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壱。 てんこう



聡明な梓の作戦通りにしようとはしたものの、まさか勝手に教室に行くわけにもいかず、きちんと職員室に出向いた。
途中、陽日先生や郁先生とすれ違ったりして、感激に叫びそうになるのをグッと堪えた。
向こうも、月子ちゃん以外の女生徒が珍しいからか、じっとこちらを見たりしてくるものだから、ドキドキしっぱなしだった。


職員室に入ってからは、梓の独壇場だった。
私の年齢のことなどを舌先三寸口八丁で言いくるめ、思惑通りに“転校”できたのだ。
まぁとはいえ、ペーパーテストは結局のところ受けなきゃいけなかったわけだが…17年間生きてきて、初めて自分の頭脳に感謝した。


「良かったです、架月先輩がバカじゃなくて」
「だろうだろうもっと敬いたまえぱっつんくん」
「…。まぁ僕には敵わないと思いますけど?」
「……。」

腹立つなぁ。
うーん、ゲームのときはこんな憎まれ口も“可愛いなあ”なんて考えていた気もするが―――――気の迷いだったのだろう。間違いない。


「あ、そうだ。一応同学年ってことになるからさ、“先輩”はいいよ」
「そうですか?じゃあ――――架月」
「…っ」

思わず梓に合わせていた目線を軽くふい、とそらしてしまった。
きっと梓は気づいただろう、私の顔が紅く染まったことに。


「せんぱ――架月?」
「なん、で、すか梓クン」
「頬、赤いですよ?」
「…うるさい」

「くすくす―――可愛いですね?」

「…っちょ、」
「あっははは!」
「〜〜っ」

“可愛いですね”、なんて耳元で言われた。
ちょっと真面目な顔して言うなんて、ズルイ。
囁かれて熱くなった右耳を手でおさえながら、からかわないでと言ってやった。つい叫び気味になった…。

あぁダメだ…生きて帰れる自信がない。心臓がもたない。


しかし、本当に大丈夫なのかな。
梓はああ言ったけど、それは一番緩く見積もっての話だけであって…。
本当は…本当は、私がこ ち ら 側に来てしまった、ってだけで手遅れなんじゃ―――――――


「ぬ、梓?」

と、梓の教室へ向かって歩いているところへ後ろから声がかかった。
もっとも、私にかかったものではないけれど。


「あ、翼だ」
「え?…なぁ梓、これ俺の知り合い?」
「知らないけど、違うと思うよ」

知らない、って…。
まぁ私からの一方的な知人だし、しょうがないけど。

うーん、翼かぁ。
ぬいぬいやそらそらに会いたいな。
―――あ、でもそらそらは月子と同じ二年だしぬいぬいは生徒会長…無理かな。
むむ、残念極まりない。


あぁでも、さすが(?)十二星座。カッコいいな…。
ていうか、めっさ肌とかキレイだし。
…羨ましいな。
あと前から思ってたけど、翼は一年生なのに背が高い。
それに比べ梓は…うん。ははは。

ま、とにもかくにも私は翼クンが好きです、ってことで。


「会えて嬉しいな、ダメ会計!」
「初対面、だよな…?…ぬぬ?」
「…」
「なあ梓ぁ、これ誰だよ本当に」
「転校生だよ」
「こんな時期に…しかも女…がか?」
「まぁ、そうみたい」
「…ふーん」

およ?なんだろう、思っていたより翼のテンションが低いな。
普段はこんなキャラなのか…?


「木ノ瀬、天羽。こんなところで何しているんだ、予鈴はもう鳴ったぞ?早く席につきなさい」
「「はーい」」
「おっと、月白さんだね?話は聞いたよ…っていうか、職員室に来た可愛らしい女の子と先生との話を盗み聞きしていたんだけどね」
「はあ…」
「君は紹介するから、ちょっとドアの前で待っていてくれるかな?」
「あ、はい分かりました」

図ったかのようなタイミングで、本鈴が鳴り響いた。
それを合図に、このクラスの担任だと思われる先生も教室内に入っていった。


「ふう…」

軽く一息。
一人になって急に緊張してきた。
しかし本当に、よく私宇宙科に入れたなぁ。
いくら一年生のテストだからといって、決して簡単なんかじゃなかった。
実際、結構余裕な気持ちで臨んだものの、終わった頃には不安が残っていたものだ。

恐るべし宇宙科。

まぁ何はともあれ。
梓(と翼)と同じクラスっていうのは幾分か心強い。
年下に頼るなんて情けない話だけれど。


「月白さん、入って」
「っはい!」

しまった、緊張からつい声が上擦ってしまった。
ガラリ、と静かにドアを開けて一歩踏み出した瞬間、わぁっと歓声が上がった。
私はその声と風景に一瞬たじろいだ。あろうことか、忘れていた。

この学園は、月子ちゃんの紅一点だった、ということを。


「おいおい、まじで女子じゃん!」
「すっげ可愛いな」
「俺らにもチャンスが…」

男、男、男。
男子しかいない。
まるで間違って男子校に入ってきてしまった気分だ。…いや、それもあながち間違っちゃいないが。

でも、少しばかり緊張もほぐれた。
宇宙科は難しいっていうから、もっとガリベン風な人が多いのかと勝手に思い込んでいたが、見事に予想を裏切ってくれた。
だから、少し安心。


「月白 架月です。
長く海外にいたので、皆よりはひとつオバサンですがよろしくお願いします」
「はい、ありがとうね月白さん。じゃあ席は――――木ノ瀬くんの隣でいいかな」
「もちろんです」

梓の席は後ろの方。
教壇からそこまで行く間、視線が痛かった。視線で刺殺されそうなくらいに。
やっぱり、女子というのが珍しいのだろう。

空っぽの席に座り、左隣りに視線をやる。


「改めてよろしく、梓」
「はい。架月は――――とりあえず、気をつけて」
「?」
「何でもないです、気にしないでください。僕が守ってあげますから」
「え、守っ…?は…?」

それ以上は何も喋ってくれなくて、終始ただくすくす笑うだけだった梓。
どうも、話が飲み込めなかったが、梓の様子を見る限りではそんなに深刻な話でもなさそうだから、あえて聞き返しはしなかった。


「はぁ、鈍感な架月に、ひとつだけヒントをあげます」
「…。何?」
「ちょっと耳を貸してください」

そう言われて、素直に少し耳を近付ける。
すると、思いの外近距離に感じる梓の気配。


「架月は誰にも渡しませんよ」

「…っはい?な、何言ってるの?」
「架月のいいような意味で取ってくれて構いませんよ?」
「ば、馬鹿じゃないの、からかわないでよ」
「えー?」



やめてよ、心が揺れる


(私を留めないで)
(いつまでもココには存在できない)
(別れは最小限がいいの)

(私のココロを留めないでください)


fin.


・・・・・・・・・・・・・・

翼登場ー!
彼可愛い可愛い愛してr(自己規制

四季くんをやってる宮野の声を聞きたい今日この頃…。
四季くん四季くん。
まも、だったよね?あれ?



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あきゅろす。
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