silent child
9
僕は知っている。
今、ここで呟く5文字には意味がないって……。
先生の前で言う5文字にこそ……、意味があるって。
分かっているのに出来なかった自分が悔しくて……、家に着くまでずっと、泣きながら5文字を繰り返した。
本当は、僕は泣いちゃいけないんだ。
だって――、僕はちっとも可哀相じゃないから。
可哀相なのはケイ先生。
もう……、ギターを弾くことが出来ないケイ先生。
一生懸命面倒見てやった僕から……、最後まで御礼を言われなかったケイ先生。
綺麗で……、カッコよくて……、大好きだった……ケイ先生。
「ごめんなさい。」
(ありがとうを言えなくて)
5文字と、6文字が、僕の頭の中をずっと、グルグル回っていた。
あっ君を思い出した。
ピーちゃんを思い出した。
大和を思い出した。
――僕はどうして、変わることが出来ないの? 僕はどうして、たったの5文字や、6文字を音にすることが出来ないの?
ベッドの上で、ずっと、体育館座りをして泣いていた。
やっぱりまた……、大和はやって来た。
「憲太ー? 大丈夫かー?」
大和はやっぱり苦笑してた。
「大丈夫なんかじゃっ、ないっ!」
大和はまた、僕のベッドの上、僕の目の前にしゃがみ込む。
「うん、大丈夫じゃないよな。」
大和はまた、ぽんぽんと頭を軽く叩く。
「僕は……っ、先生に……っ、有難うって言いたかった!」
「うん。」
「でも……っ、僕には……っ、声を出すことが出来なかった……っ!」
「うん。」
「僕は……っ、次こそは……っ、言うつもりだったんだ!」
「うん。」
「今日……っ、有難うって、言うつもりだったんだ……っ!」
「うん。」
言いたかった……、伝えたかった……、聞いて欲しかった……、僕の気持ち。先生に対する気持ちを……、大和にぶつける。
大和は一つ一つに「うん」を返してくれる。
僕は大和の前でだけ、泣くことが出来る。
僕は大和の前だけで、気持ちを思いっきりぶつけることが出来る。
大和の前でだけ――、僕は僕になる。
やっぱり大和のことが大好き。
「明日一緒に、お葬式行こうな。」
その言葉にもっと涙が溢れてきた。
大和に抱きついて、胸に顔を押し付けて、僕は叫んだ。
「ごめんなさい……っ! ありがとう……っ!」
(6文字と、5文字を……っ)
「大丈夫、先生も分かってるよ。」
大和は僕をぎゅっと抱いてそう言った。
「音に出して……っ、伝えたかった……っ!」
(でも、自分が頑張れなかったっ)
「大丈夫、いつか出来るよ。」
大和は僕が落ち着くまで、ずっと抱きしめてくれた。
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