silent child
4
だって――、知らなかったんだ。
僕の存在が、皆の中にちゃんとあったんだってこと。
意外に僕のこと、皆は見ていてくれたんだってこと。
(どうしようっ)
嬉しくて、堪らない。
顔だけじゃなくて……、目の奥も、喉も、胸も熱くなる。熱で溢れ返り、苦しくなって、下を向いた。
ちょっと遅くなってしまったけど……、僕の中でも漸く、クラスメイト38人全員が“仲間”になった。
こんなに僕のことを見ていてくれた皆に、ちっとも打ち解けようとしなかったこと、凄く反省した。
「高木っ! 俺のにもメッセージ書いてくれよな!」
「あっ! そうだな! 俺も俺もっ!」
「ずるいっ! 私だって書いて欲しいよ!」
「そんなん言ったら、私だって! ちゃんと書いてよね、高木っ!!」
下を向いて真っ赤になっていた僕は、あっという間に囲まれた。僕の顔は、益々赤くなっていく。
ペンを渡され、早くと急かされて、何を書いていいのか分からずに……、とりあえず感謝の5文字を書きまくった。
全部同じじゃん、とか言いながらも、皆は喜んでくれたようだったから、安心した。
そんなことをやっていたら、矢口先生がやってきた。
「お早う! 皆居るな? いよいよ卒業式だ。
そろそろ始まるから、廊下に並べ!」
(始まる……)
ぞろぞろと廊下に出て行く皆に、僕も続く。
整列をした後、体育館へと向けて、行列は進行を始めた。
(もう直ぐ始まる……)
体育館の入り口に着けば、他の行列の後へと合体する。
そして、合図があるまで待機。
『卒業生、入場! 皆さん、拍手でお出迎え下さい。』
(始まった……)
聞こえるのは――、溢れる程の拍手の音。
*****
『須藤琢磨。』
「はい!」
どうしよう。回ってくる。
『瀬古一真。』
「はい!」
僕の番が……、回ってくる。
練習では一回も出来なかった。
名前を呼ばれたら、「はい」と返事をして席を立ち上がり、壇上に上がって卒業証書を受け取る。唯、それだけなのに。
(大丈夫、出来るはずだ)
だって――、ライブっていう人の沢山居る場所で、声を出せたことだってあるんだから。
だって――、ステージに上るのなんて、何回もやって慣れているんだから。
(大丈夫、出来る!)
口を薄っすらと開けて、浅い呼吸を繰り返す。顔に、一気に熱が集まっていく。喉も痛くなる程、熱い。
(言え!言うんだ!)
『高木憲太。』
「……っ。」
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