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企画
心のままの言葉で(沖田)

私の隣に座ってる人は一体誰なんだろう。

と、名前はちらりと正面に座る父親から、隣に座る沖田に視線を移す。
沖田は名前の父親相手に少しも緊張することなく、堂々と父親の瞳をみて柔和に笑い、
江戸の話や真選組の仕事のこと、そして名前がいかに女中として優秀か、助かっているかなど、好青年としか思えない態度と口調で父親と会話していた。

いつもと違う。全然違う。猫を被りまくってる。
名前は普段と違う沖田にもぞもぞとしつつも、両親の前で変な顔をしてはいけないとなんとか平静を装った。
近藤とゲームをしたり土方を殺そうとしたり、アイマスクをつけて仕事をサボっている普段の沖田の姿と今の沖田。別人かと思うほどだ。かなりかけ離れている。
母親なんて目を輝かせ少女のような興味津々な顔をして沖田を見つめていた。
その顔には思い切り『ずいぶんと若いけどうちの娘いい男つかまえてきたわ』と書いてあった。
いや、いつもはこんな好青年じゃないからね、と言いたかったが名前はしっかり口を結ぶ。

「今日はお忙しいところをわざわざお時間を作っていただきありがとうございました」

和やかな会話が途切れ、お茶に口をつけたところで沖田が静かに切り出した。
場が少し引き締まる。名前は沖田の横で、その端正な横顔に若干の緊張を感じとり、自分も同じように背筋を正す。
そう、今日は沖田は名前の実家に結婚の挨拶をしにきていたのだ。

「自分は今日、名前さんとの結婚をお許しいただきたく伺わせていただきました」

沖田の目元は柔らかい。しかしかなり真剣な顔だ。名前はこの表情を知っている。
侍として生き、死をも恐れていない沖田は、戦いへ赴く前、名前にとびきり優しく唇を落としていく。
何があろうと名前のことを想っていると、帰ってくると、静かな決意が見て取れる表情見せる。
そんな顔を、今もしていた。

名前の父親は真っ直ぐ沖田を見つめたまま、開きかけた口を閉じる。
娘が付き合ってる相手を実家に連れてくると連絡があった時から、覚悟はとっくにしていたというのに、
やはり幾つになろうと可愛い娘が自分の手を完全に離れていこうとしていることが、切ないのだろう。

生まれたての名前を腕に抱いた時の幸福感。
お父さんお帰り! と仕事帰りの父親に抱きついてくる名前のとびきりの笑顔。
大喧嘩した時の膨れっ面。
田舎を出て江戸で仕事をすると言った自分の将来を真剣に考えた顔。

色々な名前の顔が父親の脳裏に浮かび、先ほどまで穏やかに沖田と会話を交わしていた父親から言葉が消えてしまった。

そんな父親を気遣うように、沖田は少しだけ間を置くと、
大きく深呼吸して再びその唇を動かす。

「この通りまだ若造ですが、名前さんのことは必ず、自分の魂にかけても護り抜き、大事にしていくと誓います」

静かでひたむきな沖田の言葉は、その場にいる全員の心を打った。
雄弁に愛を語るわけでも緊張して取り乱すこともなく、沖田は堂々と落ち着いた態度のまま、
両親に敬意を払うように自然な動きで座布団を降り、畳に手をつき深く頭を下げる。

「名前さんを愛しています。どうか名前さんと結婚させて下さい」

沖田はこれ以上ないほど素直に、率直に、誠実に名前の両親に自分の心をそのまま言葉にした。
そんな沖田と同じように、名前も座布団をおり自分の両親に頭を下げる。

反対など、できるわけがない。する理由が無い。

ふ、と父親の口が綻んだ。
芯のある男だと、彼ならば娘を安心して渡せると、母親と共に深々と沖田に頭を下げる。

「どうぞ娘をよろしくお願いします」

娘より年下の沖田に心からそう頼むと、顔を上げた両親の瞳にはうれし涙が滲んでいた。



そして瞬く間に、結婚式前夜になった。
式の細々とした準備はすっかり整えている。あとは眠るだけだ。
明かりを消した二人の部屋で並んだ布団に入り、沖田と名前はぽつぽつと言葉を交わしていた。

「あー明日はいよいよ結婚式ですねィ」
「緊張する?」
「別に。名前の親御さんに挨拶に行った時の緊張に比べたら、明日なんて新しくできた飯屋に飯食いに行くくらいの緊張感しかありやせんや」
「なにそれ、どんな緊張感」

天井を向き、枕の上で両手を頭の後ろに組んでいた沖田が、くすりと笑う名前の方へ肩肘をついた格好になり身体を傾けた。
薄闇でもわかる綺麗な瞳が、名前を見つめ緩やかに細められる。

「アンタは大丈夫ですかい?」
「私?」
「緊張……たァちっとばかり違ぇな。かといって不安っつーわけでもなさそうだ」

沖田が微笑みを深めると共に、名前の肩にゆっくり手を伸ばしてきた。
そしてそのまま自分の胸に名前を抱き寄せるように、名前の布団に移動してくる。

「総悟と結婚するのに迷いは無いよ」
「それはありがたいこって」
「けど、苗字名前から沖田名前になるんだなあって思ったら、今までの自分と何も変わらないのに、自分がどこかに行っちゃうみたいで、変な感じがする」
「はは、名前さんアンタ一体何処に行くつもりなんでい」
「わかんない。何処に行くんだろう」
「ま、俺が名前を絶対に離さねぇから安心しろィ」

沖田の唇が名前の唇に触れる。はっとするほどの柔らかなそれは、目を閉じる間もなくすぐ離れてしまった。
代わりに、沖田の手のひらが名前の腰を撫でてくる。

「苗字名前でも沖田名前でも、俺の気持ちは変わりやせんや」
「ちょっと、今夜くらい我慢できないの」
「一体何の話で?」
「白々しい、さり気なく脱がそうとしてるじゃない」

至近距離でにっこりと沖田が笑う。
すでに名前の脚の間に沖田の脚が絡み、腰から下にかけてのなだらかなラインを、沖田の手がいやらしい動きでゆるりと辿っていた。

「そうか、結婚するっつーことは、これから毎晩名前さんに生でブチこめるってことですねィ」
「……………」
「子供は何人にしやしょうか。想像つかねーな」
「うん、つかないね。総悟が私の夫になるってだけでも不思議な感じなのに、父親になった総悟なんて全然想像つかない」
「俺が父親ってのはまだ早いと思いやす?」
「ううん、思わない。出来れば早く欲しいよ」
「ガキに剣術教えこんでやりてぇな」
「剣術かあ、総悟に似てればいいけどね」
「戦力が二倍になれば、確実に土方さんを亡き者にできそうだしねぃ」
「やめて。剣術はともかく私達の子供に変なことさせないで」

名前の言葉にやけに嬉しそうに目を細めた沖田が、唇を重ねながら名前の身体にゆっくり覆いかぶさる。

「この俺が、嫁さんになる人と未来の子供の話してるなんてな。姉上が生きててそれ知ったら、どんな風に笑ってくれたやら」
「私はお姉さんを知らないけど、きっと今頃天国で喜んでくれてるよ」

そーちゃん、幸せになるのよ。

沖田の耳に、亡き姉ミツバの懐かしい透けるような綺麗な声がふわりと響いたような気がした。

「楽しみだな、明日」

名前の晴れ晴れとした声に、沖田は笑って額に唇を落とす。
明日の結婚式当日、天気予報によれば清々しい晴天で、雨の心配は無いらしい。
子供の頃からの憧れだったという白無垢を着た名前と共に、沖田は神社の神前にて夫婦になる誓いをたてるのだ。





■沖田さんと年上女中さん。年上女中さんの実家に沖田さんが結婚のご挨拶にいき、
年上女中さんを幸せにするという確固たる決意をご両親に伝えて頭を下げる沖田さん
結婚式前日の嬉しいような、幸せだけど何だか寂しいような…結婚前には必ずある複雑な心境の年上女中さんの不安を沖田さんがいつもの調子で吹き飛ばす
■沖田さんと二人で未来予想(ラブラブ)する話
■沖田さんの甘い話

以上のリクエストで書かせていただきました!!
沖田さんの真面目なところ、いつもの飄々としたところ、人生で最も輝く時期の二人を書くことができて
とっても楽しかったです!
リクエスト下さった紫さま、茜さま、栞さま、本当にありがとうございました!

2015/09/20 いがぐり

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