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企画
一緒に散歩へいきましょう


「銀さん、定春のお散歩一緒に行かない?」

今日も今日とてうだうだと惰眠を貪る銀時に、名前がゆるりと言葉をかけ、そろそろ起きてと優しく笑う。

「……んあ? 神楽はどーした神楽は」
「神楽ちゃん、お友達と遊んでてまだ帰ってきてないの」
「新八は」
「お通ちゃんファンクラブの集まりに」

名前の言葉に銀時は、あふ、と大きな欠伸をする。
そして胸の上で開いて伏せていたジャンプを顔へとずずっと移動させた。

「悪ィが俺ァやることがあんだよ」

まだ寝る、という銀時の意思表示に、名前は怒るでもなくくすりと微笑み「わかった」と銀時の頭にそっと唇を落とす。
銀時の手が宙をゆらりと何かを探すように動いた。
その手はすぐに目的のものを探し当てる。
ソファ横に膝をつき銀時の髪に頬をすり寄せていた名前の艶やかな髪に触れながら、
銀時はジャンプを顔に乗せたまま「神楽が帰るまで待てば?」と柔らかな声で言う。
その言葉に名前は「うーん」と曖昧な声を出した。

二人のやりとりをじっと見ていた定春は、せっかく散歩に行けると思ったのに、とでもいうように眉毛を下げている。
そんな定春を見て名前が笑った。

「定春、待ちきれないの?」
「あん!」
「神楽ちゃん待っててもいいけど、いつ帰ってくるかわからないもんね。先に私と二人きりでお散歩行っちゃおうか」

名前が銀時の眠りを妨げないよう小さな声で定春に言えば、パッと定春の表情が輝く。
銀時はジャンプの下で薄く目を開けた。
そういえば、と思い出す。
今日まで思い出しもしなかったのだが、以前、神楽が名前と定春の散歩に行ったとき、名前に馴れ馴れしく話しかけてきた近所の男が居たと、帰るなり銀時に報告してくれたことがあった。
名前は「犬好きの人みたいだよ。定春を撫でさせてくださいって言われたの」とのんきに笑っていたし、銀時もふうんとその時は深く考えずに流した。
大きな定春を見て珍しげに声を掛けてくる人は大勢居るのだ。いちいち疑っていたらキリがない。

定春の散歩は主に神楽がやっているが、名前や新八も一緒に行くことが多い。
だから名前はさっき銀時に声をかけたのだ。誰かと一緒の方が楽しいからと。
もし、もしかしてだが、その馴れ馴れしく話しかけてきた男がもし名前に近づく為に犬好きを装っているのだとしたら、一人で散歩に出た名前にこれ幸いと近寄っていくだろう。
ハッと目を開ける。そこまで考えたらもう眠ってなどいられなかった。

「待て名前! 俺もやっぱり散歩行くから!」

勢いよく身体を起こし大声を出したものの、名前と定春は銀時がウダウダと考え事をしているうちに
とっくに「いってきまーす」と散歩に出掛けてしまっていた。




定春の散歩コースは知っている。
銀時は心持ち早足で名前を探し歩いていくと、すぐに見つけることができた。

「会いたくて、毎日散歩していないか歩き回って姿を探してました」
「そうなんですか。定春は毎日ここの道をお散歩してるんですよ、だいたい夕方くらいです」

ひょろっとした痩せた男が名前に話しかけていた。
これが神楽の言っていた馴れ馴れしいヤツかと銀時は眉を寄せる。
追いかけてきてよかった。これは絶対に名前に気があると男の表情や態度から銀時は確信する。
名前はごくごく普通にご近所さんに接するような態度で痩せた男と話していた。
にこにこと、痩せた男に対して、というより定春に向かって笑っている。

「以前から思っていたんですよ。とても可愛らしいなと」
「ふふ、ありがとうございます。よかったね定春」
「いえ、犬のことではなく……あ、あの、」
「はい?」
「ハイハイハイハイそこまでにしてくんない? 俺の奥さんなら口説いても無駄だから。とっくに銀さんのだから」

銀時が強引に男と名前の会話に割ってはいる。
「銀さん」と名前の嬉しげな微笑を銀時は優しく目を細めて受け止め、濃厚に視線を絡ませあうと、男に見せ付けるように腰に手を回し自分の方へと引き寄せた。
銀時の胸の中は名前の大好きな場所だ。心から幸せそうに頬を寄せるようにして、自分からもぴったりくっついていく。

「やっぱきちゃったわ。待たせたな名前」
「ううん、きてくれて嬉しい」

本当に嬉しそうに名前は銀時を見上げる。風にさらされた額に、銀時はわざとゆっくり自らの唇を押し当てた。
その姿を見て細身の男は悔しげに唇を噛んだ。銀時が口の端をニイッと吊り上げる。

「で? コイツ誰よ」
「えっと、近所に住んでる方。定春のこといつもすごく褒めてくれるの」
「そか、そりゃどーも。ウチの犬、躾もなっちゃいねェ駄犬ですがね、よかったら遊んでやってくれます? おい定春、このニーチャンが追いかけっこしてくれるってよ」
「ワン!」

大きな体で遠慮なく、定春がはしゃいでがばりと男に圧し掛かろうとする。
男は「ギャッ」と短く悲鳴を上げて逃げた。
それを定春が追いかける。嬉しそうに尻尾を振りながら。
二人は土手に座り、はしゃぎまくる定春と、うあああああ!と絶叫する男を見守る。

「定春嬉しそうだね」
「おう。犬好きなヤツに遊んでもらえて定春も嬉しいだろうよ」
「私も嬉しい」
「んー、何が嬉しいんですか名前ちゃん」
「銀さんが隣にいてくれることが」

自然な言葉。何も気取ったところのない、柔らかな声。
いつも気持ちを柔らかくしてくれる笑顔。
そういったものが一番心に響く。
名前の笑顔と言葉に優しく胸を揺さぶられ、とっさに気の利いた返事も浮かばず、銀時は「ああ」とだけ返事すると名前の手の上に自分の手を重ねた。
甘えるように、名前も銀時の肩にそっともたれかかってくる。
銀時はゆるく笑って名前、と甘い声で名を呼び、顔をあげた名前の唇を奪った。

「銀さん、見られちゃうよ」
「構やしねーよ、名前のことが好きで好きでしゃーねーんだよ俺は。したけりゃ場所なんざ関係なく奪いたくなっちまう」
「銀さん……」

瞳を潤ませた名前からおもむろに、ちゅ、と軽く唇が重ねられた。
すぐそこの道は車や人がひっきりなしに通っている。そんな場所で名前からこんなことをしてくるのは珍しい。
銀時は名前に唇を重ねられたままぽかんとした表情で目を見開き間近で目を閉じる名前の瞼を見ていた。
唇が少しだけ離される。名前の吐息が唇に甘く感じられ、銀時はその官能的な感触にごくりと喉を鳴らす。

「……私でよければ、いつでも奪って」

それだけを言うと、すっと顔が離れていった。
恥ずかしそうに頬を染めながら名前が可愛らしく笑う。
銀時は「名前にゃかなわねーな」と頬を緩ませた。
名前に心を奪われている自分に、奪ってと笑う名前。
どれだけ自分を虜にするつもりなのかと、たまらず名前の肩を抱き寄せる。

「じゃ遠慮なく」

二人は顔を寄せ合い、そして再び唇を重ねた。

「名前」
「銀さん」

ひしと抱き合う互いのことしか見えていない夫婦を見てか、どこまでも地獄の番犬のように追ってくる巨犬への恐怖か、
痩せた男は大泣きしながら走って遠くへ消えていった。





■ヒロインが近所の人に好意を持たれて、銀さんがヤキモチを妬く話
■定春の散歩をしながらイチャイチャする銀さんとヒロイン

このリクエストで書かせていただきましたー!
イチャイチャイチャイチャ、この夫婦はどれだけイチャイチャするつもりなんでしょうね。
そして近所の人、ごめんなさい!
リクエストどうもありがとうございました、とっても楽しかったです♪

2014 5/21 いがぐり

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