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アーザの火
11
 江月と内海は腕組みをし、3人の元へと近づいてきた。副官というよりまるで恋人のような2人は、黒翼と白翼で、しかも同性同士とあってはとても物珍しいので、真白は無意識に凝視してしまう。
 やがて、江月が真白の視線に気づいたのか『なに?』と迷惑気味に冷たく告げる。

 隣にいる内海は特に気分を害してはいないようで、むしろ好奇の目に慣れているといった有様だ。
 真白は視線を宙に彷徨わせ、しどろもどろになりつつ、2人に対し軽く頭を下げた。

「あの……さ、白翼と黒翼って…普通恋人にはならないから……不快にさせたのなら謝るよ」

「なんや、別に気にすることないで?ってか、わいら恋人じゃないんやけどな?」

 内海の言葉に続いて、江月も同調する。

「こいびとじゃない。おれはうつみのぺっと」

 国定と部下は、さもこれが当たり前のように見慣れているが、真白の反応だけは他の2人とは違い、素っ頓狂な声を上げる。

「ペットぉッ?!さっき副官って言わなかったっけッ?!」

 突然発せられた大きな声量に、困惑した江月は、両手で耳を塞いでいる。

「こえ、おおきい。みみ、いたくなった。おれはふくかんだけど、それは…ただのやくしょく。ほんとは、ぺっと」

 江月がそう言うや否や、真白はこめかみを抑え、内海を鋭く睨む。軽蔑の色を一切隠そうともしなかった。

「……こんな、精神的に未成熟な子にッ!アンタは何してんだよ――ッ!!」

 両手は拘束されていたが、足は自由だったので、真白は内海を蹴り飛ばそうと右足を掲げた瞬間――

「うごくな。うつみにこうげきするものは、はいじょする」

 喉元に短剣を押し当てられた。刃が白い肌に軽くめり込み、血が滲む。
 腰にぶら下げていた短剣を、いつの間に引き抜いたのか、真白には認識できなかった。

 江月の動きには寸分の無駄がなく、精練されていた。内海に蹴りが当たっていたら容赦なく首が掻っ切られていたかもしれない。
 生唾を飲み込むと、内海が『江、これは殺したらあかんで』と呑気に注意していた。江月は不服そうに頬を膨らませている。

「でも、このおんな、うつみを、けろうとしてた」

 未だ短剣を真白の喉元から離そうとしない江月をみた内海は、表情を一変させ、唸るような低い声色で凄みをきかせる。

 
「江、言うこと聞かへん子はお仕置きやで」

――戦慄が走り、背筋が凍りついた。今は江月よりも、内海の方がよほど末恐ろしいと真白は恐怖で身体が硬直する。
 江月を牽制しているだけなのに、まるで銃の引鉄を引かれたかのような、命の危機に晒された緊張感が走る。
 軽口を叩き、いつもの陽気な姿はどこにもなく、殺気だけが溢れ出ていた。

 空間が圧迫され、呼吸すらままなくなるような感覚が、ひどく苦しい。

――これが、古城で元帥の役職につく者なのか と真白は力の片鱗を垣間見た気がした。

 江月も恐怖で肩を震わせ、泣き出したいのを我慢し、唇を噛み締め堪えている。

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