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企画
愛を知って(現パロ坂田)
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「年下の男」を読んでいないとちんぷんかんぷんかと思われます。
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「綺麗なところだね」

旅館の部屋に入るなり、窓を開けて風を入れながら、艶やかな髪を風になびかせ嬉しそうに名前が笑う。

旅行に行こう、と顔を突き合せるようにしてパンフレットやネットを見ながら決めた、景色の綺麗な活気ある温泉街は、
有名な神社があったり名所があったり、甘味屋や土産物屋が賑やかに立ち並ぶ、気軽な一泊旅行に打ってつけの場所だった。

それにしても少し張り込んで予約したこの老舗旅館は大当たりだった、と銀時は思う。
まだ色っぽさの残る感じのいい女将さんに出迎えられたからというわけではない。
名前がこの趣のある老舗旅館に着くなり表情が子供のように生き生き輝いたからだ。
年季と気品、それを同時に感じさせる立派な佇まいの老舗旅館は、客へのもてなしも最上級で、
立派な庭園や、細々としたサービスまで全てが細やかに行き届いている。

「銀時、こっちきて。ねえほらあそこ、もう紅葉してる」

手招きされるだけで顔が笑ってしまう。
なんつーかわいさだよオイ。そう恋を知ったばかりの少年のように心を弾ませながら、
銀時は「へえ」とわざと興味なさげに返事し、部屋に用意されていた和菓子をぽいと口へ放り込む。

形の綺麗なTシャツの上にGジャンを羽織り、ネイビーのゆるりとしたパンツを合わせた名前の服装は、
動きやすく、かつ上品で、カジュアルな服装の銀時の横でも違和感無くしっくりくる。
無防備に自分に背中を向けて外を見る名前の姿に、いいケツだよな〜撫でてぇなァ。いや、怒るかもしんねーからまだやめとこ。
そんなことを思いながら顔を緩めていると、くるりと名前が突然振り向いたものだから銀時の心臓がドキリと跳ねた。

「歩き疲れた?」
「いんや」
「どうしてこっちこないの?」
「名前さんの後姿に見惚れちまって」
「ばか」

銀時が冗談を言っていると名前は思ったようだが、本心からの言葉だった。
ゆっくりと立ち上がり、銀時は窓辺で銀時を微笑んで見つめている名前に向かって歩みを進める。

「ねえ、これからどうしようか。また外ぶらつく?」
「つってももう夕方だしなァ」

そう言葉を濁しながら正面から名前を抱きしめた。
日常と離れた場所で二人きりなのだ。普段以上にくっついていたくなるのは仕方ない。

「じゃあ外には行かずに旅館の中でゆっくりしよ。温泉つかりたいな」
「それって混浴だったりすんの?」
「残念、混浴じゃないよ。内風呂も部屋についてるけど二人じゃ狭いかな」
「狭い方が燃えんじゃね? どーしても狭けりゃ俺の上に名前が跨りゃイケんだろ」
「銀時の頭はそんなことばっかり。せっかく温泉宿にきてるんだから温泉入ろ」

ピンと鼻の先を名前の指で弾かれて、銀時は「ちぇ」と唇を尖らせる。
しかし「そういうことは後でのお楽しみね」と、くらりとするような大人の色香を纏う名前の言葉と微笑みに、
たちまち銀時の唇がしまりなく緩んだ。
こういうやりとりがたまらなく心地良いと感じるのは、名前がはじめてだった。



今まで銀時が付き合ってきた女性達は、同じ年か年下の、可愛らしく、手軽で、
お互い恋とは違う、一時の欲や見栄を満たす為だとわかってて付き合うような、そんなタイプばかりだった。
とっかえひっかえ、溺れることも本気で向き合うことの無いまま、恋人という関係をアクセサリー感覚で捉えていたのだと思う。
社会に出てもそれは変わらなかった。
恋人と別れ、なんとなく声をかけてセックスし、相性が良かったら続ける。
そこに欲情はあっても愛情はなかった。名前と付き合うまでは。

名前はどこに居ても自然と人の目を惹くような整った容姿を持っていて、
しかも仕事が出来てさっぱりとした性格だからか社内でも男女問わず信頼が厚く、
スゲー人もいるモンだなと入社当時の銀時はそう感じていた。
ただ、銀時の好みとは違っていた。

二人の会社では入社してから数ヶ月は研修期間というものがあり、だいたい一ヶ月間おきに色々な部署を周って仕事内容を把握していくのだが、
銀時がまだ新人の頃、その研修で名前のいる部署にきた時、
これまでの癖で、一発できたらラッキーという気持ちで口説くそぶりを見せたことがある。
当たり前と言うべきか、名前にはハイハイと適当にあしらわれたが、特にダメージは受けなかった。
日が経つにつれ仲も砕けてきて、たまにからかって遊んだりすると、
いつもクールな名前がムキになる姿を見せてくれることもあって、それが自分だけに見せてくれる顔のようで内心かなり嬉しかった。
そんな自分におやと首を傾げた。らしくない。
なんで年上の、しかも俺のこと鼻にもかけてない先輩のこと何で可愛いとか思っちゃってんの、と不思議だった。

やがて研修期間も終わり、自分の希望した部署へ辞令が出て名前との接点も無くなったのだが、
銀時と同じ大学出身で、この会社でも同期の高杉が名前の部署に配属されることになり、
歩いている時や、ふとした時に、知っている人間がいるとつい目が行くことがあるが、
そういった理由で高杉を見つけると、たまに高杉と一緒にいる名前が目に入ることがあった。
やっぱ美人だよなーと思って見ているうちに、いつの間にか高杉より先に名前に目が行くようになっていた。


なんだこの心臓は、と、名前への恋心を自覚するまでは自分が病気になってしまったかと思っていた。
仕事を離れ、コーヒー片手に同僚と談笑してる気さくな表情だとか、
誰かの冗談に、ぱっと澄んだ青空のように綺麗に浮かべる笑顔を見かけるたびに、
銀時の心臓は強く鼓動を打つようになっていた。
最初はわからなかった。これが、恋だということに。
自分の気持ちにようやく気付いたのは、入社して数年経ってからである。

本気になってしまっていた。自分が今までしてきた恋愛は何だったのかと思うほど、銀時の心の中は名前に占められていた。
けれどどう告白すれば名前が自分を受け入れてくれるかわからない。
日々悩んでいた銀時に、ある日いきなり機会が訪れる。
甘いものでも飲もうと自販機に小銭を入れた時に名前が来たのだ。
指が震えそうになった。自分のすぐ後ろに、名前がいる。
動揺を悟られまいと、銀時は精一杯冷静を装った。
過去の自分が様々な女を口説いてきたように、耳ざわりのいい言葉を吐き、相手に自分を意識させるよう、まるで恋人同士がじゃれあうよう時のような笑顔を向ける。
そんな銀時に、名前が唐突に前髪が触れ合うまでに距離を詰め、吸い込まれるような魅力的な笑顔をにっこり浮かべてきたから驚いた。
心臓が口から飛び出るかと思った。顔が真っ赤になるのを止められなかった。

今まで銀時が被っていた遊び人の仮面が、呆気なく砕けてしまった瞬間だった。



「あーまだおなかいっぱい!」

食事を終えてからしばらく、名前は両手を後ろにつき、足を崩して満足げに幸せそうな笑みを浮かべていた。
旅館でよくある何てことない浴衣だというのに、名前が着るとなんとも艶やかだ。
白い首筋、浴衣から出た足首、そして旨い酒でほんのり色付いた名前の頬が、今すぐ押し倒したいほど色っぽく銀時の瞳に映る。
二人が座ってくつろぐすぐ隣の部屋には、すでにふかふかの布団が二つ並べて敷いてあった。

「ほら」

そう言って、銀時は冷蔵庫に入れて置いた冷えたミネラルウォーターのペットボトルを名前の頬に当ててやると、
気持ちいい、と名前が心地良さそうにひんやりとした冷たさにその瞼を閉じた。
その無防備に微かに開いた名前の唇に、銀時は自分の唇をゆっくり重ねる。
酒に酔わなかった銀時も、名前の火照った唇の吸い付くような感触には思わずくらりとした。

愛しくてたまらない。
過去、セックス前の手順のひとつでしかなかった、できるだけ省きたかった面倒とすら思っていた口付けが、
今では名前の柔らかな唇の感触に確かな幸せを感じ、名前に笑いながら「銀時はキス大好きだよね」と言われるほど、
何度も重ねたがってしまうようになっていた。

今までの自分は何だったのか。
本気で惚れた女性に会えたことで変わったのか、これが元々本来の自分なのか。
名前と付き合いだして、銀時はそう困惑することが多々あった。
独占欲なんてものが自分にもあったとはと驚き、嫉妬という胸が焼け付くような苦しい感情を初めて味わい、
名前をとことん大事にしたいと思った。甘え、甘えてもらえる幸せを知った。
そうしているうち、困惑していたことなどすっかり忘れてしまった。

「俺さ、名前がスゲー好きだわ」
「私もすごーく好きだよ、銀時」
「俺はもっと好きだもんねー」
「ふふ、さっきから思ってたんだけど、銀時の浴衣姿いいね。かっこいい」
「すぐ脱いじまうけどな」
「なんかもったいない」
「そんなら一度目はお互い脱がずにするとか。……あーヤベ、想像するだけで興奮してきちまったんですけど」

それは名前も同じなのか、名前の艶やかな唇から漏れ聞こえていた微かな吐息が、銀時の言葉でぐっと蜜のように甘くなる。
言葉をつむぐのをやめ、濃厚に視線を絡めあった。銀時を求める名前の熱い瞳に、同じくらい熱のこもった視線を返す。

名前の腕が銀時の肩に回されるのと同時に、銀時は名前を床へ押し倒した。




□くずもち様リクエスト、現パロ銀さんと旅行。風情のある旅館、紅葉見渡せる景色のいい部屋、美味しい料理にお酒、お互いの浴衣姿…
□伽椰子さまリクエスト「モヤモヤ」の昔は可愛い系の彼女が居た。と「嫉妬する男」の女に執着するようなヤツじゃなかった。
 の高杉さんの台詞を受けて…坂田さんがヒロインを本気で好きになったのに気付く話。
 今までとは違うタイプだなーと思いつつ、いつも通りな感じでヒロインに告白するも
 付き合い始めてどんどん気持ちと独占欲が大きくなって困惑する坂田さん目線の話。

こちらのリクエストで書かせていただきました〜!
また長々と申し訳ございません。書き始めると止まらなくてですね。
若干、リクエストとずれてしまっていております。すみません。
とても素敵なリクエスト、本当にありがとうございました!

2015/10/07
いがぐり

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