、藤くんがすっと背中に手を添えてくれた。
あたたかな手。しっかりと私を支えてくれる。
藤くんを見上げると、藤くんの瞳があまりにも綺麗で思わず息を飲んだ。

「まだ顔が青いな」

心配そうに覗き込んでくる藤くんの頬へ手を伸ばす。
指先が冷たくないといいのだけれど。

「気分悪いのは治まってるんだけどな」

頬に触れていた私の手の上から、藤くんの手が重なってきて、きゅっと手を握られた。
やっぱり冷えていたんだろう。指先に熱くて柔らかい藤くんの唇が当てられる。

「とりあえず飯食え。俺の分もわけてやっから」
「ん」

食欲は全然なかったけど、藤くんの優しさが嬉しくて素直に頷いておく。
ぎしりとベッドを鳴らして藤くんがのそりとベッドに登ってきた。
あれ、と思って首を傾げる私などお構い無しに、藤くんは私の身体を後ろからすっぽりとその腕で包むような体勢で座る。

「アシタバに俺達の弁当持ってきてもらうよう頼むから」

制服のポケットから形態を取り出した藤くんは、私にも見えるように手馴れた様子でアシタバくんにメールを打つ。
文面は“おれと名前のベントーもってきて”。
いつもの究極に無駄の無い漢字変換すらろくにしない適当メールだ。
メールを送信し終えると、パチンと音を立てて携帯を閉じ両腕の拘束を少し強めて私の肩に顔を乗せてきた。
首筋にかかる吐息がくすぐったい。
甘えてくる、というよりも、不安からの行動かもしれない。

「そんなに心配したの?」
「………るせー」

小さく呟かれた言葉には藤くんの本音がありありと含まれていて、藤くんに真っ直ぐに想わていることを実感した。



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ヒロ様リクエスト
後ろからギュッとして肩にアゴをのっけるでれっでれの、べったべたの藤。
でした!
ハデス先生は何処へ!?という疑問は持ったらダメですよ。
きっと藤くんに追い出されたんでしょう。ええ絶対。
ヒロさま、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします♪
いがぐり

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