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企画
それぞれ胸に想いを抱え

「一緒に散歩へ行きましょう」の他の人たち視点のお話です。




バカップルな夫婦だと常々思っていたけれど。

橋の上から土手を見下ろしていた私は、全く、と苦笑いする。
川沿いの土手では、夕日と悲鳴を上げる男とその男にじゃれついている定春をバックに、
私、志村妙の弟である志村新八がなにかとお世話になっている万事屋の銀さんと、銀さんの愛してならない奥さんである名前さんが、
人目もはばからず熱いキスをしていた。

こうなったいきさつを思い返す。
ついさっき、定春の散歩をしていたらしき名前さんを見つけ、声をかけようとした矢先のこと。
痩せた男が名前さんに足早に近づき馴れ馴れしく話しかけていった。
名前さんは当たり障りの無い笑顔を浮かべていたが、男の表情から私はナンパかなにかかと思い、
ここは助けに入らなければと腕まくりして歩き出したときだ。
銀さんが、名前さんを護るようにゆらりと現れた。
この人は普段はだらしないけれど、いざとなったら誰より頼もしい。
そんな銀さんがいるなら私は出番はなさそうね、と思ったが、いざとなったら助太刀するつもりで離れた場所から様子を見守ることにした。

銀さんは気だるげな眼差しで男を一瞥する。
そして無駄だよ、というような不敵な表情でその男を挑発するように薄く笑った。
この場所からじゃ声は拾えなかったが、名前さんが銀さんに何かを言うと、
銀さんたら男に対する迫力満点の笑顔から一転、名前さんにはどこまでも濃密で情熱的な瞳を向けたものだから笑ってしまった。
銀さんは名前さんの腰を引き寄せ、額に口付け、そして男に向かって何かを言う。
途端に定春が男に飛び掛っていき、男が逃げた。たぶん、遊んでやって、とか言ったんだろう。
可哀想だな、と思った。銀さんは名前さんに近づく男に容赦ない。

そして二人は土手に座り、肩を寄せ合いイチャつきだしたのだ。
私も新ちゃんみたいに眼鏡をかけなきゃならない視力だったら、優しい顔した銀さんと幸せそうな顔した名前さんの深いキスや、
それで濡れた名前さんの唇を見て変にドキドキしなくてすんだのに。

銀さんと名前さんを見ていると、御伽噺や恋愛小説やドラマにある、互いが深い愛情で結ばれている関係というものが本当にあるのだなと憧れる。
そして、つい自分にもそういう相手が居るんじゃないかと希望を持ってしまうような、そんな素敵な関係だった。
こんな外で舌を入れるようなキスをする銀さんを心底はしたないとは思うけど、
名前さんの表情を見ていると、不思議といやらしさは感じない。

「あら、もうこんな時間」

時計を確認すると、思った以上に時間が経っていて驚く。

「送りますよお妙さん!」
「結構です」

どうやら今日も私はこのゴリラにストーキングされていたらしい。どこから出てきたこのゴリラ。
この人もこりないわね、と思いながら近藤さんの前を通り過ぎようとして、ふと立ち止まる。
そしてなんとなく近藤さんを見上げてみた。

「お……お妙さん!?」

このドギマギした表情で頬を染めるストーカーゴリラと銀さんの、どこが違うか考えてみた。
近藤さんは私のことが好きだという。けれどそれは私がなびかないから執着しているだけではないのか。
わからないが、粘着質のストーカーに聞く気はない。
私も名前さんのようにこのゴリラを深いところまで、それこそケツ毛まで愛したら、二人のようなカップルになれるのかしら。

「ごめんなさいね近藤さん、ジロジロと不躾に」
「とんでもない!! もっと俺を見てください!! なんだったら服も脱ぎますが!」
「もういいです。これ以上見てたら目が腐りそうですから」
「お、お妙さーん!!」

発情したゴリラがジャンプした。私はこぶしを握り、右腕と下っ腹に力を込める。
唇を突き出し、両手を広げ落下すると同時に私に襲い掛かってこようとするゴリラを

「近寄んじゃねえこのゴリラがああああああ!!!!」

と、思いっきり殴り飛ばした。
……あ、あっちの方はそういえば銀さんと名前さんがイチャついてたような。

「っテーなオイ! なんだオメー!」
「銀さん、銀さん大丈夫!?」

銀さんに直撃したみたい。よかったわ名前さんに当たらなくて。
私は自然と笑みを浮かべたまま歩き出した。




「お妙さんにじっと見つめられたんだ! とうとう俺の想いに応えてくれる時がきたのかもしれん!」
「気のせいじゃね?」

お妙さんに投げ飛ばされた俺は、その先でそこに居合わせた万事屋とぶつかった。
頭は痛かったが、さっきのお妙さんとのやりとりの方が重要だ。
あれは夢じゃなかろうかと、嬉しさを万事屋にぶちまけたものの、即座に否定され目に涙が浮かぶ。

「それより、銀さん、近藤さんも大丈夫ですか? 頭同士ぶつかってましたよね」

おお、万事屋のことだけでなく俺まで心配してくれるとはなんて優しい女性なんだ。
名前は名前さんといったか。お妙さんほどじゃあないけど、とても愛らしい顔をしているし、万事屋は幸せものだな。

「名前ちゃん……俺の頭、血ィ出てない? ちょっとクラッときちまってんだけど」
「み、みせて!」

名前さんが万事屋の両頬を手のひらで挟み込むようにしてたんこぶを観察する。

「血は出てないみたいだけど、おっきなたんこぶ」

そう言って、華奢な指で万事屋のたんこぶをそっとなぞる。

「銀さん指じゃなくて名前ちゃんの唇がいいなー。早く治るようにチューしてくれよ」

な、な、万事屋それでも侍か軟弱な、俺だったらお妙さんにそんなこと言わんぞ。
痛いの痛いの飛んでけーって口にチューして〜くらいなら言うかもしれないがな。
ってか、してもらえたらもうそれだけで死んでもいい。

「いいよ、銀さん。どこがいい?」
「どこでも」

とかなんとか言いながら二人の顔が近づいてるしー! もしもーし! 俺、目の前にいるんですけどー!! トシ助けて!

心の中でトシに助けを求める俺の前で、この夫婦は堂々と唇と唇をくっつけた。

「これで治るかな?」
「そんなんで足りると思ってる?」

バカップルな夫婦だと薄々思っていたのだが。


「お妙さーーーーーーんん!!!!!!!!」


俺は俺の愛を求め今日も走る。
くやしくなんてない。いつか俺もお妙さんとああなるのだから。
不屈の闘志を胸に秘め、俺は眩しい夕日に泣きながらお妙さんの家へ爆走した。




やれやれ。バカップルな夫婦だと聞いてはいたがここまでとはな。

他のヤツから見りゃ地獄絵図だろうが、俺の目には天国でありオアシスである古今東西あらゆるブスが集うキャバへ行こうとしてた俺の足は、ある光景を見て止まった。
視線の先にはこの俺、服部全蔵と何かと妙なタイミングでカチあう特徴的な天然パーマのあの男とその女房が、ずいぶんと濃厚な接吻をする真っ最中で。
猿飛はアイツに熱を上げてたようだが、これじゃ百年の恋も冷めるんじゃないだろうかと思うくらい、ヤツの顔はデレデレしていた。

ばっかじゃねーか、外で何してやがる。
溶けたような顔でイチャついてんじゃねーよ。

俺は醜い顔の女に惹かれる。醜いからこその美しさがたまらない。
何故かといわれても上手く説明できんが、心の奥深い部分を刺激されるのだ。
だからアイツの女房なんざ全く好みではない。
あんな普通に可愛くて品があって、男を見る目はないようだが、気立ての良い女なんて俺は無理だね。一ミリも反応することはない。
だが見てるとアイツが羨ましくなるのはなんでだ。
幸せそうだからか。
俺がどんな女にも見せたことの無い自分の弱いところを、アイツは女房に全てさらけ出し、それでも離れていかないと確信しているからだろうか。

俺は、いつか痔の薬を塗ってもらう為に、女にケツの穴をさらけ出せるだろうか。
そんな存在と出会えるだろうか。
仕事柄、孤独には慣れているがズキンと痛んだ。心と、そして尻の穴が。

とりあえずまあ、キャバでも行って考えよう。
あのブス共の中に、俺の天使が居るかもしれん。




「たくさん遊んでもらえてよかったね、定春」
「わんっ!」
「帰るか。家に」
「うん」

立ち上がろうとする名前に手を差し出した。
名前は俺の手を両手で握って立ち上がる。
「銀さんの手、おっきいね」と名前が笑う。俺は愛しくてたまらなくなる。

「名前ー」
「なあに、銀さん」

名前のこの、なあに、っての、いつ聞いても心地良い。
その柔らかな響きが聞きたくて、何でもない時でもつい呼んでしまう。

「俺からずっと離れんなよ。まあ、離す気もないけどな」
「うん、離れないよ、銀さん」

そう言って名前は組んでた腕に力を入れ、違う方の手まで俺の腕に絡めてくる。
名前の両腕に抱しめられた俺の腕。つーか今離れるなとかそういう意味でいったんじゃないんですけど!

「あ、新八くんと神楽ちゃんだ!」

元々組んでいた腕だけはそのままに、名前は「おーい!」と片手を二人に向かってふる。
駆け出したそうな名前に「行ってもいいぜ」と組んだ腕を外しやすいよう腕を浮かせると、
名前は「銀さんも一緒にいこ」と腕を外すなり手を掴まれた。

もうすぐ夕日が沈む。月が昇り、夜が来る。
毎日規則正しく朝が来て、昼が過ぎ夜になる。

変わっていくものもあれば、消えていくものだってある。
けれど、目の前の光景、繋がれた手の体温は、揺るがないものだと、揺るがないでいてほしいと、強く願う。

ったく、偶然会っただけでへらへら笑いやがって。

そう思いつつ自分でも頬が緩むのがわかる。
これ以上の幸せはないと、俺は、頭をかきながら思った。



■近藤さんの前でナチュラルにイチャつく
■買い物に行った先で銀さんが一時離れた隙にヒロインがナンパにあうが、気付かずにのほほんと受け答えをしているところに銀さんが帰ってきて
 その後ちょっとヤキモチ妬いた銀によってナンパした人が可哀想になるくらいイチャイチャするのを目撃したザキまたはお妙さん。
■自分はブス専だから可愛いヒロインとイチャついてる銀さん羨ましくなんかないけどやっぱり羨ましいっ!という全蔵さん。

のリクエストで書かせていただきましたー!
視点を帰るとまた違った感じでとっても楽しかったです。
リクエストどうもありがとうございました!!

2014 6/3 いがぐり

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