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企画
お泊り(坂田)

どうしよう。

あさ起きて、目の前で無防備に薄く唇を開き瞳を閉じて眠る銀時を見て、
そして周囲の雰囲気でここが万事屋だと把握して、途端に私は泣き出しそうになるくらい焦ってしまった。

眠るつもりはなかったのに。銀時の腕の中はふわふわしてて、吸い付くような離れがたさがあったから、
だからつい少しだけ目を閉じてしまったのがいけなかったんだ。
己のうかつさに唇を噛みながら、身を寄せ合うようにして一つの布団の中で眠っていた銀時からそっと身体を離す。
腰に回されていた銀時の腕がするりと敷布団に落ちたが、それでも銀時が起きなかったことにほっとする。
銀時が寝てる間に帰ることができればと急いで身支度を整え、布団の周囲に散らばる昨夜の情事の残骸をまとめていると、
小さな声を上げながらもぞりと寝返った銀時が目覚めたらしき気配に、ああどうしようと、また同じことを思う。

「……んあ、名前?」
「おはよう銀時、ごめん、ごめんなさい私」

まだ半分寝ぼけた様子でゆらりと上半身を起き上がらせる銀時に、
私は畳みにぺたりと正座し視線を合わせながらしきりに謝る。
そんな私を銀時はぼんやりとした瞳でたっぷり見つめてから、いきなりふっと柔らかく微笑んだ。

「なあ、いきなり何謝ってんの?」
「だって私昨日、すぐに帰るつもりだったのに眠っちゃって、
「眠っちゃダメだったわけ? 今日特に用事ないっつってたよな」
「だって朝まで居座ったら迷惑がかかっちゃうのに」
「迷惑って、誰に迷惑がかかんだよ」

ん? と首を傾げて、銀時は唇を触れ合わせるだけの口付けをくれた。
この家には神楽ちゃんがいるから、私は銀時と付き合いだしてから一度もこの万事屋に泊まっていくことはなかった。
銀時が仲間、そして家族として神楽ちゃんのことを大事にしてると最初から知ってるから、
それと新八くんや定春も入れたこの万事屋の空気を、私なんかがずかずかと土足で入り込んで乱しちゃいけないと、
銀時と万事屋で夜を一緒に過ごした時は、夜中には必ず家に帰っていた。
朝に私がいたら困るだろうなと、凄く慎重に銀時と付き合い続けてきたのだ。銀時は泊まってけば? なんていってくれることもあったけど、
それに甘えて、皆に空気の読めないヤツだなんて思われたらこわい。
そんな風に気をつけてきたのに、私はとうとう大ポカをやらかしてしまった。
どうして寝ちゃったんだろう。
銀時も起こしてくれたらよかったのに! なんて責任転嫁だ。寝てしまった私が全部悪い。
でもこんな私を、銀時は咎める事はしなかった。
嫌な顔を少しも見せることはなかった。こんなに駄目な彼女なのに。

「あーもう7時か。お前今日仕事休みだろ、銀さんがメシ作ってやらァ」
「そんな、いいよいいよ、私がいたら神楽ちゃんに気を使わせちゃう。私すぐ帰るから」

私の言葉に銀時は眠そうに半分閉じかかっていた瞼をぱちりと開き、呆れたように唇の端を吊り上げる。
そして私の頭にぽんと手を乗せると、わしわしと力強く撫でた。

「おーい神楽!」

突然、銀時は大声で神楽ちゃんを呼ぶ。
いきなり耳元で大声を出されてひゃっと飛び上がる私を、銀時は眩しいものでも見るみたいに目を細めて笑った。
その次の瞬間、スパンと襖が勢い良く開かれる。

「何アルか銀ちゃん」
「朝メシ、名前も一緒に食うから。俺がメシ作ってる間に定春の散歩行って来い」
「名前きてたアルか! オハヨー名前! 名前は朝はお米派? パン派? ドッグフード派?」
「おい神楽、ウチが普通にドッグフード食ってるみてーに言うんじゃねぇよ」
「ダイジョーブ、ドッグフード食べるときは本当にお金が無いときだけネ!」
「余計なこと言ってねーでさっさと言って来い!!」
「はーい。じゃ名前、後でネ」

二人のテンポ良い会話に、おはようを返す隙も無ければ何派かこたえるタイミングも無かった。
おはようと言いかけてあげた手が、いってらっしゃいのバイバイになる。

「な? 気ィ使ってる様子なんざねぇだろ」

銀時は下着を掴み、座ったまま両足にするりとそれを通した。
筋肉質でがっしりとした脚から、その脚の付け根につい視線を向けてしまう。
男の人だからすねに毛だって生えてるし、下着だって高級なものとは程遠く、洗濯を繰り返し手触りだって柔らかじゃない。
なのにいつも妙に艶かしいのは何故なのだろう。
そのままおへそ、割れた腹筋、広い胸板と視線を上げていく。
おもむろに立ち上がった銀時は、私の不躾な目線に何も言わず唇を和らげたまま後ろを向き、
昨夜着ていた作務衣ではなく新しい着物を素早く身に纏った。
そして座ったままの私を振り返る。優しい笑顔で手を差し出しながら

「何食いたい?」

そう聞いて、優しく笑って私を立ち上がらせてくれた。



「銀時、エプロン似合うね」
「かっこいいだろ」
「ううん、かわいい」
「ここは『銀時イケメン! 超クール』って言ってほしかったな銀さんとしては」

神楽ちゃんはまだ定春のお散歩から帰ってこないし、銀時には座ってていいと言われたけど、
私は台所で銀時の手伝いをするといって、そばにくっついていた。

「卵焼きおいしそ」

年季の入った鉄製の卵焼き器から、ぽんと弾ませるようにまな板に移された美しい卵焼きは、
ふんわりしていて柔らかそうで、とてもいい香りをしている。

「それ適当に切ってって」
「はい。熱いうちに切っちゃっていいの?」
「じきに神楽も帰って来るだろうからな」

銀時は手際よく魚焼き器でぱちぱちと小さく音を立てる鮭の焼き具合をチェックし、
味噌汁に入れる豆腐を手のひらの上でさくさくと細かく切っていく。
私もお手伝いお手伝い、と卵焼きに丁寧に包丁を入れた。
ほかほかと切り口から湯気があがる。
銀時はたまご液にたっぷりのお砂糖と出汁を入れていた。
きっととても甘くてしっとりとした、すごく美味しい卵焼きなんだろうな。
そう思ったら、我慢できなかった。卵焼きの端のその端に、薄く包丁を入れる。
ひらっとした卵焼きを指で摘むと、ぱくっとそれを頬張った。

「おいしー!」
「コラ名前、何つまみ食いしてんだよ」

笑い声と共に、私の額にちゅうと銀時の唇が当てられる。
片手にお玉、片手に味見用の小皿を持っているから、あいているのは唇だけだったんだろう。
優しい触れあいに、心にじわっと甘いものが広がる。

「ごめんなさい、だってすごく美味しそうで」
「こんなもんいつでも作ってやるっての」
「神楽ちゃんがうらやましいよ」
「もしもーし! 聞いてる? 俺は名前にも作ってやるって言ってんだけど」
「へ!? えへへ、ありがとう。嬉しいよ」

今朝、泊まってしまったことを許してくれた銀時は、
またこうして泊まっていってもいいよと言ってくれてるのだろう。
嬉しいな。図々しいと思われない程度に、また泊まってもいいかなって今度聞いてみよう。
ほくほくとしながらお皿に切り分けた卵焼きを並べていくと、銀時が横を向いたまま「悪ィ」とこぼした。
え、と銀時を見上げると、横目で私を見て、そしてしっかり私に向き直る。

「名前、俺ほんとは昨日ワザとお前を起こさなかった。帰したくなかったから」
「え……あ、いいのに、私送るの面倒だったんでしょ、いつも一人で帰れるから大丈夫って言ってるのに」
「ちっげーっての! お前終わったらいつもさっさと帰るじゃん、俺は朝とかこうやって名前と過ごしたかったんだよ」
「銀時……」
「名前が嫌じゃなかったら、また泊まってな」

嫌なわけがない。それどころか、嬉しすぎて、胸が苦しくなるくらい幸せな言葉だった。

「うん、銀時や神楽ちゃんたちがいいなら」
「マジでか。夜も朝も銀さん張り切っちゃうよ」

明らかにテンションが上がった様子を見せる銀時に、吹き出してしまった。そしてハッと気付く。
そうだったのか。銀時は私を神楽ちゃん達とわけることなく、
その大きな腕の中に皆と一緒に抱え込んでくれているんだ。
さっきの神楽ちゃんの態度からしても、私に驚く様子は無くむしろ喜んでくれていたじゃないか。
私だけが線を引いて、銀時達に飛び込んでいく勇気も無くぐだぐだ自分に言い訳して。

「銀時」
「ん? 名前は卵焼きに大根おろし絶対必要派?」
「ううん、そうじゃなくて。えっと、次にお邪魔するときは私も自分のエプロン持ってくるね……」

恥ずかしくて、語尾が自分でも聞き取れないくらい小さくなってしまう。
ちらと上目で銀時の様子を伺うと、ぽかんと口を開け私をじっと見つめているではないか。
ああ、やっぱり図々しい!? 台所までずかずか入り込む気ですかコノヤローなんて思われた!?
思わずぷるっと震えた私の肩に、がしっと銀時の両手が置かれる。

「名前のエプロン姿、すっげー見てぇ」

妙に真剣に、やけに熱く銀時に瞳を覗き込まれ、私は真っ赤になってしまった。






□・銀さんに頭撫でてもらう
 ・エプロン姿の銀さんにお料理作ってもらう
 ・つまみ食いして叱られる



あささんのリクエストでございました〜!
きゅんとするかわいいリクエスト、どうもありがとうございました!
だらっだらした文章でございますが、自分の萌をこれでもかと詰め込ませていただきました。
楽しんでいただけたら嬉しいです!

2017/06/05 いがぐり

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