[携帯モード] [URL送信]

silent child
15

「ごめんなさいっ!」
(いつも甘えてばかりで)

「ごめんなさいっ!」
(ちっとも変われないムカつく僕で)

「ごめんなさいっ!」
(ごめんな、なんて言わせて)

「憲太、もういいからっ。もう、分かったからっ。」
 大和は、僕をぎゅっと抱いて、そう言った。
 だけど――、僕はまだ言い足りなくて……、大和の胸に顔を押し付けたまま、その6文字を繰り返した。

 気が済むまで、6文字を繰り返した後――。
 言い忘れていたことに気付いた。忘れてはいけない……、大切な5文字。

「ありがとう……っ!」
(いつも傍に居てくれて)

「ありがとうっ!」
(いつも僕を分かってくれて)

「ありがとうっ!!」
(大和……、大好き)
 大和はさっきよりも、ぎゅうっと僕を抱きしめた。僕が落ち着くまでずっと、苦しくなる程、抱きしめてくれていた。


バンッ!!
 突然大きな音がして、僕達はビックリして体を離す。目を見開いてる互いの顔を見ながら、真一文字に口を結んだ。

バタバタバタッ
 大げさな程に立つ足音。
ドンドンドンッ
 大げさな程に、僕達の居る個室のドアが叩かれる。次いで、飛んできたのは……、最近聞き慣れてきた声。
「ケンタァーッ! おじさんもトイレーー!
 我慢出来ないぃー、早くぅーーっ! 出てきてくれないとー、漏らしちゃうぅ!」
 マリオの大げさな程の、切羽詰まってますってフリをした声。絶対にフリに違いない。
 だって、隣の個室は空いているんだから。

 マリオの叫びを聞いて、大和の口が弧を描いた。僕自身も、口が緩んでいくのを感じる。

「あっ! えぇっと、おじさんはアレだっ! 奥の個室じゃないとダメなんだっ! そこの便器じゃないと調子出ないんだからなぁー!」
 明らかに、取って付けたような言い訳。
「〜〜っ、ぷっ。くくっ。」
 目の前の大和の口が終に開いて、笑いが漏れる。それを見て、なんだか僕まで、堪らなく面白く思えてきた。
「アハハッ! 先生、そりゃ無理があるでしょっ!ハハハッ!」
「〜〜っ、〜〜っ。」
 僕も笑いたいんだけど、マリオが直ぐ傍に居るって分かっているから、声が出ない。でも耐え切れなくて、クスクスと息が漏れていく。

「あー! ヤマト笑いやがったな! ケンタも隠れて笑ってんだろっ?」
「アハハッ! 憲太、そろそろ行こっか。」
「〜〜っ。」
 僕は、笑いを耐えながら頷いた。
 マリオとのかくれんぼは、マリオが可哀相だから、仕方無く捕まってやるって決めてるんだ。今日はいつもより時間がかかってしまったから、直ぐに扉を開けて出て行った。

 いつもとちょっと違ったかくれんぼ。
 出ていけば、マリオはいつものように、僕の背中をぐいぐい押して、スタジオに運んでいった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!