silent child 8 夜、大和がやってきた。 「憲太ー? 大丈夫かー?」 大和は、いつもと変わらない調子で聞いてくる。少し違うのは……、へらへらした顔じゃなくて、明らかに苦笑だったってことくらい。 ベッドの上で、体育館座りをしたまま僕は叫ぶ。 「大丈夫なんかじゃ、ないっ!」 大和は苦笑したまま、僕のベッドの上、僕の目の前にしゃがみ込む。 「うん、大丈夫じゃないよな。」 ぽんぽんと頭を軽く叩かれれば、もう止まらない。 「僕は……っ、ピーちゃんなんか知らなかった……っ!」 「うん、知らなかっただけだよね。」 「僕には……っ、お花しか目に入らなかった……っ!」 「うん、夢中だったんだよね。」 「僕は……っ、何のためにお花を集めてるのか知らなかったんだ……っ!」 「うん。そうだよね。」 「本当は……っ、そんなつもりじゃないって、言い訳したかった……っ!」 「うん。分かってる。」 言いたくて……、でも言えなくて……、ずっと喉に引っかかっていた言葉を、泣きながら吐き出した。 言いたかった……、伝えたかった……、聞いて欲しかった……、僕の気持ち。 大和は一つ一つに「うん」を返してくれる。 僕は大和の前でだけ、泣くことが出来る。 僕は大和の前だけで、本心を思いっきり叫ぶことが出来る。 大和の前でだけ――、僕は僕になる。 大和は僕のことを分かってくれる。家族よりも……、誰よりも……。 そんな大和は僕にとって、特別な存在――。大好きで、大切で、唯一の存在。 「あっ君が、憲太に“ごめんなさい”って言っておいてって。」 その言葉にもっと涙が溢れてきた。あっ君はやっぱり凄くいい子だったから。 大和に抱きついて、胸に顔を押し付けて、僕は叫んだ。 「ごめんなさい……っ! ごめんなさいっ!」 (その6文字は僕が言うべき言葉なのにっ) 「大丈夫、あっ君も分かってくれるよ。」 大和は僕をぎゅっと抱いてそう言った。 「友達に……っ、なりたかった……っ!」 (でも、自分でダメにしたっ) 「大丈夫、なれるよ。」 大和は僕が落ち着くまで、ずっと抱きしめてくれた。 次の日――。 あっ君は、僕のクラスまでやってきた。 「昨日はごめんね? また一緒に帰ろう?」 優しいあっ君は、綺麗な笑顔でそう言って、僕のことを許してくれた。 でも――、やっぱり僕は喋れなかった。言いたかったのに……、あっ君を目の前にしたら……、たったの6文字さえ音にならなかった。 それから、あっ君と一緒に帰ることはなかった。 あっ君が嫌いだったわけじゃない。 あっ君を許せなかったわけじゃない。 僕は僕を……、許せなかったんだ――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |