[携帯モード] [URL送信]

企画
★用意 (土方十四郎)
後ろ暗い取引は、夜の闇に紛れて行われることが多い。

飲食店をいくつも持つ大会社が、実は裏で麻薬取引に手を出しているとの疑いがあった。
山崎に調べさせたところ、クリスマスイブのこの日、天人と中毒性の高い極めて危険な薬の取引を行うという情報がもたらされた。

物陰に隠れた隊士達は、現行犯逮捕を狙い全員息を潜め取引が始まるのを待つ。
土方は全員の動きをまとめるため、ギリギリまで近くに停めた車内で指揮を取っていた。

「土方さん土方さん」

運転席にちょこんと座る名前が、声を潜め土方に話しかけてくる。

「なんだ苗字」
「なんで取引場所がこんな海辺の倉庫なんですか」
「…知るかそんなこと」
「私てっきりレストランで外国みたいにスマートな感じで取引が行われると思って張り切ってお洒落してきたんですよ!?」
「間抜けにも程があるな」

苗字名前は真選組の隊士ではない。
土方の書類仕事の補佐をする、事務を担当しているのだ。
なのだが時々土方に車の運転を頼まれたりして現場に出向くことがある。

「つーか何でおめーがお洒落すんだよ」
「逮捕が無事済んだら土方さんにご飯でもおごってもらおうかと」
「残念だったな。ま、海に潜って魚でも食って来い」
「最悪のクリスマスだ!」

目立たないようにエンジンを切った車内は冷え冷えとしていて、まるで冷蔵庫の中のようだった。
名前は冷え切った指先に息を吹きかけながら、うらめしそうに土方を睨む。

「そもそもなんで事務仕事の私が運転なんてしなきゃいけないんですか」
「上司に逆らわねェいい部下じゃねーか」
「ほめられても嬉しくないです」
「じゃあ何だったら嬉しいんだ」
「そうですねー、あったかいごはん、あったかいお風呂、ふっかふかのお布団でぬくぬくしたいです」
「ホテルでも寄ってくか」
「無理ですよ、きっとどこも満室です。なんてったってクリスマスですから」
「じゃ俺の部屋」
「煙草くさいからなー。というか土方さん、さっきからどうしたんですか。今のあなたは私の恋人十四郎さんじゃなくて副長の土方さんでしょう?珍しい」
「さあ、俺も浮かれてんだろ」

向こう岸に見えるクリスマスのイルミネーションに、土方の気分も刺激されたらしい。

「ねえねえ、クリスマスプレゼントは?」
「んなもん俺が用意なんてしてると思うか?」
「思いません」

その時、無線で現場にホシが現れたとの連絡が入った。
土方は素早く刀を手に持ち、名前に掠めるようなキスをして外へ飛び出していく。
普段絶対にこんなことしない土方のその珍しい行動に、これが彼なりの不器用な一年に一度のクリスマスのプレゼントなのかな、と一人湧き上がる嬉しさを噛み締める名前だった。





[*前へ][次へ#]

5/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!