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参。 ほしよみ


「じゃあ僕らは帰りますが、」
「うん、送ってくれてありがとう。おやすみ、二人とも」

私と、梓と誉先輩は女子寮の前まで来ていた。
私は別にいいって言ったんだけれど、二人が送っていくと五月蠅いから付いてきてもらったのだ。


「本当に気を付けてくださいよ?」
「そうだよ、月白さん。
悪い輩(やから)だって少なくはないんだから」
「はあ、」
「心配ですね…。
架月には夜久先輩みたいに、べったりな幼馴染とかいないですし…」

あぁ、あの某オカン達ね。

「そうだね。
なら、僕の部屋に来る、月白さん?」

「え」
「部長!」

「ふふ、冗談だよ。木ノ瀬君はこわいなあ。
あ、でも月白さんが来たいなら大歓迎だけどね?」
「架月、別に部長だけに頼る必要ないですからね」
「…あは、ありがと!
でも私は大丈夫だから。それより、梓の方がよっぽど可愛いんだから気をつけなよ」

ほら、男子校って―――ねぇ?


「……。え、それ、誉めてます?」
「どうかなーうふふ」
「なんですか、それ。
あーあ、架月なんて心配しなくてもよかったかもしれないですねー。
お腹も空きましたし、そろそろ帰りましょう部長」
「はいはい。じゃあね、月白さん」
「…。うん、またね?」

誉先輩はニコッという効果音がつきそうな笑顔で去って行った。
梓はなんだかムスッとしながらも律儀に“おやすみなさい”と言って。
うーん、二人ともかっこよさにスキがない。


二人が見えなくなるまで見送り、自分も寮内へ入った。

自分のためなんかに用意された部屋。
あんな急に転校だと告げたのに…。
星月理事長に感謝と申し分けなさでいっぱいだ。


その部屋に入れば、まだ生活感のない空気に包まれた。
ゲームで見た、“夜久月子”の部屋とは違い、中身のないカラッポな空間。

何もない。空気だけ。

自分が音を立てなければ、耳鳴りすらする。
その中央に座りこみ、ぼぉっと天井を見上げる。


「せーげつがくえん、か」

本当に自分はどうなってしまったのだろう、と改めて考える。

トリップ?
テレポート?
実感が湧かなさすぎる。

まだ、「これは都合のいい夢で、妄想で、理想にすぎない、ただの幻想だ」とでも言ってくれたほうがまだいい。
しかし、こちらの世界に来てからもう、何度ほっぺをつねったことか。
そのたびに“夢ではない”と思い知らされた。

あぁ、家族は私を心配してくれているんだろうか。
私を探したり、してくれてるんだろうか。
まだ、やらなくちゃならないことが、あるんだ。
たくさん、たくさん、あるんだ。

――――のんびりなんか、してられない。


座っていた自分の体を起こし、心を奮い立たせた。
時刻はまだ、夜の7時前。


「―――…」

私は、ふと思いたった場所へと向かった。



* * * * *


「…予想以上」

今、自分の頭上には満天の星空。
小さな星、大きな星、赤や青などの星々がキラキラとめいいっぱい煌めいている。

そう、私は、ゲームでも重要なスポットである屋上庭園に来ていた。


この星空をイラストで見たときは、ただなんとなくみていただけだったけれど、こんなにも綺麗なものだったんだ。
私は、首が痛くなるくらいに天を見上げて、その星々に魅入った。

知らず知らず、魅せられていた。

都会に住んでいたし、こんな自然な星空なんて林間学校以来かもしれない。
それに、流れ星だって。
さっきからいくつも見られていた。


ガチャ――――…


「…ふふ、なんでしょうね。
なんの力ももっていないはずのちっぽけな私が、ここへ迷わず来た理由は貴方なんですよ―――――」

背後から近づいてくる、見なくても分かるような、その堂々とした存在に、ゆっくりと語りかけた。


「――――不知火一樹会長?」
「……」

さらにゆっくりと振り返りながらやっとその人物と目を合わせれば、その表情は自信満々に笑う、いつも画面越しにみていた会長そのものだった。


「俺はお前がここへ来ると知っていたから来たんだがな?」

じゃなきゃ、このお忙しい会長様がこんな時間にこんな場所にこないっつーの!なんて、冗談めかして言うこの人は、やっぱり、なんていうか、お人よしなんだろうって思う。


「それはそれは。ご足労どうも、ふふ」
「おうよ。」


先ほど、私の脳裏に一瞬だけこの人の顔とこの場所が浮かんだ。
ただ、漠然と浮かんだだけ。
それだけだったはずなのに、自分の足は迷わずここに向かっていたのだった。

この存在がそうさせたのか。
はたまた自分の意思なのか。

どちらともつかないけれど。


「――――星詠み、っていうのはやっぱりすごいんですね。
特別視もされるわけだ」
「あ?
んなことはない。別に、全部が全部見えるわけじゃないんだからな」
「私はその、見える一部について話をしているんですよ」

そう言うと、何を考えてなのか、会長はなにも言わずにただ笑った。


夏だからだろうか。
さっきまで晴れていた夜空はいつの間にか雲に覆われ始めていた。


「―――お前が“こちら側”に来ると分かったのは5日前だ。
それこそ、ただ、漠然とだったがな」
「それで?」
「そりゃ、驚いたさ。
なんせ異世界のようなもんから人が来る、なんてな」

会長は、思い出すかのようにとつとつと言葉を漏らす。
どんな、気持ちだったのだろうか。
私には知る由もない。


「あーとにかく、だ。
お前は帰りたいんだろう?」
「まあ、」

「じゃあその方法を全力で探すしかない。
この星月学園の生徒会長様が直々にお手伝いしてやるんだからな、笑顔で元の世界に戻してやる!」


そう、大声で言う会長に、「嗚呼、この人に敵うひとなんてやはりいないのだな」と、強く感じた。
本当にこの人は、偉大だ。
たとえ星詠みの力がなくなったとしても。


「じゃ、俺はそろそろ戻らなきゃならない。
颯斗が恐いからな」
「あは―――そうでしたね。
せいぜい怒られないようにしてくださいね?」

もうくるっと背を向けて出入り口へと進むその背中に、それだけを早口に言った。
返答は、ヒラヒラと振られた右手。それとほぼ同時に、会長の姿は消えた。


「―――ふ」

肩の力を抜いて、短く息を天に向かって吐いた。
あの人には、なんだか妙な畏怖を感じさせられるから。
でも、それは決して気持ちの悪いものなんかじゃないけれど。
むしろ清々しい、みたい。



ガチャ、

「、え?」
「お前に言い忘れたことがあったんだよ」

突然に再び開いたドア。
流石に驚いた。


しかし、驚いたのはその会長の口から出た言葉だった。



「お前は――――――、」

「っ!?」


未来は視える、だけ。


(うそうそうそうそ)
(ほんとうほんとう)
(こんな無意味に裏表一体)
(裏の裏は表に決まってるのに)

fin.




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あきゅろす。
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