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企画
実感(長編銀さん番外編)

ちょっと辛いかも。

洗い物の最中、貧血と腰の重い痛みが増してきて、思わず手に泡をつけたままへたりと床に座り込んでしまった。
どうやら今月の生理はいつもより重いらしい。
腹痛は早めに鎮痛薬を飲んでいたのであまりないけれど、めまい、そして腰の重み、痛み、違和感がどうしても辛い。

「名前ー……っと、オイどうした」

台所に顔を出した銀さんが、私を見てすごく焦ったように眉を寄せ、
駆け足で私の前にしゃがみこむと、床の上からひょいと抱き上げてくれる。

「病院行くぞ」
「え、ちが、大丈夫だよ、銀さん」
「んな床に座り込んでて何が大丈夫だ、タクシー呼ぶから」
「せっ、生理痛なの!」

顔を真っ赤にした私の言葉に、みるみる銀さんの顔から力が抜た。
「騒いじまって悪い」と心底安心したように眉が下がりへにゃっとした笑顔になる。
すごく心配してくれたんだなあ、と銀さんにまた惚れ直してしまう。

「薬は飲んだんだけど腰が痛くて、でもじきに効いてくると思うから」
「そか。でも顔も青いな、貧血もあんだろ。無理すんじゃねえよ。言ってくれりゃオレが皿洗いすんのに」
「ごめんね心配かけて」

銀さんが私をそっと降ろしてくれる。
足を床につけ銀さんに支えられながら立つと、眩暈はあっても安心していられた。

私の手に泡がついたままなのに気付いた銀さんが、水が出たままの蛇口の下に私の手を導き、挟むようにして洗い流してくれる。
するりと銀さんの手のひらが私の手の甲を撫でていく。すぐに洗剤のすべりはなくなって、手がさっぱりした。
背中に銀さんのぬくもりを感じて、まだもう少し手を洗っていたいなと思う。
私の左肩に後ろから顔を埋めるようにして「重い病気じゃなくてよかったよ」と
銀さんじゃないみたいな、弱々しい安堵の吐息が私の耳をくすぐった。
もしかして、こわかったのかな。私にあまえてる。でも怯えてもいる。
銀さんの方を振り返ろうとすると、こめかみに銀さんの唇が当たって、それ以上振り返ることができなかった。
顔を見られたくないのかな。

背中のぬくもりが離れて、銀さんがタオルを手に取った。
自分の手を拭くより先に、そのタオルで私の手を包んでくれる。
目の前の銀さんの顔はいつも通りだった。
ぼんやり見開かれた瞳で私の手元に視線を注ぎ、口元は柔らかく微笑んでいる。
幸せだな、と思った。こんなにも優しい人と愛し合って、夫婦になれて。
すっかり水気を拭き取られた私の手を握ったまま、銀さんが目を閉じて指先にキスをした。
わ、童話の中の王子様みたい。
女性なら誰もがきゅんとするようなことを、こうやってしれっとやってのける銀さんだけど、
ふと次の瞬間、自分のしたことに今気付いたように、ちょっと恥ずかしげに頬を染めて笑うのだ。
照れ隠しに鼻先を指で擦って、きょろっと視線を逸らしたりも。
それがとびきり可愛くて、私はまた銀さんにときめいてしまう。

「布団敷いてやっから少し寝てろ」
「でもお買い物に行かないと」
「神楽と新八に行かせりゃいい」
「お夕飯をね」
「俺が作るよ。何食いたい?」

銀さんの胸の中にばふっと閉じ込められる。
うう。こんなとろとろの甘い声でそんなこと言うなんて、心が溶けてしまいそう。

「うどん。ひさびさに、梅干の入ったおうどん食べたいな。いい?」
「りょーかい」
「少し寝たらきっと動けるようになると思うし、お夕飯の後片付けはさせてね」
「ダメー」
「でも」
「悪いとか申し訳ねえとか思う必要ねーからな。でもどーしても俺にお礼したいっつーんだったらチューしてくんない?」
「いつもしてるのにお礼になるの?」
「なるなる」

へらりと笑い、銀さんが冗談めいた顔で唇を突き出してきたものだから、
私はその唇に、迷い無く自分の唇を重ねる。
唇が少し開き、ちろりと銀さんの舌が私の唇を舐める。
くらりとするのは幸せからか、貧血からか。
わり、と銀さんはまた私に謝って、私の身体を横抱きにして和室へ運んでくれた。





□生理痛に苦しむ奥さんと献身的な長編銀さん

のんさんからいただいたリクエストで書かせていただきました!!
あんまり苦しんでいなくてすみません…!!
銀さんならこういうときどうするかな、と考えるのが楽しかったです!
素敵なリクエストどうもありがとうございました♪

2017/07/16 いがぐり

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