silent child 14 二回ドアを叩く音。 次いで、僕の聞きなれた声。 「憲太、居るんだろ? ここを開けて?」 慣れ親しんだ、大和の声。 僕の嗚咽はまた漏れ出した。僕の目から、再び、涙が溢れ出した。 僕の手は、あっという間に鍵に伸びていく。気付けば――、小さな小さな空間をあけ広げ、僕は……、大好きな大和を迎えていた。 「俺も入れて。」 大和は、僕の居た小さな空間に飛び込んできた。そして、扉を閉める。 また小さな世界が出来た。だけど今度はさっきとは違う。だって、僕だけじゃなくて……、大和も居る。 「憲太、大丈夫か?」 「大丈夫なんかじゃっ、ないっ!」 そして――、いつものやり取りが始まる。 でも、いつもと違うところがちょっとある。 僕は便器の上に座っていて、大和はその正面に立っているってこと。 それに……、いつも僕の部屋で行われていたやり取りが……、外の世界のトイレで行われているってこと。 いつもとちょっと違う場所で、いつもとちょっと違う体勢で……、いつもと同じように、大和に言葉を沢山ぶつけて、大和から沢山の「うん」をもらった。 僕が落ち着きを取り戻し始めた頃――。 「憲太、ごめんな。」 大和から、驚く4文字が飛んできた。あの6文字と同じ意味を持つ言葉。 「なに……、が……っ?」 その4文字が何を指すのかが分からなくて……、嗚咽を耐えながら大和に尋ねる。 「あの時。何も言えなくて……、何もフォロー出来なくて……、ごめんな?」 大和は苦笑なんかじゃなく……、哀しそうな顔をしていた。そんな顔をさせてはいけないと思い、僕は慌てて答える。 「そんなのっ、大和は悪くないっ! 謝る必要なんて、ないよっ!」 「でも……、ごめんな?」 それでも、4文字を繰り返す大和に……、また涙が溢れてきた。今度は違う意味で、目が、喉が、胸が……、熱くなった。 「俺、あの時……。矢口先生の言葉を思い出したんだ。」 「……うん。」 (僕も……) 「咄嗟に、分からなくなったんだ。俺は、どこまで口を出すべきなんだろうって。」 「……うん。」 (本当は……、僕が頑張らなきゃいけないことだって……、知ってた) 「俺、いつも憲太の代わりに喋ることしか考えてなかったから。」 「……うん。」 (僕は……、いつも甘えてばかりで……、助けてもらったことを喜ぶばかりだった) 「この先の憲太のこととか、何も考えてなかったから。」 「……うん。」 (僕は……、この先……、一人で頑張らなきゃいけないって、気付いてた) 「だから……、ごめんな?」 また言わせてしまった。違うのに。大和は悪くないのに……。 それを言うべきなのは――、僕だ。 「……っ、ごめんなさいっ!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |