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企画
安心できる場所(長編銀さん)
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※時系列バラッバラです。こちらの都合によって原作の流れにヒロインが居たり居なかった頃の話だったりしてます。
※神楽が眠れない話、アニメオリジナルの定春と入れ替わった話、が入っております。
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「眠れないアル」

そう言って、神楽が真夜中に銀時を巻き込むようにして眠れない地獄に引きずり込んだのは、名前がこの世界に来る前のことだ。
あれは最悪だったと、銀時はその時のことを思い出しつつ、隣ですうすうと寝息を立てる名前の額に頬を寄せ、気持ちのいい眠りに戻ろうとする。

「眠れないアル」

こんな空耳が聴こえるくらい、リアルに以前の記憶が蘇ってしまった。そう思いたかった。
しかしどうやら残念なことにこれは空耳ではないらしい。

「銀ちゃん、名前、眠れないネ」

重たい瞼をなんとか開き襖の方を見ると、神楽がほんの数センチの隙間から血走った目で銀時を見つめていた。
そう、まるであの時と同じように。
自分達がたまたま裸でなくて良かったと銀時はほっと胸を撫で下ろしつつ「静かにしろ、名前寝てんだろ」と神楽に言えば、
神楽はじとっとした目つきで銀時と名前が寄り添うようにして眠っていた二組の布団を見つめ、そして名前側に無言ですすすと入り込んできた。

「名前の布団はあったかいアルな。それに銀ちゃんのオッサン臭い布団と違っていいにおいがするネ」
「悪かったなオッサン臭くて」
「いつも銀ちゃんにくっつかれて名前は臭くないアルか。今まさに悪夢とか見てるかもしれないネ」
「名前のこの幸せそうな寝顔みてから言えクソガキ。いいから寝ろ。背ぇ伸びねーぞ」
「うん」

やれやれ、と銀時は名前の寝息に誘われ再び心地よい眠りに着こうとする、が。

「やっぱり眠れないアル。ねえ銀ちゃんしりとりしよう」
「夜中にすることじゃねぇだろ」
「せっかく人が遊んでやるって言ってるのになんだヨその言い方は」
「神楽ちゃん今遊ぶ時間帯じゃないからね。普通みんな寝てる時間だから」
「ねえねえ、銀ちゃんってクラスに好きな子とかいるの?」
「誰にも言うなよ、実は名前なんだ……って修学旅行の夜の会話かよ!」

んん、と名前が小さな吐息をこぼした。
やべ、と思ったが遅かった。「あれ、神楽ちゃん……?」といつの間にか隣にいる神楽のほうを振り向き、にこっと目をしょぼしょぼとさせながら微笑む。

「眠れねぇんだとよ」
「そっかあ、じゃあホットミルクでも作ってあげようか? 飲んだら眠れるかも」

ゆっくりと銀時の腕の中から抜け出した名前の作ってくれた蜂蜜入りの甘いホットミルクを飲んだ神楽は、
あれだけ目が冴えて銀時に絡みまくっていたことが嘘のように、飲み終わるなりころりと眠ってしまった。

「まだまだガキだねぇ」
「ふふ、そうだね。それじゃあ私達も寝よっか、銀さん」

再び銀時の腕の中に戻ってきた名前の身体を抱きしめる。幸せをかみ締めながら、薄闇に目を閉じた。そして数分。
いつもはするりと眠りに落ちるというのに、今日はそれがひどく難しいことのように思えてきた。
じわじわと(あれ、どうして俺眠れねえんだ?)という焦りが出てくる。
この感覚はたまにある。眠らなければと思うほど、ますます眠れなくなっていくアレだ。
考えれば考えるほど裏目に出る。名前を起こしてはならないと、身動きひとつ慎重になる。余計眠れない。悪循環だ。

「……銀さん、眠れないの?」
「お、おう、名前もか?」

うん、と名前が笑う。
おそらく、名前は眠れないというより、眠れないでいる銀時の焦る気配に気付き、心配してくれているのだろう。

「膝枕してあげようか」
「いやそれ嬉しいけど、名前が眠れねぇじゃん」
「銀さんが眠ったら、すぐ私も横になるから大丈夫だよ」

眠いだろうに、名前はゆるりとした笑みを浮かべながら銀時の為に上半身を起こしてくれた。
銀時は素直に名前の柔らかな腿の上に頭を乗せる。
呼吸するたび動く名前の上半身。そのリズムが心地よかった。
この場所は、いつだって銀時を安心させてくれる。
以前、銀時と定春の意識が入れ替わってしまった時も、名前はこうして膝枕をしてくれた。



それはある朝のことだった。何の前触れもなく、本当に突然、いつもの日常が別の日常に変わった。
最初は寝ぼけているかと思った。目覚めたらいつもの和室じゃなかったからだ。押入れの下。いつも定春が眠ってる場所だった。
名前は台所で朝食を作っているのだろう。トントントンと包丁でネギか何かを刻む音がしていた。

平凡な朝。だけどもなにかおかしい。何もかもおかしかった。
違和感と、そして嫌な予感と共に和室へ行くと、息が止まるかと思った。そこに、自分自身、坂田銀時が気持ち良さそうに眠っていたからだ。

自分自身の眠る姿に愕然とした直後、よりによって定春の姿になってしまったと気付いた時、混乱は最高潮に達した。
それから銀時(定春)の身に、次々と衝撃的なことばかり続く。

中身が入れ替わったことに気付かず、いつもの調子で布団に銀時の姿で定春に思い切り粗相され、神楽や新八にそのおかげでとことん軽蔑された。
朝食準備中の名前に気付かれる前に元に戻ろうと、中身が定春である自分の身体と共に階段をダイブしたが、痛いだけで元に戻れず、
定春を追いかけた先で桂と会って強引にモフられたりと散々な目にあったわけだが、
そんな努力も空しく、万事屋に戻ってもまだ定春のままだった。
打ちひしがれながら今後のことを心配していると、朝からまともに顔を合わせていなかった名前がいつの間にか横にいて、
じいっと銀時、定春を順番に見つめたかと思うと、そっと定春姿の銀時の方に抱きついてきた。

「ねえ、間違ってたらごめんね。あなたは……銀さん?」

何せ喋ることができないのだ。気付いてもらえなくても仕方がない。
しかし、定春と中身が入れ替わってしまったということを、名前だけは気付いてくれた。名前だけが、銀時のことをわかってくれた。

尻尾が勝手に揺れる。嬉しくて、ワン、としか声は出なかったが銀時は名前の問いかけに何度も何度も頷いた。
頷き、顔をなめ、頬に顔をすり寄せる。

「やっぱりそうだったんだね」

銀時の姿の定春は、無邪気な瞳で名前が盛ってくれた山盛りのドッグフードを食べている。

「何かおかしいなあって思ったんだ。原因はなんだろうね。あ、でもきっと大丈夫だよ。焦るのもなんだし、少しゆっくりしよう」

ね、と言って、名前は銀時を和室に手招きした。
名前がやってくれたのだろうか、定春が粗相した悪夢のような布団は何処にも無く、換気のためか窓が全部開かれていること以外、
何事も無かったかのように和室はきちんと片付けられている。
名前は畳に足を崩して座ると「はい、どうぞ」と微笑んだ。
いつもより何周りも大きくなってしまった頭は重くないかと、そろりと銀時は慎重に名前の膝に頭を預ける。
そっと撫ぜられた時、そのまま眠りに落ちそうになるくらい心地よかった。

名前はいつだって銀時の心を解してくれる。どんな姿でも。どんな状況でも。
早いとこ元の姿に戻って名前を自分の両腕で抱きしめたい。
そう思いながら、銀時はいつの間にか眠ってしまった。
明くる朝、目覚めると自分の身体ではなく、今度は新八の眼鏡になってしまっていたという最悪な事態に再び見舞われてしまったわけだが、
なんやかんやで再び元の姿に戻ることができた。



そういうことがあってか、名前の膝枕には、何があってもなんとかなるだろうという、絶対的な安心感がある。
そして朝。目覚めると、銀時の頭は名前の膝ではなく自分の枕の上に乗っていた。
神楽のくだらない会話に付き合ったりで、いつもより睡眠時間は少なかったというのに、目覚めはとてもスッキリとしている。
横を見ると神楽もいない。
のそりと起き上がり、名前に昨夜の礼を言おうと銀時は台所へ足を向けた。

「名前、さっきまで銀ちゃん膝枕してたでしょ、脚痛くないアルか?」
「うん、全然平気だよ」

さっき、と神楽は言った。
銀時は、聞き間違いではないだろうかと目を見開きながら慎重に二人の会話に耳を傾ける。

「でも驚いたアル。起きたら名前、銀ちゃん膝枕してにこにこ笑ってたから」
「だって神楽ちゃんの寝顔は可愛いし、銀さんも私の膝でぐっすり眠ってくれてたんだもの。なんだか幸せだなあって眠るのがもったいなくなっちゃって、ずっと見てたんだ」
「ずっと? じゃあ名前、膝枕してたの起きてからじゃなくて、もしかして夜からずっとアルか!?」
「銀さんには内緒ね」

優しく神楽に微笑みながら、名前は味噌汁を小皿にとって味見する。綺麗な横顔には、眠たさなんて欠片も浮かべていない。
名前の心のぬくもりに、自分達へひたむきに注いでくれるたくさんの愛情に、銀時の目頭が痺れるように熱くなる。
それをふっと笑って「ったく」と口の中で呟くと、銀時は台所へ足を踏み入れた。

「おいおい、内緒って何」

銀さん、と名前が銀時を見上げ顔を綻ばせる。柔らかな花びらのような笑顔に銀時も小さく笑みを浮かべると、
そっと手を伸ばして名前を抱き寄せた。
挨拶代わりか、銀時は名前をその胸に抱きしめたまま、片手で名前の傍らに居た神楽のまだ纏めていない髪をぐしゃぐしゃと撫ぜる。
その時、玄関で「おはようございまーす」と新八の声がした。
神楽はへへっと笑って「定春にご飯あげてくるアル」と笑顔でぴょこんと台所を飛び出して行く。
入れ替わるように新八が台所にひょいと顔を見せ「おはようございます」と銀時と名前に声を掛け、
見慣れた二人の光景に何を言うでもなく「神楽ちゃーん、おはよう」なんてすたすたと歩いていってしまった。

二人きりになった台所。名前はきちんと着替えているが銀時はまだ寝間着だ。
湯気の立つ味噌汁の、今朝の具は豆腐とネギとワカメらしい。
たまご焼き、海苔、昨夜のおかずだった煮物が温めなおされ後は運ぶだけという状態で用意してある。

「あんがとな、名前。おめーさんの膝枕のおかげでゆうべはよく眠れたわ」
「ふふ、よかった」
「けど名前一睡もしてねぇんだろ、飯食ったらもっぺん布団戻れ。片付けやらは俺等でやっとくから」
「でも、私が勝手に起きてただけだから」
「身体もたねぇぞ」
「でもね、眠くないんだ」

無理すんな、と言っても名前は大丈夫と言って眠らないだろう。
銀時はそれ以上何も言わず、緩みきった自らの唇で名前の唇を塞ぐ。
朝交わすものにしてはしっとりとした長い口付けだった。
銀時の腰に抱きついていた名前の腕が緩められ、手のひらで銀時の身体の線をなぞっていくように、腰から上へとゆっくりと移動をはじめた。
名前の手のひらは、銀時のはだけた胸元、鎖骨、そして肩へと熱を移していく。

「名前」
「……ん? なあに、銀さん」
「目ぇ開けて」

口付けの合間、銀時の言葉に名前はゆっくりと瞼を開けた。
名前は口付けのせいか、瞳がふわふわと潤んでいる。

「そのまま閉じんなよ」

銀時は真っ直ぐ名前を見つめたまま、再び唇を合わせた。
熱を帯びた吐息ごと絡め取るように角度を変えて重ねても、瞳は逸らさない。
名前はいっそう潤む瞳を揺らめかせ、目を閉じることもままならないまま、唇を震わせ銀時を受け入れる。

「これ、すごくはずかしい……」
「いいなコレ。なァ、夜んときも一回ずっと目ェ閉じずにやってみね?」

銀時の提案に、ぶんぶんと名前は顔を真っ赤にして勢い良く頭を横に振る。

「ぜってーイイって。名前ちゃんが見ていいのは俺の顔か身体か、俺が名前に突っ込んでる部分だけな」
「も、もう朝ごはんにしようか。神楽ちゃんたち、きっとおなか減ってるよ」
「いや朝飯よりこっちの話のが大事だって。今日は仕事入ってねぇし、夜まで待たなくていいな。ガキ共がどっか出かけたらやってみようぜ」

にんまりと笑って、銀時は名前の着物越しにやわやわと胸を揉んでくる。

「っ、ごめんね銀さん私、なんだか眠くなってきちゃったかも。やっぱり銀さんのお言葉に甘えさせてもらって、ご飯のあと少し眠らせてもらおうかな」
「あっれー、名前ちゃんさっき眠くないとか言ってなかったっけぇー」

ニヤニヤとした銀時の意地悪な言葉と眼差しに、名前は眉を下げて頬を染め、恥じらいと混乱がぐるぐるまざったような顔になる。
その表情が余りにもかわいらしくて、たまらなく愛しい気持ちで胸がいっぱいになり、銀時はとうとうぶはっと吹き出してしまった。

「じょーだんだって、オラ、とっとと飯食っちまおうぜ。今日は好きなだけ寝てていいから」
「もう銀さん…………大好きだよ」

「知ってますぅー」なんていいながら、銀時は少し冷めかけているたまご焼きの乗った皿をひょいと持ち上げる。
そんな銀時の頬に、名前背伸びして軽く唇を当てた。

「新八ー、神楽ー、飯運ぶの手伝えー」

銀時の声に、ハーイと二人の声が重なる。
たまご焼きを運んでいく銀時の背中に、名前がそっと微笑んだ。
きっと銀時は、名前を寝せる為にわざとあんなことを言ったに違いない。

名前は幸せな気持ちに満たされながら、味噌汁をあたためなおす為にあくびを噛み殺しつつカチリとコンロに火をつけた。




□神楽ちゃんの眠れないアルの話で、眠れなくなった銀さんを長編ヒロインが寝かせてあげて結局一睡もできなくて寝不足だけど、
 朝ご飯作って笑顔でおはようと言うヒロインに銀さんの心がやられちゃう話

□長編銀さんで銀さんと定春が入れ替わった時の話

こちらのリクエストで書かせていただきました!
どちらの話も大好きなので、とても嬉しかったです。
なな様、ふろう様、リクエストどうもありがとうございました!
すごく楽しく書かせていただきました!

2015/10/19
いがぐり

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