silent child
11
ギターが今、僕の膝の上に乗っているということに緊張やら興奮やらし出して、手が汗ばんでくる。ツルツルしているピックを、今にも落としてしまいそうだ。
「テキトーに弾いてみな?」
(てきとうって言われても……)
「あぁ、初心者かぁ。ちょい手開いて?」
(手?)
「ピックはこんな感じ。」
お兄さんは、ゴツゴツした手で、僕にピックの正しい持ち方を教えてくれた。
(で? 弾くにはどうすんの?)
「何処でもいいから弾いてみな?」
いつもなら絶対に、どうしていいか分からなくて下を向き赤くなる場面。だけど、今は何かが違った。ギターに対する興奮か、親しみやすいお兄さんのおかげか、理由は分からないけれど……。
僕は恐る恐る、一番上にある一番太い弦を弾いてみた。
ベーーン
何だか想像と違った間抜けな音が出た。
(なんか……、違う)
「なんだよ? なんか不服? あぁ、もしかしたら電気流した方が良かった?」
(電気?)
お兄さんは「ちょい待ち」とか言って僕の傍を離れ、黒い箱とヘッドホンを持って戻ってきた。
ギターと箱を線で繋ぎ、僕にヘッドホンをつけたお兄さんはニヤニヤしながら言った。
「もう一回やってみな?」
耳元でザァーという小さなノイズを聞きながら、僕はもう一度手を動かした。
瞬間――、
ジャーーーーーンッッ!!
爆発的な音が耳元で発生し、僕の内臓がズドンと揺れた。
「どう? 凄いべ? 今度は五本一気に弾いてみな?」
僕はお兄さんに言われるままに弾いた。
その後は、もう夢中だった。普段の僕からは、考えられない程、積極的に弦を弾きまくった。
ギターをお兄さんに返す時になって、僕の口元が緩んでいることに漸く気付いた。慌てて、引き結ぶ。
こんなことは初めてだった。
この僕が、大和以外の前で……、笑うなんて……。
――弾いた瞬間、自分も弾けた。
昨日のギタリストの言葉を思い出す。
僕も……、なれるかもしれない。
新しい自分に……。
そう思った瞬間――、全身に何かが走りぬけ、鳥肌が立った。僕はあっという間に、ギターに魅せられていた。
*****
「大和、僕……、ギター始めようと思う!」
「カッケーじゃん! 俺も楽器やってみたかったんだぁ! 憲太がギターなら、俺、ベースやってみようかなぁ!」
「やってみなよ! いつかバンド組めるといいね!」
それから二人で必死にお金を集めて、再び楽器屋さんに行った。今度は大和も一緒に。
「いらっしゃいませー!
って、あぁ、この間の坊主じゃん!」
この間のお兄さんが変わらない笑顔で迎えてくれた。
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