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見失った愛
The lost love


眩しいほどの光を感じ、重い瞼をゆっくりと上げた。
真っ白いシーツの上に寝かされている僕。
ここは、どこなのだろうか。
どうして、僕はこんな場所にいるのだろうか。
やっと決心してアイツに別れを告げようとアイツの自宅に行って、それで。
見たくないものを見てしまった。
それ以上、そのことを考えようとすると酷い頭痛に襲われた。

「あ、」

大きな窓の側に立つ、人影。
逆光になって表情は窺えないが、とても優しい雰囲気がする。
目を細め、僕はその人の顔を窺い知ろうとした。
その人は僕が眩しくないようにカーテンを引き、こちらに近づいてきた。

「おはよう」

一瞬で、目を奪われた。
光の筋のようにキラキラした金の髪、水晶のような蒼い瞳、まるで西洋人形のようだった。
綺麗とは、まさにこの人のためだけの言葉に思えた。
白い陶磁器のような手が、僕の額に当てられた。
冷たいけれど、心地好い手だった。
何だか少し懐かしいような気がした。

「気分は悪くない?足、怪我してたから手当させてもらったよ」
「大丈夫です……ありがとうございます」
「君、三日も目を覚まさないから本当に心配したんだよ」
「みっか……」

この人は、なぜ知らない僕のことを助けてくれたのだろうか。
三日も眠ったままの僕は、迷惑じゃなかったのだろうか。
でも、どうして僕は生かされてしまったのだろうか。
あの時、僕は死んでしまえればいいと思っていた。
そうすれば、嫌な現実から逃げられると知っていたからだ。
裏切られた悲しみが僕の心を埋めつくしていた。
そして、僕はアイツの罠にかかりゲームに負け、いとも容易く壊れた。
考えたくないのに思考がとまらない。

「あの、えっと……貴方は誰ですか?」

少し拍子抜けしてしまったみたいで、きょとんとした顔で僕を見た。
けれど、すぐに笑顔へと変わり、ベッドの側にあった椅子に腰掛けた。
行動のひとつひとつが優雅で、本物の人形にしか思えない。
とりあえず僕は上半身を起こした。

「俺は白雪 志乃、よろしくね」
「あ……僕、春夏秋冬 迺音です」
「珍しい名前だね……迺音って呼んでもいいかな?」
「はい」

白雪さんの優しい雰囲気に癒される。
細やかな気遣いがあって、独特の優しい雰囲気を持っている。
今まで僕の周りにはいなかったタイプの人間だ。
僕は、いつも孤独の中に一人いたような気がしてたから。
だから、心がこんなに穏やかになる。

「姫乃がね、迺音を連れて帰ってきた時は本当にびっくりしたんだ」
「ひの?」
「あれ、知り合いじゃないの?」

僕は首を左右に振った。
すると、頭を抱えて悩み始めた白雪さんは、知り合いじゃないんだと呟いた。

「ごめんね、ちょっと姫乃呼んでくるから待っててね」
「あ、はい……」

白雪さんは、足早に部屋を出て行った。
取り残された僕は、ぼんやりと部屋を見渡した。
全体的に白を基調としたずいぶんと広い部屋だった。
現在進行形で僕が横になっているベッドも天蓋付きで、余裕で三人は寝られるくらいの大きさだ。
部屋の外では、パタパタと人が忙しなく動く音が聞こえてくるあたり、裕福な家であることは確かだ。
持っている人間は、何でも持っているのだと改めて思った。

「お前は、それで満足か……?」

アイツも持ってないものなどなかった。
何かを失っても、すぐに新しいものを見つけられる。
いや、失ったことにすら気づけない。
だけど、僕は違う。
一度失ってしまえば、それを埋めるそれ以上のものは二度と手に入らない。
失ったことに絶望して、生きる意味を見失った。
結局、大切なものを失ったのは僕だけ。

「最後まで、お前は嘘ばっかだったな……」

その嘘に騙され、傷ついた僕は本当に馬鹿だった。
だけど、それで僕は気づかされたことがある。
ひとつは、人は簡単に嘘が吐けること。
もうひとつは、愛しても愛される確証はないこと。
そして、永遠なんてものはこの世に存在しないこと。
知ってしまえば、なんてことはない。
愛なんてものは、一時の気の迷いのようなものだ。
そこに相互的な想いはない。
誰かを愛することに何の意味もない。

「僕は、もう誰も愛さない」

アイツは如音に、如音はアイツに、愛を捧げればいい。
愛なんてものは、相手を縛りつける枷にしかなり得ない。
僕はもう誰にも裏切られたくないし、何も失いたくない。
だから、僕を愛さないで。
愛は、枷にしかならないから。



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