アーザの火
10
国定は間髪入れずに言い放つ。
「偽善で綺麗事だな。散々命を弄ばれ、利用するだけ利用されたのを はい、そうですか で済ませられる人間ばかりなら
戦争、差別、奴隷制度など最初から生まれはしない。白翼が強者になれば、再び嬉々と黒翼を“奴隷”にするだろう」
水面下で火花を散らす国定と真白は、互いに睨み合ったまま、両者とも一歩も譲らない。
場が険悪な雰囲気になるが、先に沈黙を破ったのは真白だった。
「やめよう。ここであんたと言い合ったところで現状は変わらないし。
ま、僕は白翼じゃないけど……これから軍で“モルモット”になるんだから、奴隷も同然だよ。
いや、奴隷のがまだマシかもね。そりゃあちょっとは……白翼の境遇と自分を重ね合わせて、感情的にもなるさ」
渇いた声が響く。真白は無理やり笑顔をつくっていた。
部下は口を開けてぽかんとしている。
真白を未だ黒翼だとしか知っておらず“モルモット”つまり、実験体にされるという発言に対し、部下は異を唱えた。
国定は顎に手を当て、何か思案している。
「モルモットぉー?何だそりゃ?お前はこれから裁判にかけられ、罪状を言い渡された後、牢獄で服役するんだろうよ」
自分には関係ないのだと、部下はあまり深く考えずに述べた。
真白の言葉を、国定は一つ一つ記憶を手繰り寄せて思い返す。
“僕は白翼じゃない”
“1つ、ヒントを教えてあげる。僕自身もお前等のような“魔法”は使えない”
魔法が使えない時点で、黒翼ではない。
“こっちはあんた治療するのも大変だったんだからさ。で、そこのピンク頭は騒ぎすぎ。おかげで集中力が途切れるところだったよ”
あの時は内海との仲を誤解され、憤りで頭がいっぱいになっていた。
内海には、真白が白翼の医者を紹介してここに連れてきたとだけ簡単に説明された。
……中にいた老人が国定を治療したとは一言もいっていない。
――実際に治療を施したのは真白ではないか?
国定の中に突き刺さっていた刺のような疑念は、やがて確証へと変わる――
(やはりこいつは、黒翼でも白翼でもない――新たな種族だ)
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