[携帯モード] [URL送信]

silent child
16
 スタジオに入れば、マサキと石川君が待ち構えていた。

 石川君の顔を見れば、まだ怒っているってことが明らかで、なんだか近寄り難い。
 だけど……、マリオに背中を押され、凄い形相をした石川君の前に立たされる。

「「……。」」
 お互い無言で顔を見合わせた。

 言わなきゃ。あの6文字を……。
 だって、僕が悪かったんだから。
 そう思って、口を薄っすらと開いてみるんだけど……、やっぱり声が出てこない。

「ほら、大輝。」
「うっせぇよっ!」
 マサキが石川君を腕で突ついて、何かを促しているみたいなんだけど、石川君は眉間の皺を深くするだけ。
 僕もそれを見ながら、無言でぼっ立つだけ。

 本当は言いたいんだけど……、音にならないんだ。

 そのままの状態が暫く続いても、お互い無言。しんとした空気が、凄く気まずかった。


 やっと声が飛んだかと思えば……、それはマサキのものだった。
「先生、やっぱ大輝には無理無理ぃ。コイツ、自分から謝ったことなんて一度もねぇもん。」

 マサキが呆れた顔して言えば、石川君からまた怒声が飛ぶ。
「お前、マジうぜぇよっ!」
「“ごめんなさい”なんて、とてもじゃねぇけど、言えないぜ、コイツには。」
「くそっ! そんなハズイせりふ、誰が言うかよっ!」

――僕だけじゃない。石川君も言えない。

 僕は凄く驚いた。こんなに、ペラペラと喋ることの出来る石川君でも、あの6文字を音にすることは出来ないんだと聞いて……。
 出来ないのは僕だけじゃないんだと知って……、ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。それと同時に、体に入っていた力が、ふっと抜けていった気がした。

「もういいだろっ! 早くやろうぜっ! 時間勿体ねぇし……。お前も早く準備しやがれっ!!」
(僕で……、いいの?)
 さっきは僕とは組めないって言った石川君。僕にもう一度チャンスをくれるって意味だと気付いて、嬉しくなった。

 パンパンと手を叩いて、マリオが仕切りなおす。
「さぁ、もう一度やってみるぞい!
 ケンタッ! おじさんも一緒にやるからな。緊張するんじゃないぞ!」
「憲太、頑張ろう!」
「ケンタッ、ガンバー!」

 がんばれという言葉を貰って、僕の顔は赤くなった。けれど、さっきとは違って、体は凍っていない。
 僕は相棒を担いで、ケイ先生のピックを握った。
 直ぐ隣には、マリオが居る。少し離れた所に、大和とマサキと石川君が居る。5人だけの世界。

「いいか、ダイキ。ゆっくりだからな。
 よしっ! それじゃぁ、ダイキの好きなタイミングで、始めて。」
(始まる……)


カンカンカンカン
(始まった!)
 詰めていた息を吐くと同時に――、僕の右手は振り下ろされていた。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!