アーザの火
5
涙目になりながらも、そのまま国定を強く抱きしめる。声色も微かに震えていて、よほど心配だったのか、内海は暫く離れようとはしなかった。
流石に暑苦しくなってきたのか、国定は内海の腕の中で抵抗する。
「痛てぇよ…馬鹿が。つーか、とっとと離れろ」
「なんや、見られて感じとるんか?」
「……頭湧いてんのかテメェ」
「照れんなや。身も心も全部知り尽くしてるわいらの仲やんけ!」
「誤解を招く発言してんじゃねぇッ!!」
元在も真白も面食らったように2人を眺めていた。真白の額からは汗が滲んでいて、さも不愉快そうに両腕を組み、つかつかと2人の間に割ってはいる。
「あのさぁ、あんたら恋人同士なんだろうけど、人前でいちゃつかないでくんない?
こっちはあんた治療するのも大変だったんだからさ。で、そこのピンク頭は騒ぎすぎ。おかげで集中力が途切れるところだったよ」
「誰が恋人同士だッ!!男同士だぞ、んな訳あるかッ!こいつとは只の腐れ縁だッ!」
すかさず国定が真白に主張する。内海はその様子に腹を抱えて笑っていた。
「わいは嘘は言うてへんで?」
「……テメェ、古城に戻ったら覚悟しとけよ」
国定が一方的に内海に対し怒りを露わにしているが、内海は全く意に介さず、のらりくらりと受け流す。
けれど、真白はどこか納得がいかないような素振りを示す。
「ふーん、幼馴染って奴ね。でも同性同士って黒翼の間じゃ珍しくなくない?黒翼って確か繁殖能力高くないから、
必ずしも異性同士が恋人って訳じゃないんじゃなかったっけ」
黒翼は白翼に比べると子孫を残しにくい。
2つの種族とも、祖先は鳥類であるとの見解が強く、ある者は猿の進化だと唱えるが、それだけでは背中に生えた翼の理由は説明がつかない。
黒翼の場合、子供は卵から孵化する。しかし、母体は介さず性交では生まれない。
樹木が実を結び、やがて固い殻に覆われた卵へと変化し、孵化する。
一方、白翼の場合は、以前まで精子と卵子を身体から直接取り出し、機械の人工子宮で製造し、人口を飛躍的に増加させていた。
今では黒翼体勢主義の元、全面禁止にされているが、数少ない研究施設で白翼は製造で生みだされている。
黒翼も白翼という“奴隷”がいなくては色々と都合が悪いのだ。
機械や研究など、自然破壊の源を根絶に掲げながらも、裏では一部の研究施設や工場を黙認している。矛盾は当たり前のように蔓延っている。
だからこそ白翼は、水面下で武器を製造でき、各地でテロが絶えないのだろう。軍の仕事は増えるばかりだ。
国定は真白にむかって、面白くなさそうに吐き捨てる。
「……一般論を俺に当て嵌めるな。大体何故お前がここにいる?」
内海は、真白が白翼の医者を紹介してここに連れてきたとだけ簡単に説明した。
光り輝く未知なる翼の力で、真白が治療したことは伏せて。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!