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捌。 みえたよ




今回の元凶と対面――その前に。
ひとつ思い出すこととなった。


――数日前に屋上庭園であった会話。
不知火会長と私。

あのときの私は、自分でもおかしなくらいあっさりと、それでいてはっきりとした意志を持って屋上庭園へ足を向けていた。
最初は「ゲームにあったし、たまたま思いついたんだろう」くらいにしか考えていなかった。

けれど違った。


そんな偶然のようなものじゃあなかった。
私も不知火会長も“知って”いたんだ。
お互いにお互いが、その場所にいることを。


つまるところ――私には星詠みの力が宿っていた。


信じられなかった。
信じたくなかった。

他に星詠みという力を欲する人がいるならそれらにはとても失礼な話だが、私は未来なんて知りたいとは少しも思わない。
先を知ったら何か得をするのだろうか。いや、しないと私は思う。
むしろ、良い未来も悪い未来も視えるだけに過ぎなくて、歯痒いだけだ。

そんな思い、したくない。

不知火会長は単純に凄いと思ってはいた。
その“未来”というものを変えるために自身を考えに入れない。
少しでも良い方へ、と。
でも私にはそんなこと到底できないと確信していた。

昔からネガティブ、と言われる性格を持っているのは自覚している。
しかしそれの何がいけないのだろう。
“もし私のせいで私以外が傷付いたら”と、考えてしまうのはダメなのか。
視た未来を変えようと動いて、失敗したら……と。

分からない。


そんな事実を言葉にして伝えられたのが、屋上庭園での会長との最後に交わされた言葉だった、というわけだ。
       .......
「お前は――星詠みができるだろ?」


その時は答えられなかった。
いや、“答えないという選択をした未来”を“視た”からかもしれない。
どちらにせよ、その問題については保留状態だった。


今、この刻までは。


「……会長、」
「ん、なんだ――視えちまったか?」

少し残念そうに、でも少し嬉しそうに、そして見定めるようにそう問われた私は静かにただ頷いた。
そんな私の反応に、会長は苦笑を返すのみだった。
視えてしまったのだ、今回の――大元が。
これからあの扉を開けて入ってくる、人物の顔が。


「じゃあ、まぁいつまでも隠していても仕方ないしな。
おい――――翼」

その声に反応したかのように開いたドアからゆっくりと顔を覗かせたのは、紫頭の天羽翼くん――――――ではなかった。
その部屋にいた三人は驚いて、その場で一時停止する。


「あれ、一樹?なんでそんなに驚いた顔してるの」
「誉……か、」
「うん見ての通りだけど。なんだ、僕がここへ来るのは視えてなかったんだ」

そう楽しげに言ってくすり、と笑った誉先輩は後ろ手に生徒会室の扉を閉めてこちらに歩み寄ってくる。
突然の登場のせいか、はたまた誉先輩独特のほんわかとしたオーラのせいか。
部屋の空気は途端にゆるいものへと変わった。


「――つーか、だったら翼は何処なんだ?」
「あ……」




蝉が鳴くのをやめた日が



(訪れるから)
(もうばいばいだって)
(知 っ て る よ)



fin.




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