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企画
エレメンタリーバックストローク(藤)
真昼の暑さに焼かれた砂浜は、陽が落ちると共に温度が下がるから裸足で歩いても大丈夫。
夏休みに入ってすぐ、二人で海へ遊びに来た。
サンダルを脱ぎ捨て素足でさらさらとした砂の感触を楽しむ私。
海に向かって欠伸する藤くん。
その間抜けな表情にくすくす笑い声を上げると、欠伸で目の潤んだ藤くんが私を見て微笑む。
藤くんは繋いでいた手を引き寄せ、不安定な足場で体勢を崩す私をやんわり抱きとめると躊躇うことなく唇を重ねてきた。
夕日が綺麗で、波の音が心地よくて、まるで夢の中に居るような時間。

……が過ごしたい。

「おまえの妄想も相当アレだな。大体、俺がそんな恥ずかしいことすると思うか?ぜってー無理」

私の夏休みの壮大な計画を聞いた藤くんは、かなり呆れた顔をした。
太陽が傾いたとはいえ、げんなりするほど暑い通学路を藤くんと並んで歩く。

「妄想が実現できたらなと」
「まず海まで行くのが面倒」

そう言ってカシッとコンビニで買ったソーダのアイスを齧り、私にそれを渡す。
夏になり、帰り道にひとつのアイスを交互に食べるようになった私達。
こうして節約してお小遣いをためて、夏休みに色々なところへ遊びに行く計画を立てているのだ。

「海がダメならプールはどう?」
「そういや名前、ちっとは泳げるようになったのかよ。10メートル泳げねーやつは夏休み補習っつってなかったか?」
「聞いてよ藤くん!前は全く泳げなかったのに2メートルも泳げるようになったんだよ!この調子で行けばきっと来週には10メートル泳げるようになるよね!?」
「…よかったな名前。夏休みは学校のプール入りたい放題じゃねーか。俺はいねーけど」
「そんな!やっぱり無理!?」
「遊園地っつってもあっちーだろーしなー、涼しいとこがいいよな」
「…あの、藤くん。明日ヒマ?」
「あ?」

可愛く上目使いでおねだりするような声を出したというのに、藤くんの眉間に皺が寄る。
そんな怪訝そうな顔をしないで下さい。

「市民プールで泳ぐ練習付き合って!」
「2メートルがやっとの人間が一度の練習で10メートルも泳げるわけねーだろ」
「わからないよ。藤くんの愛の力でなんとかなるかも…」
「ならねー。名前の運動神経じゃ俺の愛を持ってしてもなんともならねーから。絶対に」
「あっはっは、藤くんが愛とか言ってるー」
「おめーが言い出したんだ!!」

顔を真っ赤にした藤くんにポカリと頭を叩かれた。

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「おーい藤くん、ここだよ」

各自着替えを済ませ、プールサイドで手を振る私を見つけて、藤くんが手をあげる。
お互い水着を着てるからか、なんとなく視線が泳いでしまう。なんか照れくさいぞ。
プールの授業、男女別々だからね。
通りすがりの女の子達が藤くんを見て目をハートにしていたけどごめんなさい、藤くんは私の彼氏です。
常伏町の市民プールは、数種類のプールがあってすごく混んでいた。
しかし流れるプールやスライダーがあるプールの方に人が集中していたので25メートルプールの方はそれほど混んでいない。

「名前、何持ってきてんだ…やたらデケーなそれ」

藤くんは私が持ってきた浮き輪を見て呆れ顔で笑う。

「だって浮き輪が無いと沈んじゃうからね」
「遊びにきたんじゃねーだろ」

とか言いながら私の手から浮き輪を奪い、ざぶんとプールに入った藤くんは、ちゃっかり浮き輪を使ってだらーんと身体から力を抜き、だらけモードに突入する。

「とりあえず泳いでみろよ。変なとこあったら教えてやるから」

はーい先生、と私も続いてプールに入り真剣モードに心を切り替える。
息を大きく吸い、顔を水につける。
どうよ!私の華麗なフォーム!
何故か進んでいかないけど。息継ぎもできないけど。
もがいてもがいて3秒後、力尽きて足が水底についた。
全力で頑張ったよ私!
姿勢を正して藤くんに笑いかける。

「どうかな?」

あれ、なんで絶句してるの。

「…これで2メートル泳いだってウソだろ」
「10メートルはいけそうな泳ぎだった?」
「なわけねーだろバカ!なんだその滅茶苦茶なフォーム!クロールっつーより犬かきだ!」
「ごめん具体的にどこをどう直したら良いか言ってくれないと」
「なんだその腹立つ返答は!どっからっつーか浮くところからやり直せ!」
「今日の藤くんの語尾、ビックリマーク多いね!」
「沈めるぞ」
「やめて」

手ェ出せ、と言われて手を前に出すと、藤くんが私の前に立ち、その手を握った。
どきっとする。藤くんの髪がしっとり濡れていて、イケメン度数が更にアップしている。
私は藤くんを顔で好きになったわけじゃないけど、ここまで綺麗な顔をしていると時々ハッとなることがある。
私の手を握って手の角度とか教えてくれてるけど、サッパリ頭に入ってこない。
藤くんは少し何かを考えると「おまえ、背泳ぎできるか?」と聞いてきた。
やったことないと素直に告げると「こっちの方が浮きやすいし、10メートルならなんとかなるかもしんねーぞ」と笑う。
なんだか悪戯を思いついたような表情の藤くんに小首を傾げた。

そして背泳ぎの特訓がはじまった。
っていっても、私は沈まないように背中で浮いて上を向き、リラックスしてふわーふわーと手と足で水を掻きながらのんびり進んでいくだけ。
これも泳ぎにはいるのかな、でも沈むよりはいいだろう。
みのり先生も、どんな泳ぎでも10メートル泳げたら補習は無しって言ってたもんね!

「おー、10メートルいったぞ名前」
「えっ、ほんと、こんなに簡単でいいの!?」

泳ぎをやめ、感激した勢いで藤くんに抱きつこうとしたら浮き輪が邪魔で抱きつけませんでした。ばーか、と藤くんは浮き輪の中ではにかんだ後「こん中来いよ」と空いてるスペースを指差す。
私が持ってきたのは二人で入れるくらいでっかい浮き輪なのだ。

「…下から?」
「まさか潜れねーとか言わないよな」
「で、できるよ!」

思いっきり息を吸ってさぶんと潜る。ぎゅっと目を瞑りたぶん藤くんが居るであろう場所へ移動し水中から顔を出した。
…おかしいな居ない。

「おいそこのバカ」
「おや、なんで藤くんが後ろに」

いけないいけない、反対方向へ行ってしまったらしい。
藤くんの呆れるというより唖然とした顔といったら。
あわわ、と恥ずかしさに真っ赤になりました。
目ェ開けて潜れというなかなか厳しい藤くんの言葉に、思い切って目を開けたまま再び水中へ。
するとゆらめく視界の先に藤くんの顔が見えた。一緒に潜ってくれたらしい。
藤くんの方へ向かって手を伸ばすと、その手をしっかり握られて、こっちだというように引き寄せられる。
息が持たなくて足で床を蹴り水面へ上ろうとするとニッと楽しげな笑みを浮かべ身体を抱きしめられ、身動きを封じられた。
こ…殺される!!と思った刹那、藤くんの唇が私の唇にぐっと押し付けられ、すぐに離れた。
そして抱きしめられたまま勢いよく水面へとざっぷんと顔を出す。

はあはあと息を整えながら今一体何が!?と目を白黒させる私を見て、藤くんが今日一番の良い笑顔で笑った。




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にしむー様のリクエストで、
保健室の藤くんの、海かプールで暑さも忘れるラブラブなお話でした!
いやーラブラブ!藤くんはヒロインにメロメロなつもりで書きました。(いつもですねホホホ)
しかし照れくさくて甘い言葉なんて吐きません。
だけど可愛くて仕方ないのだとおもいます。
ニヤニヤしながら書きました。
にしむー様、素敵なリクエストどうもありがとうございました!!

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