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雪の降る日

ちらちら。

なんだか寒いなと窓の外を見て、一瞬自分の目を疑った。

これは、あれだ。




「………雪、」




ぽつりと呟いて、ぶるりと体が震えた。

剥き出しの腕をさすって寒さを和らげようとしてもちっとも温まらない。

クローゼットに何か羽織る物でもないかと立ち上がりかけたそのタイミングでノック音が三度鳴った。




「どうぞ」




完全に立ち上がり扉を見遣る。

かちゃりと開いた扉から入室したのは見慣れた男だった。




「失礼するよ」

「あら、ブラッド」




珍しいといえば珍しい訪問者だ。もっぱらアリスの方がブラッドを訪問している為にアリスの部屋に彼はあまり来ない。




「やあ、お嬢さん」

「何か用事かしら」

「いきなり気温が下がってお嬢さんが震えているんではないかと思ってね、親切な私はわざわざ君にこれを届けに来たのだよ」




そう言って手に抱えていたもの(入って来た時は気付かなかった)をほら、と差し出す。




「必要ない、ということはまずないだろうが使用するしないに関わらずそれは君に上げるよ。プレゼントだ」

「…ありがとう、助かるわ」




受け取ったそれはコートとカーディガンだった。

どちらともにも帽子屋のシンボルと言っても差し障りがないだろうトランプマークがちゃっかり入っている。




「外はここより寒い、外出するなら風邪を引かないように気をつけなさい」

「ええ」

「部屋を暖めるなら使用人を呼ぶといい、何か欲しいものがある場合もだ。……引っ越し後はこれだから面倒だな」




ちらりと部屋に備え付けられた暖炉を見て、心底ダルそうに彼は溜め息を吐いた。

そしてアリスの姿を見て、ううんと唸った。




「どうしたの」

「いや寒そうだと思ってね、マフラーと手袋も用意しようか」

「え、いいの?」

「もちろん。君が望むならなんだって用意するよ」




コートとカーディガンだけでも有り難かったが他に防寒具があるなら心強い。

茶化すように笑うブラッドがぱちん、と指を鳴らした。




「…いつ見ても奇術みたい」

「残念ながら種も仕掛けもないがね」




アリスの腕の中にぱさりと追加されたマフラーに手袋。

指を鳴らしただけで出てくるなんてなんて便利なんだろうか。




「ではアリス、出掛けるならちゃんと夜までには帰ってくるんだぞ」

「何その不規則かつ不安定な門限」

「夜は私の相手をする。当然だろう」

「何が当然よ」




きょとんと首を傾げるブラッドに今度はアリスが溜め息を吐く。




「お嬢さんはワガママだな」

「…あんたには言われたくないわ」

「おや、辛辣だね。では私は部屋に戻るとするよ」




ふふ、と笑顔を残してブラッドは部屋を出ていった。

話している間に気温はより下降したのかアリスはまたぶるりと震える。

久しぶりの天候に散歩でもしてみるかと、窓の外を見てぼんやり思った。






e.

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拍手没話。←



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あきゅろす。
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