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企画
外食(おとなりさん沖田)

明日の夕飯は何にしようかな。

最近の楽しみのひとつが次の日の夕飯を考えることだなんて、友達に話したら笑われそう。
なんて幸せを噛み締めながら本のページをめくる。
けれどその私の手は、ふいに放たれた総悟の「明日は外に食いに出やせん?」という言葉に中途半端な位置で静止した。

「あ、うん。いいよ」

私の反応が鈍いことに気付いてか、総悟は首を傾げながら目を落としていた携帯から顔を上げる。

「どうしやした?」
「ううん、なんでもない。外食ひさしぶりだから、楽しみだなって」
「俺が出すんで財布の中身の心配は不要ですぜ」

さらっとそんなことを言いながら、総悟は私の頬へ手を伸ばしてくる。

「自分の分は自分で払うよ」

唇が軽く重ねられて、私は本を閉じた。
何を着ていこう。今から緊張してしまう。

「いつも名前に飯作ってもらってる礼させてくだせェよ」
「でも」

そういうわけにはいかないと首を振ると、総悟に指でピンと眉間をデコピンされた。

「ここは素直に『ありがとう総悟愛してる!抱いて!』って言っときゃいいんでィ」

そこまではいわなかったけど、だいすき、と抱きついたら総悟が硬直してしまった。
あれ、驚かせたつもりはないんだけど、もしかして抱きしめる力が強すぎちゃったのかな。



自分が作った食事を向かい合って食べるときは全く緊張しないのに、
外のお店だと途端にしてしまうのは何故だろう。
総悟を見る周囲の視線をちらちら感じるからだろうか。
けれどそんな視線など気にもせず、総悟は私の手を引いて案内された席まで行って、家にいるときみたいに甘やかな笑顔でメニューを見せてくれる。

総悟に連れてきてもらった老舗の洋食屋さんは、とても素敵なお店だった。
家族連れもカップルもみんな料理をリラックスした笑顔で楽しんでいる。
お値段も良心的で、これなら総悟に奢ってもらっちゃって悪いなあと思わずにすむとほっとした。

「このとろとろ卵のオムライスおいしそう」
「それ、店の看板メニューですぜ。バターの香りが濃くて美味かった」
「そうなんだ、よく知ってるね」

私の言葉に総悟は一瞬しまったという顔をして「まあ、」と短く言葉を切りメニューに視線を移す。
前にこのお店に食べにきたことがあるんだな。誰とだろう。総悟が前に付き合ってた人とだったりして。
その人はどんな人だったのかな。ここでどんな話をしたのかな。
私なんて取り立てて楽しい話をふることもできないし、話題も乏しい。
総悟は一緒にいてつまらなくないのかな……。だから家ではなく外で食べたくなったとか。
さっきの総悟のしまったという顔は、正直すごくショックだった。私に知られたくない何かがある。
そうやってひとつ不安を感じると、芋づるのように不安の根が伸びていく。
うう、こんな気持ちいやだなあ。明るくいきたいのに。

「俺エビフライセット」
「うーん、私はどうしようかな、どれもおいしそうで迷うなあ」
「オムライスじゃねェんですかい?」
「う、んー、」

今度は私は言葉を切ってしまう番だった。
もしかして私がオムライスを頼んだら、それを食べた時のことを総悟が思い出してしまうかもしれない。
すごくバカみたいだけど、こわかった。

「よーし、ハンバーグにしよう」
「それはオススメできねえな」

何かを思い出すようにして笑う総悟に、心臓がツキリと痛んだ。
ハンバーグに何か楽しい思い出があるの?
でもそんなことは聞けずに、私は精一杯なんでもないように笑う。

「残念、特製デミグラスソースってあったから、美味しいのかなって思ったのにな」
「うまいかもしんねーですが、名前が作った方が絶対美味いに決まってんだろ」

予想もしてなかった言葉に、ほえ? と変な声を出してしまった。
メニューからバッと顔をあげた私を見て、総悟がとびきり柔らかな笑顔になる。

「俺ァ名前のハンバーグが今まで食った中で一番好きなんで」
「そ、そ、それはどうも……」

明日の夕飯は絶対に絶対にハンバーグにしよう。
総悟は特大サイズ。特別にチーズも乗せてあげよう。
あと黄身がとろっと流れる半熟目玉焼きも、その上に乗せてあげちゃおう。

「正直、店で食うより名前の飯のが美味いって分かりきってんですけど、作らせてばっかじゃ悪いっつーか、俺は料理てんでできねーし」
「ぜんぜん悪くない! だって私はお料理大好きだし、自分の作ったものを総悟と食べるのはもっと好き!」

恥ずかしいことを言っちゃった…!
顔を真っ赤にする私を、総悟はからかったりしなかった。
ただそっと嬉しそうに微笑んで、実は、と静かに口を開く。

「俺の行きつけの店っつったらラーメン屋くらいなんで、柄にも無く旦那に女連れてく店聞いたんでい」
「旦那って、坂田さん?」
「そう。んで案内ついでに奢らされたりしちまって」
「その時にオムライスを頼んだの?」
「おう。しかもデザートまで遠慮無しに全種類ガツガツ食いまくりやがってアノヤロー」

総悟が旦那と呼ぶ人は、前に遊園地でも会った総悟の年上のお友達の坂田銀時さんのことで、
総悟はこう言ってるが、ウマがあっている二人だから、きっとここでの食事も楽しかったに違いない。
その時のことを想像してくすりと笑う。私の為に、一度ここへきてくれたんだね。

「お店まで調べてくれてありがとう」
「たまにはこうしてどっか食いに行きやしょう」
「うん! ねえ、やっぱり私、オムライスにする」

さっきまでの気分はどこへやら。現金な私の心は一気にウキウキしだす。
メニューの中の美味しそうな料理の写真がキラキラして見えた。

「……デザートにプリンもつけていい?」
「もちろんでィ」

総悟の嬉しそうな笑顔に、私も自然に顔が綻んだ。






□おとなりさんの甘い甘い沖田さん
□おとなりさんの二人で、ふだんおいしいごはんを食べさせてくれるヒロインちゃんを労って、
 沖田さんがヒロインちゃんを外食にお誘いする話。
 ヒロインちゃんのご飯を囲むではなく、お店のご飯をふたりで食べる、その心境やいかに
□おとなりさんの続き
□沖田さん短編の「消化」のような、嫉妬話をおとなりさんで




ゆうか様、さしみ様、千寿さま、ぽんた様のリクエストで書かせていただきました!
ちょっと嫉妬とは程遠い感じになってしまってすみません…!
大変お待たせいたしました。楽しいリクエスト、どうもありがとうございました!

2017/01/11 いがぐり

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