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企画
確かな気持ち(長編銀さん)

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※EDGE OF THIS WORLD本編の17〜31話の間のどこかの話です。
※短編の年上女中と熱愛中の沖田が出てきます。
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「よぉ姉ちゃんかわいいじゃねェか、二人きりで茶でもどうだ?」
「ごめんなさい、結構です。私には大事な人がおりますので」
「んだとテメェ、この俺様が誘ってやってんだぞ!」

買い物中に運悪く、名前は昼間から酒の匂いをぷんぷんさせた柄の悪い男に絡まれてしまった。
名前は人通りの少ない道を見回し、その場で大声を出そうか走り去ろうかの判断を下そうとした正にその時、

「アンタ旦那んとこの。なにしてんですかィ、この男は?」
「知らない人です」

休憩中だろうか、手に有名団子屋の紙袋をぶら下げた真選組の沖田総悟がひょっこり現れ、名前は心からよかったと息を吐く。
名前の様子を見て、知らない人ねェ、と沖田は男に無表情で温度のない視線を注いだ。

「お、お前は……真選組の……」
「真選組一番隊隊長、沖田総悟でィ。アンタこの人に何の用で? 返答によっちゃ血ィみることになりやすぜ」
「ひ、ひいっ!」

たまたま通りかかった沖田の、その言葉と迫力ある重い微笑みがよほど恐ろしかったのだろう、
男は腰を抜かさんばかりに恐れおののき逃げていった。
あの男は、おそらくか弱い女性に絡むことによって自分が強いと誇示したいだけで、
実際強引なことなどしないであろう小物だと沖田は見たのだが、名前は心の底から安堵し、
それをそのまま笑みに乗せ、信頼と感謝を惜しげもなく持って見上げてくるので、少しこそばゆい気分になる。

「ありがとう沖田くん。私、足がすくんじゃって……本当に助かったよ」
「怪我はねェですかい。いや、かすり傷ひとつでも負ってたら俺が旦那に殺されてたとこなんで」
「まさか、沖田くんは私の恩人だよ」

そう楽しげに話しだした二人を、遠くから見つめる人物がいた。
髪の毛に指を通しがしがしと頭をかきながら、遠くで笑いあう二人を見て、坂田銀時は踏み出そうとしていた足を止める。
名前が男に絡まれ、恋人である自分が助けようとしたその矢先、偶然通りかかった沖田が名前を救った。
銀時はまずホッとした。名前が無事なことに。偶然でも、通りかかって名前を助けてくれた沖田に感謝もした。
しかし今二人の前に出て行ったら間抜けすぎると、出るタイミングを待つことにする。
二人はそんなこと思わないだろうが、自分の恋人のピンチに間に合わなかった情けなさが、銀時の足をその場に縫い付けていた。
もう少ししたら出て行くか。そう思い、二人を見つめる。

銀時の居る位置から、二人までの距離は離れていて、会話までは拾えない。
名前が怯えていたら、情けなさなどかなぐり捨てて、すぐさま名前を抱き寄せにいっただろう。
しかし、今の名前は沖田を見て嬉しそうに笑っているし、
沖田は沖田で、いつものドSな部分など微塵も見せず、名前に微笑んでいる。
心がかき乱された。

「あ、ソコ何かついてますぜ」
「え?」

名前の肩に、いつついたのだろうか、落ち葉の切れ端がついていた。
沖田はそれを何気なく指で優しく払う。
ありがとう、と名前が笑う。いつものように優しく柔和に唇を緩めて。
そこで銀時はくるりと二人に背を向け、無表情で歩き出した。



「ありがとう」と沖田に微笑む名前に、少しだけ姉の笑顔が重なった。
沖田が旦那と呼んで慕う坂田銀時の恋人である名前と沖田の亡き姉のミツバ、
二人の顔も性格も全く違うというのに、どことなくふんわりとした穏やかな雰囲気が、
遠い昔に姉にもらったぬくもりを思い出し、沖田はなんとも不思議な気持ちになる。

「そのお団子、美味しいよね。彼女さんにお土産かな?」
「ああ、そんなとこです。前、旨そうに食ってたんでね」

手に提げた団子屋の紙袋は、一見なんてことなくぶらさげているように見えるが、ずっと気を使って持っているように名前には見えていたのだ。
それと、はにかむように微笑みながら彼女のことを話す表情で、沖田が恋人のことを本当に大事に想っていることがわかる。

「ごめんね、時間取らせちゃって」
「仕事ですからね。けど逃げちまった腰抜け、もう絡んでくるこたァねえと思いやすが、万が一何かあったら旦那か俺に言ってくだせェ」
「うん、ありがとう」

別れ際、綺麗な彼女さんによろしくね、と名前が言うと、沖田は小さな笑みを浮かべた。



万事屋へ帰ってきた銀時は、重いため息を吐きどっかりと椅子に深く腰掛けた。
先ほどの二人の光景が心に張り付き、銀時の胸の中は苦しいくらいの嫉妬にあふれイライラがおさまらない。

がらりと玄関が開く音がした。静かな足音からすると名前だろうが、とてもじゃないが出迎える気にはなれない。
顔を隠すように、デスクに置きっぱなしだったジャンプを大きく広げる。

「ただいま、銀さん」

玄関で銀時のブーツを見たのだろう、部屋にひょこっと買い物から帰ってきた名前が顔を出した。
銀時は窓際の椅子に腰掛け、ジャンプへ視線を落としたまま「おう」と、おざなりな言葉を返す。

「さっき私ね、こわい男の人に絡まれそうになったんだけど、通りかかった沖田くんが助けてくれて、」
「へーえ。よかったじゃん」

そこで名前はいつもと違う銀時に気づいたらしい。
いつもなら、おい大丈夫か、などと心配して駆け寄る銀時だが、
今は目もあわせずどうでもよさ気な返事しかしないのだ。
名前は戸惑ったように小首を傾げつつ、健気に銀時に話しかけてくる。

「普段はサボってばかりって彼女さんが前にボヤいてたけど、さすがおまわりさんだなって思ったよ」
「あっそ。ふらふらしてる俺なんかと違って向こうさんはしっかりした公務員だもんなァそりゃ助けられて嬉しいよな」
「銀さん、どうしたの? どこか具合でも……」
「元気だけど」
「そっか、それならいいんだ」

名前がどれだけ話しかけても、銀時は頑なに顔を上げなかった。イライラしていたのだ。自分自身に。情けない自分に。
自虐の言葉を自分自身に突き刺しても、名前の方が悲しげな顔になる。
チ、と舌打ちすると、自分に向けられていると思ったのか、名前がぴくっとするのがわかった。
がさりと買い物袋が床に置かれる音に、銀時は顔を上げず前方を伺う。
名前が両手をきゅっと握りながらおずおずと銀時の方へ近寄ってきていた。

「そういえば銀さんもどこかお出かけしてきたんだよね、どこに行ってたの?」
「別に、名前にゃ関係ねーだろ。だいたい、なんでいちいち俺の行動名前に言わなきゃなんないわけ」

テレビもついていない室内に、冷たく響いた銀時の声は、
名前の歩みを止めるには十分な威力を持っていた。

「……あ、そうだよね、ごめんね、いちいち行き先なんて聞かれたらいやだよね」

悲しみを押し殺し無理に絞り出したような明るい声に、銀時はハッと顔を上げた。
そこには、何も悪くないのに申し訳なさそうな表情の名前がいて、違う、と銀時は椅子から立ち上がる。

「今夜はね、少し肌寒いからシチューだよ。たくさん作らなきゃ」

名前は銀時に微笑んでから、ゆっくり銀時に背を向けた。
細い肩は、よく見ると細かく震えている。
きっと自分の言い方で不愉快にさせてしまったんだと、銀時に知らない内に何かしてしまったのではないかと、
強く自分を責めているに違いない。
嫌われてしまったのではと、心配しているに違いない。

たった一人、事故によって突然この世界に飛ばされてきてしまった名前は、
混乱と動揺、その心細さを必死に押し込めて、心配かけまいといつも笑っていた。
いじらしく、少しドジで、心が綺麗で、どこまでも優しく、笑顔がとびきり可愛い名前に恋をした。
最初からこの恋は、身を削がれる様な辛さの中に飛び込むようなものだとわかっていた。
お互い、苦しむことは目に見えていたのに、名前を愛することを止められなかった。
恋仲になりたての頃は、いつも名前が自分の元から突然去っていってしまうことに怯えていた。
名前の幸せが元の世界にあるのなら、戻してやろうと思った。
けれど、本当は手放したくなんてなかった。勝手だと思う。

名前の生まれ育った世界へ、両親へ、親友へ今生の別れを告げた時、名前はさぞ辛かったろう、
それなのに、銀時と共に生きていけることを幸せだと言ってくれた。
一生愛し、大事にしようと強く思った。今だってそう思ってる。
それなのに、今自分は何をしている?

心の余裕は大事だ。今では名前が突然消えてしまうことに怯えることはない。
だからといって嫉妬のままに、名前を傷つけていいわけではない。
銀時はたまらず、その泣きそうに見える名前の背中に手を伸ばすと、ぎゅっと名前を背後から抱きしめた。

「………俺、見てたんだわ」
「……………何を?」
「名前が沖田くんに助けられるトコ」

二人の笑顔に胸がざわめいたこと、肩に触れた沖田の指に苛ついたこと、楽しげに話す様子に嫉妬したこと。
何より、名前のことを自分で助けられなかった悔しさ、
それらのことで、あろうことか名前に八つ当たりしてしまったことを心から詫びる。

「新八や神楽が名前に触んのとは違うんだよ。俺以外の男に触られたくねェ」
「うん、私も触れられるなら銀さんだけがいい。でもあれは親切でしてくれたことだから」
「てめーがそんなに器のちっせェ男だったとは思わなかったぜ。んなもんわかってるってのによ」

名前の首筋に顔を埋める様に、銀時は顔を伏せる。

「悪かったよ名前、すぐ助けにいけなかったくせに、馬鹿な嫉妬しちまって。冷たくしたこと許してくれ。何でもすっから」
「でも、沖田くんがもしいなかったら、銀さんが私のこと助けてくれたんでしょう、
 それに、銀さんは、それだけ私のこと……すきでいてくれてるんだよね、だから、さっきは悲しかったけど、怒ってはいないよ」

腕の力を緩め、自分の方へ振り向かせた名前の頬を両手で挟む。
真摯な瞳で銀時を見つめてくる名前としっかりと視線を絡ませあえば、
こんがらがっていた気持ちが綺麗にすっと解けていくのがわかった。
銀時の情けない部分も駄目な部分も全て、名前は受け止めてくれる。

名前の肩に手で触れた。すっとその手を下へと滑らせゆっくりと腕をなぞり、華奢な手を握る。
「ごめんな」と、手をすくい上げるように自分の口元へ引き寄せると、
白く美しい名前の手の甲に唇を押し当てた。
そんな銀時の額に、名前の柔らかな唇が降ってくる。もういいよ、と言ってるような感触だった。

「愛してっからな、名前。情けねェ男だけど、それだけは誰にも負けねえ」

うん、と嬉しげに微笑んで、名前も銀時と同じように、
「私も愛してるよ、銀さん」と二人の間にある確かな気持ちを唇に乗せる。

ここだけは誰にも触らせんなよ、と銀時は名前をしっかり抱き寄せその唇に口付けた。




□長編銀さんで散歩か何かの帰り道、遠くで悪漢に絡まれてるヒロインが視界に入って助けようと走り出そうとした銀さんだけど、
 一足先にヒロインを助け出したのは向こう側の通りから現れた総悟で
 それに嬉しそうにお礼を言うヒロイン(総悟に助けてもらったのが特に嬉しいというわけじゃなくて悪漢から助けてもらってホッとした表情)
 と嬉しそうに答える総悟(こちらもヒロインに会えて嬉しいという変な意味じゃなく
 無事でよかったですねぃみたいな友人に見せる笑み)に何故か動けず2人を見つめるしかない銀さん。
 2人の話し声はその離れた距離や行き交う人たちで聞こえず、悪漢に触られたヒロインの肩が少し汚れているのを見つけた総悟が手で払ってやる仕草や、
 それにまた微笑むヒロイン(クドイようですが汚れを払ってくれてありがとう、という友人に見せる笑顔)に、
 アイツら知らねー奴らには恋人に見えんじゃね?、なんて一瞬考えちゃったらモヤモヤして2人に顔を合わすこともしないで銀さんは一人、
 万事屋に帰ってしまう。(2人は銀さんに気づいてない)
 「旦那ならアイツらぶっ殺してたでしょうねィ」とか「そのお団子、彼女さんに?」なんて話しながら総悟に送ってもらって
 帰ってきた万事屋にいた銀さんに総悟に助けてもらった旨を話すけど、
 「ふーん」「へぇ」みたいな生返事で明らかに不機嫌でヒロインは首を傾げる。
 不機嫌な銀さんにヒロインは私何かしたかな、と戸惑ってしまったのを見て、当たって悪かったなぁ…という思いで、
 カッコ悪いっていうのも承知しながらおずおずと銀さんは話し始める。
 自分がヒロインに愛されてることも分かってるし、総悟にも心底愛してる女性(屯所の女中さん)がいるのも知ってるのに、
 2人に何もないことなんて理解しているけど、ヒロインに触るのは自分だけで、
 ヒロインを助けるのは自分じゃなきゃ嫌なんてそんな子供っぽい理由で嫉妬してこんなにもイライラしてる自分に更にイライラして…。
 ラブラブで終了という切甘…ですが、オチはお任せ。

小百合さまよりいただいたリクエストでした〜!
切甘には程遠い、銀さん即効で謝ってしまう話になってしまいましたが、
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
素敵なリクエストをどうもありがとうございました!

2015/11/19
いがぐり

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