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silent child


 熱い。顔が燃えそうなくらい……熱い。

 弦を強く押さえ続けたために、弦の形に窪んでじんじんと熱を持つ左手の指で、そっと頬を触ってみる。

 触ってみて気付いた。

 ネックの上を滑らすように動かして、じっとりと汗ばんだ左手よりも……、何も動かしてないはずの頬の方が熱くなっているってことに。

「もう一回いっとく?」
 僕の顔を見て、ニヤリと笑うマリオ。

 一曲演奏するのって実は凄く体力がいるんだ。
 ズシリと重いギターを抱える肩と、下に向きっ放しの首はガチガチに凝るし、ストロークをし続ける右手はズキズキと筋肉痛の予兆を見せ、左手の指先は熱を持ちじんじんと痺れる。
 僕はもう既に、ヘトヘト。

 それなのに――、僕の首は、辛うじて判断出来るくらい……、コクリと頷いていた。

 そして――、また始まる。

タン. タン. タンタンタン

――僕とマリオだけの音の世界。


*****



 レッスンが終わり、重い扉を開けた瞬間――、一斉に耳に飛び込んでくる音、音、音。
 それを聞いて、僕は元の世界に戻ってきたことを実感する。

「えいっ。こちょこちょこちょ。」
(のわっ! 止めろって!)

 マリオが僕の脇を擽ってくるから、僕は必死に店内に逃げる。
 そして、意味不明なおいかけっこが始まる。

 レッスンが終わった後、マリオは毎回一緒にレッスン室を出る。なぜかと思ったら、次の生徒さんが来る前に、外に煙草を吸いに行くためのようだ。
 決して、僕をお見送りに来るわけではない。多分……。

 店内を小走りで進めば、楽譜コーナーに大和を見つけた。慌てて、大和の背中に隠れ、大和を盾にする。

「よっ! ヤマト!」
「こんにちはー! マリ、じゃなくて丸尾先生!」

 僕がマリオマリオ言うもんだから、大和もついうっかり、口に出そうになるらしい。
 ヤマトは最近ベース教室に入った。僕が終わった頃、店内に戻れば、大和はいつも店内で待機している。

「ヤマトずるい! おじさんには、ケンタちっとも懐かないのにっ!」
「アハハ! 幼馴染ですから!」
「悔しい! いつか絶対懐かせてやるー!」

 僕を通して二人は仲良くなった。逆はあっても、こっちのパターンは一生有り得ないと思っていたから……、なんだかむず痒い感じがする。


「ケンタ、ちょっと真面目な話、聞いて。ヤマトも後から、話しあると思うけど。」

 マリオの変わった声音に、ヤマトの背からひょいと顔を出す。僕を見て、髭を揺らし、にたりと笑うマリオ。

「二人とも、発表会ライブ出てみない?」

 ライブという3文字に、体の中で何かがざわめいて、ドクンと心臓が音を立てた。


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あきゅろす。
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