silent child
5
(何で……っ?)
言いたいのに……、音が出ない。
喉が張り付いて、体がカチンコチンに凍ってしまったみたいなんだ。
最後なんだから、絶対に言いたいのに……、矢口先生に向けて、大きく返事をしたいのに……。
――たったの2文字なのに、どうして僕は言えないの?
そんな自分がムカついて、そんな自分が悔しくて……、あっという間に熱くなる。
次第にざわつく周り。
先生達に、在校生に、卒業生に、保護者。
皆の視線が僕へと向く。
(熱い……っ)
――がんばれ!
応援の4文字が隣から飛んできた。
隣に座っているのは、大和。
「憲太なら出来るよ。」
(大和……)
更には……、
「がんばれ。」
「高木、出来るよ。」
「お前なら、言えるって。」
小さな声で、クラスの皆も励ましてくれる。
近くの席の奴等が、僕の肩や背中をぽんと叩いて、力を分けてくれる。
僕に――、出来ないはずがないんだ。
ケイ先生を思い出した。
直接言えなくて、後悔した思い出。
でも、お葬式ではちゃんと言えた。感謝の5文字。
カレンを思い出した。
初めて「がんばれ」を頑張った思い出。
沢山の人が居るライブで、ちゃんと言えた。応援の4文字。
5文字や4文字だって言えたんだ。
――たったの2文字くらい、僕には言えるはずだ!
僕は、ちゃんと知っているんだ。
自分の口で紡ぐことが、大切だってこと。
だから――、後悔しないように……。
(喉に引っ掛かった言の葉)
『高木憲太。』
(君まで、飛ばせ!)
「……っ、……っ、」
「……はいっ!」
(やっと飛んだ!)
僕の体を押さえつけていた氷が一瞬にして溶け、一気に体が飛び跳ねた。
向かうのは――、立ち慣れたステージの上。
足が上手く動かなくて、何度ももつれそうになる。
それでも何とか前へ、前へと踏み出し、ゆっくりと進む。
前に礼、右に礼、左に礼をしたら、ステージへの階段を登る。
いつもとちょっと違うステージの上。
周りは暗くもないし、スポットライトが当てられているわけでもない。観客は、ちゃんと着席しているし、ハイテンションになって騒いでもいない。
それでも、変わらないことがある。
ステージの上は――、相変わらず熱かった。
校旗に向けて礼。
中央へと進み、右向け右。
校長先生と向き合ったら一礼。
「おめでとう。」
お祝いの5文字を貰い、礼をしながら卒業証書を受け取る。
最後に回れ右をして、一礼。
(これで、僕の出番は終わった)
パチパチパチ!!
いつも通り、観客の拍手をもらいながらステージを下りる。
いつもと違って、歓声は一切無し。
それなのに……、なぜだろう。凄く、気持ちが良かった気がする。
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