silent child 8 授業が終わって、昼休みになった。 僕と大和はお弁当を持って、いつも通り校庭に行く。 いつもの場所。渡り廊下のコンクリート部分に腰を下ろして、お弁当を広げる。 ここは日差しも隠れるし、風通しもいい。それに、お尻に当たるコンクリートが、ひんやりと冷たくて、気持ちいいんだ。 「うーーん、やっぱ外は気持ちいいなぁ。」 大和はそう言って、両手を上に大きく広げ、伸びをする。 大和は外が好きだから、外でお弁当を食べたいんだって言う。暑すぎる真夏でも、寒すぎる真冬でも。そんな日に外で食べても、気持ちいいわけもない。 だけど――僕は知っている。 大和は別に、外が好きなわけじゃない。本当は、暑がりで寒がり。 大和は僕のために、誰もいない校庭で、一緒にお弁当を食べてくれるんだ。 大和は僕のために、僕が喋れる場所を作ってくれているんだってことを……、僕はちゃんと知っている。 大和以外居ないここなら、僕は簡単に喋ることが出来る。 「大和、ライブなんだけど……、やっぱり僕……。」 その後、何て続けようか悩んで、下を向き口を噤んだ。 「俺、思うんだけどさ。」 「出来ないよ」という言葉を言おうと思った所で、大和が代わりに声を出した。 隣を見れば、大和は真っ青な空を見上げていた。僕も何となく真似をして、空を見上げる。 「例えばさ、バンドを組むとするだろ? そうするとメンバーは4人はいるわけじゃん。そしたらさ、お客が100人居ても、1人に集まる視線はたったの25人だぜ? これって、教室で一人で発表するよりも、難しいことじゃないんじゃない?」 (そっか……、“一人じゃない”んだ) さっきの授業中、僕は、たったの38人でも出来ないのに、ライブなんてとんでもないって思ったけど……。ライブは、授業とは違うんだ。 ――僕は一人じゃない。 「それにさ、多分ボーカルが一番視線浴びるんだろうから、俺達が浴びる視線なんて、実際はもっと少ないと思う。 だからさ、俺も、他の仲間も居るし……、それにお前の相棒も俺の相棒も居るんだし……、やってみれば、ライブなんて、何てことないかもしれないぜ?」 最後に、こっちを向いて、にやりと笑った大和が眩しかった。ここは日陰のはずなに……、まるで太陽の光を浴びているかのように、眩しかった。 それに、カッコよかった。やっぱり大好きだって思った。 「そっか。そうだよね。一人じゃない。ステージに立つ時は……、仲間が居るんだよね。」 僕も、大和につられて、にやりと笑った。 不思議。さっきまではライブなんて絶対無理だって思っていたのに、今はなんだか出来そうな気がしてきた。 「ライブ、やってみようか。」 そう言ったのは、僕の方だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |