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silent child


 僕は知っている。

 今、ここで呟く5文字には意味がないって……。
 先生の前で言う5文字にこそ……、意味があるって。

  分かっているのに出来なかった自分が悔しくて……、家に着くまでずっと、泣きながら5文字を繰り返した。

 本当は、僕は泣いちゃいけないんだ。

 だって――、僕はちっとも可哀相じゃないから。

 可哀相なのはケイ先生。
 もう……、ギターを弾くことが出来ないケイ先生。
 一生懸命面倒見てやった僕から……、最後まで御礼を言われなかったケイ先生。
 綺麗で……、カッコよくて……、大好きだった……ケイ先生。

「ごめんなさい。」
(ありがとうを言えなくて)

 5文字と、6文字が、僕の頭の中をずっと、グルグル回っていた。

 あっ君を思い出した。
 ピーちゃんを思い出した。
 大和を思い出した。

――僕はどうして、変わることが出来ないの? 僕はどうして、たったの5文字や、6文字を音にすることが出来ないの?

 ベッドの上で、ずっと、体育館座りをして泣いていた。
 やっぱりまた……、大和はやって来た。
「憲太ー? 大丈夫かー?」
 大和はやっぱり苦笑してた。

「大丈夫なんかじゃっ、ないっ!」
 大和はまた、僕のベッドの上、僕の目の前にしゃがみ込む。
「うん、大丈夫じゃないよな。」
 大和はまた、ぽんぽんと頭を軽く叩く。

「僕は……っ、先生に……っ、有難うって言いたかった!」
「うん。」

「でも……っ、僕には……っ、声を出すことが出来なかった……っ!」
「うん。」

「僕は……っ、次こそは……っ、言うつもりだったんだ!」
「うん。」

「今日……っ、有難うって、言うつもりだったんだ……っ!」
「うん。」

 言いたかった……、伝えたかった……、聞いて欲しかった……、僕の気持ち。先生に対する気持ちを……、大和にぶつける。

 大和は一つ一つに「うん」を返してくれる。

 僕は大和の前でだけ、泣くことが出来る。
 僕は大和の前だけで、気持ちを思いっきりぶつけることが出来る。

 大和の前でだけ――、僕は僕になる。

 やっぱり大和のことが大好き。

「明日一緒に、お葬式行こうな。」
その言葉にもっと涙が溢れてきた。

 大和に抱きついて、胸に顔を押し付けて、僕は叫んだ。

「ごめんなさい……っ! ありがとう……っ!」
(6文字と、5文字を……っ)
「大丈夫、先生も分かってるよ。」
 大和は僕をぎゅっと抱いてそう言った。

「音に出して……っ、伝えたかった……っ!」
(でも、自分が頑張れなかったっ)
「大丈夫、いつか出来るよ。」
 大和は僕が落ち着くまで、ずっと抱きしめてくれた。


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あきゅろす。
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