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企画
眠くなるまで(沖田)

侍であるが故の性なのか、夜中の静けさの中に通常と僅かに違う空気を敏感に感じ取り、
沖田は直前まで熟睡していたにも関わらずその瞳をぱちりと開いた。

殺気の類ではないが、どこかおかしい。
障子越しの淡い月明かりを頼りに、沖田は薄暗い部屋に目を凝らし横で眠る名前を見ると、
その顔には深く眉間に皺が寄り、とても気持ちよく眠っているとは言い難い寝顔をしていた。
自分は名前の唸り声に反応したのだと、沖田はふっと緩めた唇から短く息を吐く。

「名前」

その形の良い耳に触れるか触れないかまで唇を寄せ、囁く様にして名を呼んでも、名前の目は開かない。
普段、笑ったり、おいしそうにものを食べたり、沖田に元気良く言い返したり、度々沖田に奪われたりする名前の綺麗な唇が、
今は小さく唸るような声を出し、細かく震えている。
情事の時の甘さと色香を放つものとは違い、怯えきった、何かから懸命に逃げようとしているような、
そんな辛そうなものだった。おそらく、悪夢の類を見ているのだろう。

「名前さん、もう朝ですぜ」

まだ朝には遠いが、そう言えば名前が飛び起きるかと思った。しかし名前はますます苦しげに顔を歪めるだけだった。
身体を揺さぶっても同じだ。
沖田は少し考えると、一度上半身を起こし名前の布団に入り込み、そのしなやかな身体を組み敷くように覆いかぶさる。
そして震える名前の唇に、自らの唇をゆっくりと重ねた。
柔らかな唇から震えが止まるまで、沖田は何度も唇をあわせる。
触れ合った部分から、夢の中にまで熱が届くように。



そうしている内に、名前の瞼が時間をかけて開く気配がした。
至近距離でその瞳を覗き込むと、よほどの悪夢を見ていたのか、
瞳が潤み、綺麗な涙が今にも流れていきそうなくらい目じりに溜まっている。

「安心しなせぇ。俺がいる」

そう言って、沖田が名前の頭にぽんと手を置けば、名前の瞳の中の怯えの色が少しずつ薄れていった。
そんな名前に沖田は優しく微笑みかける。
深い愛情をたたえた沖田の瞳を、名前は透明な瞳で見つめ続けた。まだ夢なのか現実なのか区別がつかず戸惑っている顔だ。
そんな名前をただただ安心させるように、沖田は名前の額に口付け、頬を指でなぞる。
すると、ようやくここは現実なのだと、名前の表情に安堵が広がっていった。

「……そ……うご………」

名前は掠れた声で沖田の名前を呼び、名前から沖田にぎゅっと抱きついてきた。
無我夢中でしがみついてくる、小さな子供のような強い力だった。
寝起きのあたたかな名前の身体を、沖田は強く抱き返す。

「怖い夢でも見たんですかい?」
「…………そう、とてもこわかった」

名前に覆いかぶさっている身体の体勢を変えようと、名前をしっかり抱きしめたまま横に寝転がる。
互いに横たわり向かい合うような格好になっても、沖田は胸に抱く名前を安心させるように頭を撫ぜ続けた。

「夢の中にも総悟と一緒に行けたらいいのに」

ぽつりとこぼした名前の言葉に、沖田は目を細めて顔を綻ばせる。
今夜の名前はやけに素直だ。

「俺だってそうしたいとこですがね。ま、俺にできることといったら、せいぜいこうして名前を抱きしめてやることくらいなもんでさァ」
「それでも充分すぎるくらいだよ。ねえ、また怖い夢見たら起こしてくれる?」
「もちろんでィ」

名前の唇が沖田の鎖骨に触れた。顔を上げた名前の表情に、もう怯えは見て取れない。
沖田に向かって静かに柔らかく微笑みかけてから、瞼をおろしそっと顔を近づけてくる。
唇を少し開き、名前の唇をしっとりと受け入れた沖田は、
唇で唇を愛撫するように、丁寧な動きで柔らかく名前と口付けあう。

互いに眠くなるまでその口付けは続いた。



□沖田さんと年上女中さんのお話で、夜中に怖い夢を見てうなされているヒロインを起こして甘やかす沖田さん

アサミ様リクエストで、沖田さんと年上女中さんのお話を書かせていただきました!
あの女中さんがここまで怯えるなんて、いったいどれだけ怖い夢をみたのでしょうね。
巨大アンパンが空から降ってくる大スペクタクル長編悪夢か、
屯所の隊士達が呪いのマヨネーズにどんどん侵食されていく悪夢のサバイバルホラーか……いやどうでもいいですねすみません。
甘い沖田さんの話、とても楽しく書かせていただきました。
アサミさま、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!

2015/11/06
いがぐり

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