silent child
6
手紙を読んで……、凄く、顔が熱くなった。凄く、胸が温かくなった。
僕にそっくりなようで、少しずつ違う所のあるこの子。
僕は――、声を出すことは出来ない。けれど、顔を出すことは出来る。
この子は――、顔を出すことは出来ない。けれど、声を出すことは出来る。
この子は、僕のことを“凄い人”だと言う。
そんなこと、今までに言われたことがないから……、心の底から嬉しかった。
この僕が、凄い人だなんて言われる日が来るなんて思わなかったから。
僕からしてみれば、この子の方が“凄い子”の一人なのに……。
この子にとって、声を出すということは当たり前のことかもしれない。それでも、僕にとって、声の出すことが出来るこの子は、やっぱり凄い子なんだ。
多分、僕にとっての“当たり前”と、この子にとっての“当たり前”が違うから……、お互いのことを凄いと思うんだろうな。
なんだか……、不思議なことだけど。
僕はいつも、何でこんな簡単なことも出来ないんだろうって思っていた。
僕だけが、当たり前のことが出来ないんだと思っていた。
だけど――、人によって、当たり前に思うことは違うことを知った。
他の人にも、出来ないことはちゃんとあって、僕と同じように悩んでいるのだと知った。
――今までずっと……、僕の上に、重たく圧し掛かっていたプレッシャーや劣等感。この子のおかげで、ぐんと和らいだ気がする。
一緒に頑張ろうとしている存在を知った僕だって、今まで以上に頑張れそうな気がする。
色々なことを気付かせてくれたこの子に、お礼が言いたい。
僕にとっては、この子だって凄い子なんだってことを、伝えたい。
勇気をもって、頑張って手紙をくれたこの子に……、僕も手紙を書こう。
*****
クリスマス前のライブで、オリジナル曲を初披露するために、僕達はまた、スタジオに入り浸りの日々を送っていた。
教室に通う僕達は、生徒割引が使える。だから、練習するスタジオは毎回、格安ですむここ。noisy boysの始まりの場所。
いつも通り、来た順から練習に入る。
聞こえるのは――、僕の音と、大和の音。
二人で黙々と練習をする。
ガチャ
「おっはよーーっ!!」
ドアが開いて、店内の音と、マサキの声が飛び込んできた。
ドアを閉めれば、今度は3人の音の世界。
「おはよー。」
「おはようさん!」
挨拶を返しながらも、手を動かしたまま練習をし続ける僕と大和。
「おぉー! 頑張ってんなっ!! ダイキもあと10分くらいで着くってよ!」
「んー。」
「おー。」
練習に夢中で、てきとうに相槌を打つ。
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