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アーザの火
※微温いR18 20

 扉の取っ手を回すと、鍵はかかっていないようで簡単に開いた。中は薄暗く、地下倉庫へと通じる階段がどこまでも続いてるかのようだ。御堂も黙って国定の後ろからついてくる。
 階段を降りていくと、重圧感のある木目調の扉が立ちはだかった。この先に内海がいる――。確信した国定は生唾を飲み込み、3年ぶりの再会に一際胸を躍らせて扉を開けた。


――最初に目に飛び込んだのは、内海の背中だったが、それは見慣れていたはずの後ろ姿ではなく、肌色が国定の視界の全てを覆い尽くす。
 

 そう、内海は全裸姿だったのだ。何が行われているのか理解さえままならず、内海の下で組み敷かれ、甘い嬌声をあげているのも……同じ性別の黒翼の男だった。

「……あ…ンッ!内海…ぐん…そうッ!もっと…ッ!」

 男の癖に女のように媚を含み内海を強請る声色が、国定には酷く耳障りで反吐が出そうだった。御堂もまさか“指導”の実態が性交だとは思いもよらず、手で目を塞いでいた。
 内海は地下倉庫に侵入した者の存在に気づいているようだが、行為の手を緩めようともせず

「“指導”中は邪魔しにくんなっていうてるやろ―?緊急事態でも起きたん?」

 悠長に構えていて、こちらを一切顧みようともしない。ほとんど反射神経と本能の赴くまま――国定は内海の側に近づいた。

「何が“指導”だッ!この、色情魔がッ!!てめぇなんか、死んじまえクソ野郎―――ッ!!!」

 聞き覚えのある声に、ようやくこちらに振り返ろうとした内海の顔面を、国定は全身全霊かつ渾身の力でぶん殴った。

 派手に吹っ飛ばされた内海は、倉庫内に並べられた樽へと激突していった。組み敷かれていた男も、内海と接合していたので一緒に吹っ飛ばされる。
 振動で、積まれていた他の樽や木箱も盛大な音を立て、一斉に崩れ落ちた。御堂は国定に激しく同情するも、内海が殴られ“いい気味だ”と心のどこかでほくそ笑んでいる自分に嫌悪する。

(何を考えてるんだ俺は……ッ!国定がショックを受けて傷ついてるのにッ!)

 内海は血と折れた歯を口から吐き出すと、仁王立ちし怒り心頭の国定を下から見上げた。

「くに…さだ、お前なんでここにッ?!いや、軍に入隊したのは……知ってたんやけど…」

 しどろもどろで言い訳する内海に、当然の如く国定は気が収まらずに髪の毛を鷲掴みにする。

「じゃあ何で真っ先に俺に会いに来なかったんだよッ!!俺はお前を追って…わざわざ軍にまで所属したッ!!なのに、てめぇはッ!女ならともかく“指導”と称して野郎と寝るのが職務かッ!?ふざけんじゃねぇぇえええッ!!」

 また内海を殴ろうと拳を振りかざした国定を、慌てて御堂は後ろから羽交い絞めにして抑える。

「国定ッ!!これ以上軍曹に暴行を加えたら、除隊されるか死罪になるッ!!もうやめろッ!」

「離せよ御堂ッ!!内海ッ!お前なんか俺の居場所でもなんでもねぇッ!ただの“腐れ縁”だッ!!!」

(お前にとって、シャーマや俺の存在さえ本当はどうでも良かったんだろッ?!大切でも特別でもないから、平気で他の人間と寝たりできるんだろうがッ!!)

 国定の切なる思いは打ち砕かれ、3年越しの再会も呆気ないほど最悪な展開で幕を閉じた。
 内海はそんな国定を尻目にかける。

「……ハナっから言うてたやん、側にいても離れてもええて。失望するんも勝手にしたらええけど、このまま軍には残るん?もうわいを理由にせんで、好きにせぇよ」

 開き直った内海の態度はある意味では清々しいが、この言葉は国定の逆燐に触れる。

「てめぇを理由に軍まで辞めてたまるかッ!!俺は絶対にお前より上の階級に昇りつめてやるッ!!覚悟しとけよッ!」

 闘争心に火が付いたのか、内海は唇の端をつりあげた。

「上等やん。やれるもんならやってみぃ?死ぬ気でな」

 互いに睨み合ったまませめぎ合っているが、御堂は2人の表情に嬉しさも滲んでいるのを感じ取っていた。

(……素直に言えないんだな。本当は、内海軍曹の側に誰よりも近くにいられる場所が軍だから残るんだって――)

 内海の“指導”を目撃した国定は、今日(こんにち)に至るまで“腐れ縁”と言い続けて突っぱねるも、ライバル同士となり軍で切磋琢磨してゆくのであった。


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