silent child 6 手紙を読んで……、凄く、顔が熱くなった。凄く、胸が温かくなった。 僕にそっくりなようで、少しずつ違う所のあるこの子。 僕は――、声を出すことは出来ない。けれど、顔を出すことは出来る。 この子は――、顔を出すことは出来ない。けれど、声を出すことは出来る。 この子は、僕のことを“凄い人”だと言う。 そんなこと、今までに言われたことがないから……、心の底から嬉しかった。 この僕が、凄い人だなんて言われる日が来るなんて思わなかったから。 僕からしてみれば、この子の方が“凄い子”の一人なのに……。 この子にとって、声を出すということは当たり前のことかもしれない。それでも、僕にとって、声の出すことが出来るこの子は、やっぱり凄い子なんだ。 多分、僕にとっての“当たり前”と、この子にとっての“当たり前”が違うから……、お互いのことを凄いと思うんだろうな。 なんだか……、不思議なことだけど。 僕はいつも、何でこんな簡単なことも出来ないんだろうって思っていた。 僕だけが、当たり前のことが出来ないんだと思っていた。 だけど――、人によって、当たり前に思うことは違うことを知った。 他の人にも、出来ないことはちゃんとあって、僕と同じように悩んでいるのだと知った。 ――今までずっと……、僕の上に、重たく圧し掛かっていたプレッシャーや劣等感。この子のおかげで、ぐんと和らいだ気がする。 一緒に頑張ろうとしている存在を知った僕だって、今まで以上に頑張れそうな気がする。 色々なことを気付かせてくれたこの子に、お礼が言いたい。 僕にとっては、この子だって凄い子なんだってことを、伝えたい。 勇気をもって、頑張って手紙をくれたこの子に……、僕も手紙を書こう。 クリスマス前のライブで、オリジナル曲を初披露するために、僕達はまた、スタジオに入り浸りの日々を送っていた。 教室に通う僕達は、生徒割引が使える。だから、練習するスタジオは毎回、格安ですむここ。noisy boysの始まりの場所。 いつも通り、来た順から練習に入る。 聞こえるのは――、僕の音と、大和の音。 二人で黙々と練習をする。 ガチャ 「おっはよーーっ!!」 ドアが開いて、店内の音と、マサキの声が飛び込んできた。 ドアを閉めれば、今度は3人の音の世界。 「おはよー。」 「おはようさん!」 挨拶を返しながらも、手を動かしたまま練習をし続ける僕と大和。 「おぉー! 頑張ってんなっ!! ダイキもあと10分くらいで着くってよ!」 「んー。」 「おー。」 練習に夢中で、てきとうに相槌を打つ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |