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silent child


 だって――、知らなかったんだ。
 僕の存在が、皆の中にちゃんとあったんだってこと。
 意外に僕のこと、皆は見ていてくれたんだってこと。

(どうしようっ)
 嬉しくて、堪らない。
 顔だけじゃなくて……、目の奥も、喉も、胸も熱くなる。熱で溢れ返り、苦しくなって、下を向いた。

 ちょっと遅くなってしまったけど……、僕の中でも漸く、クラスメイト38人全員が“仲間”になった。

 こんなに僕のことを見ていてくれた皆に、ちっとも打ち解けようとしなかったこと、凄く反省した。


「高木っ! 俺のにもメッセージ書いてくれよな!」
「あっ! そうだな! 俺も俺もっ!」
「ずるいっ! 私だって書いて欲しいよ!」
「そんなん言ったら、私だって! ちゃんと書いてよね、高木っ!!」

 下を向いて真っ赤になっていた僕は、あっという間に囲まれた。僕の顔は、益々赤くなっていく。
 ペンを渡され、早くと急かされて、何を書いていいのか分からずに……、とりあえず感謝の5文字を書きまくった。
 全部同じじゃん、とか言いながらも、皆は喜んでくれたようだったから、安心した。


 そんなことをやっていたら、矢口先生がやってきた。

「お早う! 皆居るな? いよいよ卒業式だ。
 そろそろ始まるから、廊下に並べ!」

(始まる……)
 ぞろぞろと廊下に出て行く皆に、僕も続く。
 整列をした後、体育館へと向けて、行列は進行を始めた。

(もう直ぐ始まる……)
 体育館の入り口に着けば、他の行列の後へと合体する。
 そして、合図があるまで待機。

『卒業生、入場! 皆さん、拍手でお出迎え下さい。』
(始まった……)

 聞こえるのは――、溢れる程の拍手の音。


*****



『須藤琢磨。』
「はい!」
 どうしよう。回ってくる。

『瀬古一真。』
「はい!」
 僕の番が……、回ってくる。


 練習では一回も出来なかった。
 名前を呼ばれたら、「はい」と返事をして席を立ち上がり、壇上に上がって卒業証書を受け取る。唯、それだけなのに。


(大丈夫、出来るはずだ)
 だって――、ライブっていう人の沢山居る場所で、声を出せたことだってあるんだから。
 だって――、ステージに上るのなんて、何回もやって慣れているんだから。

(大丈夫、出来る!)
 口を薄っすらと開けて、浅い呼吸を繰り返す。顔に、一気に熱が集まっていく。喉も痛くなる程、熱い。
(言え!言うんだ!)


『高木憲太。』
「……っ。」


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