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企画
相変わらずの(長編銀さん)
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※「EDGE OF THIS WORLD」最終話から十年後くらいの設定で、銀さんの息子と娘が出てまいります。
登場人物1の苗字の部分に息子の名前を、
登場人物3の予備の部分に娘の名前を入れてお楽しみくださいませ。
お手数おかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
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病める時も健やかなる時も、なんざ神に誓わなくてもとっくの昔に何があろうが名前を愛し抜くってテメェの魂に誓ってるさ。
こんなに愛しい女はこの先ぜってーに現れないだろうって確信してる。この先一生名前だけを愛してる。
ああ、名前の他の女なんざ目に入んねェよ。

けどよ、すまねえ。
名前への愛情はそのままに、他にも愛する奴らができちまった。


「ねえパパ、新しい着物がほしいの。だってユウちゃんがね、予備ちゃんには青色もすごくにあうよーって」

ったりまえだろ!予備は青だって緑だって桃色だって似合っちゃうんだよ!
わーったわーった、予備の可愛いおねだりだ、とーちゃん何でも買ってあげちゃうぜ。
なんつって言いたいところだが、残念ながら家計は俺の最高の女房である名前ちゃんに任せてる。
なんでそうホイホイ買ってやるってのはできないんだなこれが。

「つーか誰ユウちゃんて。もしかして男か。とーちゃんは許さねェぞ、男女交際は二十歳超えてから。お前はまだ五歳だからあと十五年待て」
「ユウちゃんは女の子だよ。最近引っ越してきたんだって」

竹刀を肩に担ぎ、俺の隣を歩く息子の苗字が呆れたように教えてくれた。
くっそ、こいつ俺にマジでそっくりな面してやがる。なのにどーしてこうも可愛いかね。本人に言ったら蹴りが飛んでくるから言わねえが。

「……マジでか。焦ったぜ、予備を狙う男がもう現れちまったんかと」
「お父さん、そういうとこ心配性だよね」

まあな、と息子の頭をぐしゃっと撫ぜる。コイツまた背ェ伸びたなー。
「予備も!」と俺の手を引っ張ってくる予備の、
団子を頬張ったようなやらかい頬をつまむと、ぷうと膨れ面になった。
あのなあ、そんなブスくれた面してたってとーちゃんにとっちゃ世界一可愛い顔に見えんだよ。
夕方にはまだ早い、色づきはじめる前の午後の太陽の光が、予備のまだまっさらな瞳に反射して、そのまぶしさに俺は目を細める。

「ねえいいでしょ着物。いつ買ってくれる? あした?」
「そーいうのはかーちゃんに相談しなさい」
「ママ、パパにそうだんしておくねって」
「じゃあ帰ったらすぐかーちゃんと相談すっからよ」
「パパいつもママのおくちにちゅーしてるのにすぐお話できるの?」
「ちゅーしてから話すのー」

苗字が仏頂面になる。悪いな。お前の大好きなかーちゃんはとーちゃんのなんですぅー。

「ママ、パパとちゅーしてから、えへへってわらうおかお、すき。かわいいねえ」
「おう、可愛いんだよ俺の嫁さんは、出会った時からよ」
「予備もかわいい?」
「かわいいかわいい、とーちゃんがメロッメロになるくれェ可愛いさ」
「おにーちゃんは?」
「あれはどちらかといえば生意気バカ息子だ」
「おいクソオヤジ、もう老眼か。僕ここにいるんだけど」

あーあ、昔はにっこにこして「とーちゃ、」なんて抱っこをせがむかわいい素直な息子だったってのに、
ここ最近じゃ常にこんな感じだ。口も悪いし、誰に似たんだか。俺か。俺なのか。
とか言ってるけど、内心俺は苗字が生意気な口をきいてくるたび、その成長ににやりとしてしまう。
すくすく育ってくれて嬉しいんだけどな、そう成長を急いでくれるな。
俺も名前も、お前達のこと目に入れても痛くないくらいかわいく思ってんだよ。出来るだけ長く手元にいてほしいっつーか。


俺は天涯孤独に慣れていた。
そんな俺に、背中に揺られる心地よさで人間らしさを思い出させてくれた松陽先生。
厳しい戦の最中でも絆というものの強さを教えてくれたクソッタレ共。
家族というぬるま湯のような居心地の良さを教えてくれた新八と神楽。あと定春。
そして名前は愛すること、愛されることの幸せや喜びの、その全てを俺にくれた。

自分と名前の血の流れる、うるさくも愛おしい息子と娘が、毎日ギャーギャーギャーギャーやってっし、相変わらず金はねェ。
けど俺は今、幸せだ。
これといったこともない変凡な日々が、俺にとっちゃ実は一番奇跡に近いことなんだよ。

「パパ、今日はかぐら帰ってくるんだよね?」
「一人暮らしはじめたばっかだっつーのに名前のメシがもう恋しいんだってよ。今夜はぱっつぁんも晩飯食ってくし、また騒がしくなるなオイ」
「そんなこと言って、本当は嬉しいくせに」
「おーっとわっり苗字くん、うっかり手ェ滑っちまった」
「ったー! なんでゲンコツすんだよ!」

三人で話をしてたらあっという間に我が家の玄関に到着だ。

「かえったぞー」

そう言う俺の声に、ぱたぱた、と早足で名前が現れて可愛い笑顔で俺達を迎えてくれる。

「おかえりなさい! お散歩楽しかった?」

俺達をどこまでも優しく包みこんでくれるような名前の微笑みに惹きつけられるように、
俺は緩みきった顔を隠しもせず名前に向かって手を伸ばす。
しかしそれを妨害するかのように、苗字が俺の身体を押しのけてきやがった。

「ただいまお母さん、お父さんと予備の面倒みるのは大変だったけどまあまあ楽しかったよ」
「誰がオメーに面倒みてもらったよ!」
「ママただいま〜、おやつは?」
「オイ予備、先に手ェ洗えよ」
「ふふ、おやつたくさん用意してあるよ。うがいもしてね」

はーい、と小さな足音と大きな足音を響かせて苗字と予備は先を争うように手を洗いに行った。
俺はそれを見送ると、名前と視線を絡めて笑いあう。
そっと名前の腰を引き寄せ、いつものように唇を合わせる為に顔を近づけた。
なんとなく、わざと触れ合う直前で唇を止めてみた。
名前は瞳をとじ、ほんのりと微笑を浮かべたような表情で俺のことを待っている。
出会ってから何年だ? ガキを二人産んだってのに、名前のかわいらしさはちっとも変わらねえ。

「銀さん?」

ふっと名前が目を開けた瞬間に、むぎゅっと強めに唇を奪ってやった。
名前の表情がたちまち柔らかくほころぶ。
この表情が好きだ。こんな俺なんかと一緒にいるってのに、幸せそうに微笑んでくれちまってよ。

「ママー、まだパパのちゅーおわんない?」
「おててちゃんと石鹸で洗ったかな? 座って待っててね」

子供に向ける声は、優しい優しい母親の声だ。
これで意外と躾には厳しく、叱るときはちゃんと叱る。
俺もついガキ共と一緒になって背筋伸ばしちまうくらいコワい声なんだなこれが。

「あともう少しだけこうしてていい?」

けど、二人きりでいる時、俺に対してはただただ甘い、男心をくすぐる丸みを帯びた女の声になる。
柔らかな名前の耳朶に軽く歯を立てつつ、その細い身体を抱きしめた。
胸に名前の柔らかな吐息があたる。
名前のあごに指をそえ、そっと上を向かせれば、名前が期待に満ちた潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
急に唇が乾いたように感じ、舌で自分の唇をちろと舐めた。
名前の艶やかな唇に口付ければ、途端にこの渇きがおさまることを知っている。
しかし、一度付けてしまえば、しばらく離せなくなるくらい、名前の唇は甘美な味をしていた。

名前の唇が、俺を求めて開きだす。
あんまり待たせてもいけねえよな、と俺は最初から舌入れる気満々で唇を重ねようとした。
その時だ

「ただいまー、って、銀ちゃん名前、また玄関でこんなことしてるの? 飽きせずよくやるわよね」
「あん!」

玄関ががらりと開くと共に、神楽と定春が帰ってきやがった。

「あっ、お帰りなさい神楽ちゃん、定春」
「こんにちはー、うわっ、な、なんか今日は玄関の人口密度高いね」

俺と、俺に抱きしめられてる名前、そこに神楽と定春に続いて新八がきて、狭い玄関が大人四人と巨大犬でぎゅうぎゅう詰めだ。
新八と神楽の気配に、ガキ共まで走ってきて、更に玄関は窒息しそうなほど狭くなる。

なんでかね、押すなバカヤローと言いつつも、俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。



□長編銀さんで、初めての女の子の子供でメロメロになって溺愛してしまっている銀さんの話
□長編銀さん、ヒロインちゃんとお子さま4人の家族水入らずなほのぼの

しずく様、匿名様のリクエストで書かせていただきました〜!
ほとんど銀さんと息子と娘の話になってしまいましたが、
長編の十年後を書くのはとてもとても楽しかったです。
嬉しいリクエスト、どうもありがとうございました!

2015/11/10
いがぐり

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