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silent child


*****



 気付けば――、大和の髪はツンツンに立っていた。

 柑橘系のワックスの匂いも、大和の匂いとして定着している。グレープフルーツか、何かの香り。僕はこの香りが大好き。

「滝ー、寝癖凄ぇぞ?」
「先生酷い! これはオシャレだよー!」

 矢口先生は、「寝癖だろ?」とか言って、大和の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜる。「セットが崩れるー」とか言って、大和はいつも抵抗していた。

「滝! 髪を元に戻せ!」
「滝! お前はいつから不良になった!」
「やる気のないヤツは、授業に出なくてもいい!」
「教室から出てけ!」

 矢口先生以外は、そうやって大和に怒鳴っていた。だけど……、大和は決して直してきたりなんてしない。
 それがイイことなのかって聞かれたら……、やっぱり校則違反だから、ダメなことなのかもしれないけど……。
 でも……、僕には大和がカッコよく見えた。大和が誰よりも輝いて見えた。

 大和の私服も日に日に変わっていく。
 雑誌なんかに出てくる、まさにバンドやってますって感じのモデルさんみたいな……、そんな格好。

「憲太ー! 昨日これ見つけたんだ!」
 そう言って嬉しそうに腕を掲げてみせる大和。そこには――、黒革に丸鋲スタッズがついたリストバンドが嵌っていた。

――カッコいい。羨ましい。

 思わず……、それに魅入りすぎて、喋るのを忘れていた。

「憲太、手出して?」
「なんで?」
「いいからいいからー!」

 僕は大和に言われた通り、左手を前に出した。

「実は、憲太の分も買ってきたんだ!
 ほら、これでオソロイ!」
 大和は、僕の腕に、大和がしているものと全く同じリストバンドを嵌めた。

「ありがとう!」
 僕は嬉しくて、何度もそれを撫でる。なんだか僕も、大和に近づけた感じがして、嬉しくて……、あっという間に顔に熱が集まっていく。

「憲太って腕細いのな! 俺と穴の位置、三つも違ったし!」
 中学生にしては、体格の良い大和。僕は中学生にしては、ひょろい体つき。軟弱な僕にはスタッズなんて似合わないかもしれないけど……、それでも構わなかった。ずっとしていたかった。

 真っ赤な顔をしたままお家に帰ったら……、お母さんが居た。
 僕は急いで、袖で腕を覆い隠す。

「憲太、髪がだらしないわ。そろそろ切ってきなさい。」
「……うん。」
(ヤダ!大和みたいにツンツンにしたい!)

「憲太に似合うと思って、この服買ってきたの。」
「……有難う。」
(そんなダサいの着たくない!)

 自分の部屋に入って直ぐ、リストバンドを撫でる。

――やっぱり僕は、ちっとも変わっていない。僕は……、ダサいまま。


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あきゅろす。
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