予測不能な未来 31 一介の役人が知る情報は大したものではない。 旧日本国の情報を最重要秘密事項としている以上、大臣クラス以下には下手な情報開示は出来ない。詳細を知らない者にすれば、現状維持が最適か疑問を感じるのは致し方がないのだ。 世間では穏便派と言われるバーナードの父が総裁を務めているからこそ、現代の日本の均衡は守られている。唯一の繋がりである新日本国総裁の考え方一つ、伝え方一つで新日本国民の世論は変わるだろう。 「まぁ、大した力のない末端にいる政治家達に過ぎないがな。奴らは知らないのさ……旧日本国の科学力を」 「科学力?」 「あぁ――旧日本国の科学は、先進国と言われる新日本国より遥か先を行くんだそうだ。こちらの情報は全て筒抜け。ファイアーフォールなんてなんのその。怪しい素振りを見せようものなら、一瞬で国は灰になりかねない……親父はそう言っていた」 「意外だな」 天華は驚くような素振りをして見せた。 世間の一般論は、旧日本国が存在していたとしても、知識・技術は平成の時代で止まっている、もしくは退化しているというものだからだ。 だが、実際の強者は――旧日本国。 その脅威を前に、新日本国は逆らうことが出来ない。 それは天華にとって、既知の事実であった。 かつて――旧日本国の知識・技術に触れたことがあった。知識として吸収できたのは、専門としていた暗号理論のみだが……全く知らなければ、今このスクールに天華や天覇はいなかっただろう。 あれから数年が経ち、旧日本国は更なる技術発展を遂げたことが予想される。 ―― 天華は心の底が冷えていくのを感じた。 それを悟らせないように、ゆっくりとした動作で茶杯に口をつけた。 その後の話は、既に聞いたことのあるものばかりであった。 大多数は、アジア人の少年が日本人に見立てられ売買されるという、日本人コレクターによる人身売買問題。 旧日本国を保護する限り、新日本国との共存を認めるという不可侵条約。その条約を改正すべきだという過激派の動き。 自ら日本人だと名乗り出て、注目を浴びようとする偽物事件。 旧日本国は謎に包まれている。 それ故に、嘘と混乱が社会を渦巻いていた。 [*前へ] [戻る] |