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silent child


 手紙を読んで……、凄く、顔が熱くなった。凄く、胸が温かくなった。

 僕にそっくりなようで、少しずつ違う所のあるこの子。

 僕は――、声を出すことは出来ない。けれど、顔を出すことは出来る。
 この子は――、顔を出すことは出来ない。けれど、声を出すことは出来る。

 この子は、僕のことを“凄い人”だと言う。
 そんなこと、今までに言われたことがないから……、心の底から嬉しかった。
 この僕が、凄い人だなんて言われる日が来るなんて思わなかったから。

 僕からしてみれば、この子の方が“凄い子”の一人なのに……。
 この子にとって、声を出すということは当たり前のことかもしれない。それでも、僕にとって、声の出すことが出来るこの子は、やっぱり凄い子なんだ。

 多分、僕にとっての“当たり前”と、この子にとっての“当たり前”が違うから……、お互いのことを凄いと思うんだろうな。
 なんだか……、不思議なことだけど。

 僕はいつも、何でこんな簡単なことも出来ないんだろうって思っていた。
 僕だけが、当たり前のことが出来ないんだと思っていた。

 だけど――、人によって、当たり前に思うことは違うことを知った。
 他の人にも、出来ないことはちゃんとあって、僕と同じように悩んでいるのだと知った。

――今までずっと……、僕の上に、重たく圧し掛かっていたプレッシャーや劣等感。この子のおかげで、ぐんと和らいだ気がする。
 一緒に頑張ろうとしている存在を知った僕だって、今まで以上に頑張れそうな気がする。

 色々なことを気付かせてくれたこの子に、お礼が言いたい。
 僕にとっては、この子だって凄い子なんだってことを、伝えたい。


 勇気をもって、頑張って手紙をくれたこの子に……、僕も手紙を書こう。


*****



 クリスマス前のライブで、オリジナル曲を初披露するために、僕達はまた、スタジオに入り浸りの日々を送っていた。
 教室に通う僕達は、生徒割引が使える。だから、練習するスタジオは毎回、格安ですむここ。noisy boysの始まりの場所。

 いつも通り、来た順から練習に入る。

 聞こえるのは――、僕の音と、大和の音。

 二人で黙々と練習をする。

ガチャ
「おっはよーーっ!!」
 ドアが開いて、店内の音と、マサキの声が飛び込んできた。
 ドアを閉めれば、今度は3人の音の世界。

「おはよー。」
「おはようさん!」
 挨拶を返しながらも、手を動かしたまま練習をし続ける僕と大和。
「おぉー! 頑張ってんなっ!! ダイキもあと10分くらいで着くってよ!」
「んー。」
「おー。」
 練習に夢中で、てきとうに相槌を打つ。


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あきゅろす。
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