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silent child


「そのままじゃぁ、この先通用しないぞ。」
(そんなこと分かってる!)

「先生、俺が」
「いつまでも滝に甘えていられると思うな。」
 大和の声を遮って、先生はキツイ口調で言った。

 周りは次第にざわついてくる。
 数人が、近くの席の子とこそこそと、僕と先生のことを話している。

「時間が勿体ないよね。」
「受験生なんだぜ?マジ勘弁。」
「先生も放っておきゃいいのに。」
「高木君は仕方ないよ。」

 僕のことを責める声。
 先生のことを責める声。
 二人を責める声。

 僕だって――、わざとやってるわけじゃない。授業を止めて、皆の勉強を邪魔するつもりなんてないんだ。答えたいけど……、声が出ないんだ。
 なんでそんな簡単なことが出来ないのかなんて、自分でも分からない。
 どうして僕は……、こんなことも出来ないんだろう?

 やっぱり僕には……、出来ないよ。ライブだなんて、きっと出来ない。
 だって――、たったの38人の視線にも耐えられないんだから。たった38人の視線で……、僕の顔は上がらない。僕の体は動かない。

「高木、お前は」
ガラガラガラ
 先生が何か言いかけた時、教室の戸が乱暴に開けられる音が聞こえてきた。顔を上げることの出来ない僕には、誰なのかを見て確かめることは出来ないけれど、予想はつく。

「石川っ! またお前はっ!」
(やっぱり……、石川君)

 石川君は学校一の不良ってやつらしい。学ランの下にはいつも派手なTシャツを着て、今時ボンタンなんか履いて、周りから浮いている。

「どうしてお前は、いつも遅刻してくるんだっ!」
「うっせー。知るかよ。」

「その服装ももう少しなんとかならないのか!」
「ちっ、うぜぇーな。俺の勝手だろ。」
 「マジ、だりぃ」とか言って、石川君が席につけば、一斉にガタゴトと音がし出した。きっと皆が、石川君の席から自分の席を遠ざけた音。

「石川。教科書の32ページを開け。1行目から音読しろ。」
「はぁ? なんで俺なわけ? 勝手に読めば?」

「いいから読め。」
「意味わかんねぇー。」
 僕に向いていた視線は、いつの間にか、全部石川君に向いていた。僕の顔は漸く上がる。
 さっきの僕みたいに、石川君と先生のやり取りが続いている。
 だけど――、決して同じじゃない。

 僕は何も喋れなかった。
 石川君は言いたいことを言いまくっている。
 僕は顔を上げることが出来なかった。
 石川君は、先生をガンつけている。

 僕と石川君はちっとも似ていない。まるで正反対。
 石川君みたいに、自分の気持ちをぶつけるのって気持ちいいんだろうな。ちょっと行き過ぎだけど。
 
 僕と石川君。足して2で割ったら、丁度いいのかもしれない。


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あきゅろす。
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