君の天秤
ふらふら
ゆらゆら
揺れる君のココロ
「帰らなければいけないわ。だって此処に姉さんはいないもの」
「君はシスコンか何かか?姉妹を大事にすることはやぶさかではないが、度を超せばそれも負担にしかならないぞ」
「…どうしてそうなるの、話を飛躍させないで頂戴。確かに姉さんは大事だけど、度を超してなんかないわ」
「シスコンは否定しないんだな」
「姉を大切にするのは当然でしょう」
「君には妹もいるだろう?」
「勿論、両方大切よ」
「そうかな。そうは聞こえなかったが」
常日頃と変わらずどこかだるそうに話す男を睨み付ける。
怖い怖い 睨まないでおくれよ、と差ほど恐れた様子もなくたらたらと笑うブラッドに攻撃態勢だったアリスはペースを崩され脱力した。
「君は姉さんが大好きだなあ」
「ええ、そうね」
「姉さんがいなければ此処に残る事だって満更じゃないだろう」
「どうかしら」
「満更じゃないよ、君は」
今だってね、気だるそうな物言いにこちらまで感化されて反論する気力も削がれていく。
「けれど、君は姉さんに、若しくはそれに関連する事柄に執着して帰らなければなどと言っている。全く馬鹿げた事だ」
「どこが馬鹿げた事よ。私は至って真剣だわ」
「馬鹿げた事だよ。私に望まれているのに君は遠くへ行こうとする。そんな行為は私にすれば馬鹿馬鹿しいし、とてつもなく馬鹿げた事だ」
「自分勝手ね」
「私はそれでいいんだ」
「この自己中男」
「誉め言葉として受け取っておこう」
ふふ、と瞳を細めて笑う男はふと何事か思い付いたようにぽんっと手を打った。
「そうだ、アリス」
「なぁに?」
「ひとつ君に予言してやろう、イカサマなんかじゃなく数ある中のひとつの真実を」
「いつから占い師になったの、貴方」
「いつからでも。敢えて言うなら今だな」
楽しそうなブラッドに呆れた視線を投げる。
この世界の住人はなぜこうも唐突なのだろう。
脳の回路の繋ぎ方が違うのだろうか、とはアリスの些細な疑問だ。
「君はね、アリス。元の世界に帰ったところで幸せになれはしない」
「何を言うかと思えば」
「何故なら君は縛られているから。身動きなんて到底とれそうにない程雁字搦めにね」
「まあ素敵」
適当な相槌をうってもブラッドは気にしない。
気にするどころか自分の言った言葉に気分を害したようで、むっつりと口をへの字に曲げて眉間に皺を寄せている。
「一番の原因が今すぐ手の打てない場所にいる相手だなんて、…なんて胸糞の悪い」
「あら物騒ね」
一人でころころと気分を変えている相手を鼻で笑い、アリスは温い紅茶を口に含む。
ブラッドの部屋に於いてのアリスの定位置で読書に勤しんでいた筈が何故こんな話になったのだろう。不思議だ。
やがてブラッドはなんらかの形で自己完結させたのか、いつものだるだるとしたスタイルを取り戻していた。
「お嬢さん、姉離れなんてどうだろう」
「貴方って時々本当に馬鹿なんだなって思うわ」
ふらふら
ふわふわ
揺れるココロはどちらに傾くのか
(けれどこの世界は愛しいのだと)
e.
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