[携帯モード] [URL送信]

silent child


 僕は頑張って、声を出そうとした。必死に、必死に。

 事情を説明しないと……、謝らないと……、あっ君には許してもらえない。そう分かっていたから。

 それなのに――、声が出ないんだ。
 ただ、顔を真っ赤にすることしか出来なかったんだ。

 口を薄っすらと開けて、息だけが荒くなっていく僕。
 僕のことをバカと連呼して大泣きするあっ君。
 あっ君を慰めようと必死な大和。
 横たわったままピクリとも動かないピーちゃん。

 凄く……、泣きたくなった。でも……、僕は人前では泣くことが出来ない。
 たとえ泣けたとしても……、泣いちゃダメだと思った。

 だって――、僕はちっとも可哀相じゃないから。

 可哀相なのはピーちゃん。
 もっと可哀相なのはあっ君。
 もっともっと可哀相なのは、間に挟まれちゃった大和。

 僕はそこから走り去った。
 ピーちゃんを……、あっ君を……、そして、大和をそのままにして。

 僕が居なくなれば……、あっ君は泣き止むと思った。あっ君の気が収まるかと思った。
 喋ることの出来ない僕には……、それくらいしか出来なかった。それが僕の精一杯。

 国道まで走って引き返して、いつも僕が歩く道を一人で歩く。
 ブーブーと車が沢山走る国道の端を真っ直ぐ進む。

 そこまで来て……、僕は漸く泣いた。
 そこまで来て……、僕は漸く喋った。

「ごめんなさい。」

 車が立てる音よりも小さな声で、何度も呟いた。
 周りに人の居ないここなら……、車の音で煩いここなら……、こんなに簡単に喋ることが出来るのに。たったの6文字なんて簡単に声に出せるのに。

 だけど――、それじゃぁ意味がないって知ってた。
 あっ君の前で言う6文字に意味があるって知ってた。

 分かっているのに出来ない自分が悔しくて……、ピーちゃんに、あっ君に、大和が可哀相で……、お家に着くまでずっと、泣きながら6文字を繰り返した。

 お家に着けば、お母さんが居た。

「おかえりなさい。今日も学校楽しかった?」
「……うん。……楽しかった。」
(違う! 悲しかった!)
 僕は笑顔で答えた。

「そろそろ、お友達沢山出来たんじゃない?」
「今日も……新しい友達出来た。」
(違う! やっぱり友達作りは無理だった!)
 僕はまた笑顔で答えた。

 僕の部屋に着いて直ぐ、ランドセルを放り投げて、布団に包まって、ただ……泣いた。6文字をずっと……、ずっと……、繰り返しながら……。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!